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竜姫の葬送騎士 ―その少年、滅びの力を以て最愛を守る―  作者: フォンダンショコラ
第1部 終章 異心は制裁とともに

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エピローグ

 全身を包む柔らかな心地よさを感じている。意識はゆらゆらとたゆたうように揺られていた。

 この感覚には覚えがある。そうだ。あの時だ。自分が城から落ちて、傷つけて、契約して―。

 自分はまた意識を失ったのか。それともやはり死んだのだろうか。

 ………。

 それも仕方ないかなと思った。多分自分はたくさん迷惑をかけたのだろうと思う。だから殺されても仕方がないかなと思った。

 ―。

 ただ、あの銀月のように美しい少女を泣かせたくないと思った。いや、まって、自分が死んだら孤児院はどうなるだろうか。ああ、そういえばノアや、レヴィンと打ち上げをやる約束をしていた。そして栗色の髪の毛の女の子。まだ感情の置き場がわからないけど、また話したいと思った。

 なんだ、未練タラタラじゃないか。死にたくないなと思ってしまった。ああ、未練ばかりなんて幸せじゃないか―。

 不意に―

「…ウくん」

 名前を呼ばれた気がした。まぶたの裏に光を感じる。

 ゆっくりと、水底から浮上するようにコウの意識が覚醒していく。

 そして目が覚めるとそこには―

「おはようございます」

 見知らぬ天井ではなく、きれいなアメジスト色の瞳と目があった。

「お、おはようございます。ええと、リリィ?」

「はい。リリィです。おかえりなさい。コウくん」

 そう言ってはにかむように笑った。

「ただいま、助けてくれてありがとう」

 ぎこちなく笑って見せる。

「僕はどれくらい眠っていたの?」

「半日くらいです」

「もしかしてずっとここに?」

「あ、えっと、はい。いつ目覚めるのかなって」

 ずっといてくれたのだという。どうやらすごく心配をかけてしまったようだ。

 コウは頬にそっと手を伸ばした。その手に布の感触。それはィリーリアの頬に巻かれた包帯だった。

「―これっ!もしかして僕がっ」

 また傷つけてしまったのか!自責の念にかられ咄嗟に謝ろうとしたコウの口を、ィリーリアの細い人差し指がそっと制した。

「あなたのせいではありません。私の名誉の証です」

 そういってにっこりと笑って見せるが、よく見たら腕にも包帯が巻かれている。竜族の回復力や治癒魔法を持ってしても治らないダメージを受けているということではないのだろうか。

 なおも心配そうにしているコウの様子にィリーリアはおどけて見せた。

「治癒のエンチャントされている包帯なのですが、アーティやレムが大げさなだけです!これがなくても明日には綺麗に治っているというのに、やれ肌に傷が残ったら~などと言うことを聞いてくれないのです。わたし、これでも女帝なのに!」

 プリプリとわざとらしく怒って見せるィリーリアの様子があまりにも可愛らしく見えてしまい、コウは思わず吹き出した。

「フフ」

「あ、なんで笑うんですかー!」

「あはは」

 手を振り上げて、なおも怒っていますアピールをするィリーリアの様子にコウはありがたく乗らせてもらった。

 たくさんいろんなことがあって、いろんなことを話さなくちゃいけないけど、今はこの時間を楽しみたい。

 戻ってきたんだから。

 病室からは二人の笑い声が絶え間なく響き渡った。

 

◇ ◇ ◇


 一割、二分、三平方キロメートル。

 これはそれぞれ、近衛、街の衛兵、森の消失を含む被害範囲を現したものだ。

 すなわち、近衛の十パーセントが裏切り者でありであり、処刑され、街の衛兵の二パーセントが協力者として粛清され、森や街が実に三平方キロメートルほど被害を受けたのだ。

 被害としては思ったより多くの近衛を失い、思ったより少ない数の衛兵を粛清するにとどまり、大部分は森の被害で収まったので、結果から見れば、市民への被害はほぼないと言って良かった。

 もっとも近衛兵の反乱という情報は操作され、裏切り者としてではなく、栄誉ある死を偽装するため、架空の遠征に赴いていることにするなど、主にフゥとアーティは情報操作と事後処理に追われる事となった。


「――以上が、損耗率の報告だ」

 アーティが報告書を机に置く。四王とィリーリアが集まる会議室は重い空気に包まれていた。今しがた行われたアーティの被害状況の詳細が想定以上に重かった。

「一割、か。しかもダグの奴が抜けた穴は大きいな。ただでさえ近衛や衛兵の数が戦争で減ってギリギリだったんだ。城と学校、両方の警備網を維持するのは物理的に不可能だ」

 ラナが頭を抱え、重くため息をつく。

「コウのやつを城に戻すか? 地下牢なら安全だぜ」

「駄目じゃ。あやつは先の件で閉鎖空間にトラウマを持っておる。城に閉じ込めれば、精神が摩耗し、滅剣が暴走しかねん」

 フゥが首を振る。

「ならば、逆の発想ですわ」

 レムが地図の上に駒を置いた。城にある『女王』の駒を、学校の位置へ。

「守るべき拠点を二つから一つへ。姫様が学校へ行けばよろしいのです」

「なっ!? 姫様を城から出すだと!?」

 クイッとモノクルをあげてレムが説明を続ける。

「城はいま、ダグの手引きで穴だらけですわ。むしろ、ゼクトが目を光らせ、結界を張り直した学校の方が安全とも言えます。それに……」

 レムは視線をィリーリアに向ける。

「滅剣の暴走を止められるのは、現状、姫様だけ。ならば、片時もおそばを離れないのが、最強の安全策かと」

 他のメンバーに気づかれないようにレムがィリーリアに小さくウィンクしてみせた。

「…………」

 ィリーリアは少し驚いた顔をしたが、すぐに頬を朱に染め、コホンと咳払いをした。

「……四王がそう言うのであれば、致し方ありませんね。ええ、全ては安全のため。コウくんの暴走を止めるためです。決して、私がコウくんと一緒に学校に通ってみたいとか、制服を着てみたいとか、学校というものに通ってみたいとか、寮のご飯が美味しそうで羨ましいとか、そういう私情ではありませんよ?」

「「「(絶対に私情だ……)」」」

 レムを除く三人の王の気持ちが重なった瞬間であった。

 発案者のレム本人はたおやかに笑いながら楽しそうに言った。

「では、ゼクトへの申し付けはフゥ様にお願いするとして、姫様には入学の準備をしていただかないとですわね」


◇ ◇ ◇


 帝国のとある尖塔の中にあるその空間。薄ぼんやりと輪郭が見えるだけの昏い部屋は普段とは違った重圧に包まれていた。

「幻惑のアルラウネが作戦に失敗した」

 しゃがれた男の声が響く。

「当の本人はどうした?死んだのかえ?」

 老婆のような少女のような女の声が楽しげに言った。

 その言葉にしゃがれた声の男が首を振ってみせる。

「死んではいない。だが身バレしたからしばらく隠れますと書き置きを残してどこぞに消え失せた」

「「「「は?」」」」

 その声は部屋の作りのせいか反響し、誰が発したのか判別がつかない。いやもしかしたら全員だったのかもしれない。

「いやいや、まてまて、ふざけんなよ?あいつはあれで影将だろ?いいのか?いやおかしいだろ、なんで誰も探しに行かないんだ?おいなんでだよ!」

 女の声がヒステリックに喚き散らした。老人の声が答える。

「四王すら煙に巻く幻惑のアルラウネが本気で逃げたのだぞ?誰が追えるんじゃ」

 それはあまりにも正論だった。まだ若いにも関わらずその腕は超一流。現実すら書き換える類まれなる才能を有している。本気で隠れられて、逃げられたら誰にも捕捉できないだろう。

「まあ、いいんじゃない?まだ策はあるんでしょう?」

 子供の声が嘲笑うようにいった。

「ああ、もちろんだ。なに、今回の作戦で近衛をかなりの数削ったのだ。奴らの警備の穴は埋まるまい。作戦には失敗したが、戦果がないわけではない。次の策に繋げば良い」

 その言葉を最後に、部屋は暗転する。

 全ては暗闇に堕ち、消えた。


第一部はこれでひとまず完了です。


つぎは、舞台を学校生活を主として展開する予定です。

楽しみにしていただけると嬉しいです。


また、ここまで読んでいただいた方に、できればですが感想をいただけますと幸いです。

第二部気になります!とかでも励みになるので。

よろしくお願いします

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