第15話 侵食する赤、暴食の黒
今回は長いです。。分けようと思ったのですが、難しく。。
「しまっ――小童!」
フゥがミリアへの追撃を止め、振り返る。
コウの瞳から光が消え、ただ破壊を撒き散らす漆黒の奔流が渦を巻いていた。ミリアの幻術が、『滅剣』にまつわるトラウマを刺激し、強制的に暴走させたのだ。
「見て……ほら、ちゃんと使えるから……やめてよ……!」
理性を失ったコウの周囲で、空間そのものが黒く侵食されていく。フゥでさえ安易に近寄れないほどの密度の殺意。
コウの体から赤黒いオーラが立ち上り、まるでクモの巣のように縦横無尽に黒いウネリが張り巡らされる。
それは生命力を奪う。触れた草木が生命を吸われ、枯れ果てそして燃える。それは血管のように脈動し生命のように増殖していく。
「くっ!」
襲いかかる黒い触手を切り払い、飛び退き距離を取る。コウは光のない瞳で涙を流しながらうわ言のように「見て」「やめて」と繰り返している。
理性を剥ぎ取られ暴走させられている。コウの中で赤黒い触手が吸収した命が魔力となり急速に溜め込まれているのをフゥは感じた。
それは制御できず、あらゆる生命力を無尽蔵に吸い込んでいるように見えた。このまま吸い込み続ければ。いずれ器が耐えきれず破裂することは容易に想像ができた。
「さようなら、コウくん」
混乱に乗じ、ミリアが姿を消そうとする気配をフゥは感じ取っていた。だが、今のフゥにはそれを追う余裕がない。襲い来る触手に対処するので精一杯だった。
「アアアアアアッ!!」
コウの絶叫と共に、黒い衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
「せいっ!」
気合一閃。フゥが迫りくる黒い衝撃波を剣圧で吹き飛ばす。その行為が敵対しているように見えたのだろう。理性を失った赤黒く燃える瞳でコウはフゥを憎々しげに睨む。
その視線を一身に受けてなお、フゥは笑った。
「面白い。この儂に喧嘩を売るとは見どころがあるのぅ」
「ガアァァッ!」
ドン、と音を置き去りにする速度でコウが飛び出した。
(素手でくるか!)
そう思い身構えたフゥだが、チリチリと総毛立つような冷たい悪寒が走る。
素手と思って受けてはいけない。そう勘が告げる。
フゥは勘に従い振るわれたコウの拳を切り払った。
ガキンッ
とても素手に当たったとは思えない硬質な音がした。
「なんと―」
驚愕にフゥが声を上げる。
コウの拳を切り払うために振るったフゥの剣は、いつのまにか、コウの手に握られていた漆黒の剣が防いでいた。
その剣はまるで生物のようであった。
剣の全体に凝った意匠が施されている。黒い剣身は磨き込まれ鏡のようだし、柄は幾何学模様が彫り込まれており優美でさえある。いっそ聖剣と言われても納得してしまうほどだ。
にも関わらず、それを全て台無しにしているのが、剣身を巡る赤黒く脈動する血管のようなもの。それが剣を禍々しいものにしている。
フゥはそれを見て直感した。これこそが滅剣なのだと。
「なんと禍々しい―はっ!」
フゥは強引に押し返し、後ろに飛んで距離を取った。いや、コウを弾き飛ばそうとして、自分が弾き飛ばされたのだ。
フゥのこめかみに冷や汗が流れる。
「まさかわしの方が弾かれるとは思わなんだ」
手加減していたとはいえ、後ろの木に叩きつけてやるくらいには力を込めたのだ。
ズズズ・・・と何かが這い回る音が聞こえた。
コウの足元にはのたうち回る赤黒いオーラが触手のようにまとわりついている。
「なるほど、からくりはそれか」
コウは自分の体を地面にはう赤黒い触手を使って固定していたのだ。脚だけではない。おそらく体中触手で補強されているのだろう。脚だけ固定していたのであれば固定していない場所が折れているはずだ。
フゥの予想を肯定するようにコウの服の裾からチロチロと赤黒い触手が見えている。
コウはこちらを伺うように油断無く視線を向けている。
どうしたものか、と何気なく瞬きをしたその一瞬で、コウの姿は消えていた。
フゥの視界の右端から赤黒いものがちらりと見える。
(しまっ―)
衝撃がフゥを吹き飛ばした。バキバキと森の木々をなぎ倒しながらフゥは30メートルほどの距離を飛ばされる。
咄嗟に剣を盾にできたのは僥倖だった。
ひょいっと体のバネを使って起き上がる。ダメージはない、いや。体に少しの違和感を感じる。
(これは…生命力を吸われておるのか)
体の中の生気が無くなっている気がする。エナジードレインという生命力を吸い取る魔法があるが、それを受けた時の感じに似ているから間違いないだろう。
「なんともはや、やっかいじゃな」
当てられてはいけない、防いでもいけないうえに、そこらじゅうを這い回る赤黒い触手に触れてもいけない。さらに相手は赤黒い触手を使って、動線を無視した変幻自在な機動力はまさに蜘蛛のようだ。
ああ、蜘蛛とは言いえて妙。巣に入れば絶死。領域を縦横無尽に動き回り、捕まえた獲物の生命力を吸い取るのはまさしく蜘蛛そのもの。
「やっかいじゃ、やっかいじゃ」
顎髭を撫でる。困ったものだ。
実力はまだまだ自分のほうが上。であるにも関わらず滅剣のもつ特性が実力差を無視するほどの厄介さときた。なるほど、これでは手加減ができないかもしれない。
フゥの目が細められる。
コウは追撃するつもりはないのか、滅剣を振り切った体勢のままその場にとどまっている。
本人に意識がないようで、何事かうわ言のようにつぶやきながら、体から赤黒いオーラをだして、森を侵食している。こちらに対して注意を払っている様子はない。周囲に強力な生命体がいなければ、自らの領域を広げることを優先しているのかもしれない。
赤黒い触手はコウを中心に20メートルほどに広がっている。それは地を這い、触れた木々や草花に絡みつき生命力を搾り取って、侵食しているようだった。
どうやら接触すると生命力を吸われるようだ。まさに今、それに侵食され枯らされた木から散らされた緑色の葉は地面に落ちるまでは青々と瑞々しいが、地面に落ちて、それに接触すると茶色く変色し、枯れてしまう。
(あれに触れなければ問題ないということか)
そうであれば近づくことはできる。見たところ触手と触手の間に隙間は十分あるようにみえる。つまり足場があるということだ。
(なに、空中に張られたロープの上を走るより容易いわい)
膝を曲げ、脚に力を込める。次の瞬間、音もなくフゥがその場から消えた。
タタタタタン!
30メートルもの距離を一瞬で駆け抜け、無防備に佇むコウの眼前にフゥは現れた。大地を蹴りつける小気味よい音が遅れて届く。
フゥは到達すると同時にコウの顎目掛けて掌底を放つ。
(終いじゃ!)
それはラナですら反応ができないほどの超高速移動からの最速の一撃。防ぐことなど到底不可能な一撃だった。しかし――
――ぞわっ。
勝利を確信したフゥは言いしれぬ不安を感じる。
「くっ!」
放たれたフゥの掌底はコウに届くことはなかった。その前に本人が飛び退ったのだ。フゥが飛び退いたその瞬間、フゥのいた空間を槍状になった赤黒い触手が無数に貫いていた。
あのまま掌底を当てにいっていたらフゥはおそらくあの槍に貫かれていたであろう。生半可な武器では貫くことなどできない竜族の皮膚だが、あの赤黒い槍は本能的にまずいと感じた。おそらくあれに防御という概念は通用しない。
「アアアアアアっ!やめてくれ!燃やさないでくれ!!いなくなるから、お願いだから!」
天を仰ぎ苦しげに叫び声をあげるコウ。なにかに触発されたように頭を振り乱し、何かを振り払うように手を振るっている。そして不意にフゥに赤黒い炎を宿した視線を向ける。
(くるかっ!)
フゥが弾かれたようにコウの視界から逃れるように横に飛んだのと、フゥがいた空間にコウが手をかざしたのは同時だった。
フゥのいた空間に無数の赤黒い槍が槍衾のように生えた。それは周囲に這っている赤黒い触手から伸ばされていた。
「僕は、いちゃいけないんだ!」
悲痛な声とともにフゥを追いかけるように視線と手を動かしていく。それに呼応するかのように視線を向けられた箇所に次々と槍衾ができていく。
コウの姿は痛ましい。早く解放してやりたいとフゥの中に焦燥感が募る。
フゥはコウの視線に入らないように木々の間を塗って、たくみにコウの死角に入るため、直撃させられない。
(これならどうじゃ!)
再びフゥの姿が霞のように消え、コウは見失う。
フゥが姿を現したのはコウの直上だった。背中から黒い翼を生やし、宙吊りにされているような体勢で綺麗に静止している。まるで見えない天井に張り付いているようでもあった。
フゥの手が静かに剣の柄を握りしめると、ゆっくりと落下し始める。
(一刀奥伝《落水》)
滴り落ちる水のようにフゥは静かにコウにむけて落ち、ぶつかるその刹那、フゥが体をよじり回転。
それは高速の斬撃となり、コウの体を切刻む!
ガガガガガガッ!
激しい金属音がフゥの攻撃を阻んだことを物語った。
反撃を警戒し、即座にフゥは離脱しつつ、コウの視界から逃れ、森の藪にさっと隠れると息を潜め様子を伺う。
赤黒い槍が斬撃からコウを守るように囲んでいた。それらはゆっくりと空気に溶けるように霧散する。中にいたコウは頭を抱えて何事かうわ言のようにいっている。まるでフゥに攻撃されたことなどなかったかのように。
(やはり、か)
二回のやり取りでフゥはコウの大体の能力を把握した。
一つ目は、赤黒い触手をつかった相手への移動制限と、自身の移動補助。
二つ目は、触手から伸びる槍による攻撃。赤黒い触手から対象へ伸ばすことができるが、コウの視界に入っていることが条件のようだ。
そして三つ目。自動防御。厄介なことこの上ないのだが、コウが反応できないほどの超速攻撃だろうが、意識の範囲外からの攻撃だろうが勝手に防ぐものだ。しかも赤黒い槍の強度は並の攻撃ではびくともしない。
(これはいよいよ手加減なんぞできなんだ)
殺す気でいかなければ、まずいとフゥの経験則が告げる。無尽蔵に生命力を吸い上げる滅剣は明らかに刻一刻とエネルギーを蓄えているように見える。このまま続けはいずれその力は破裂し大きな被害をもたらすことは想像に難くない。
(姫様のエンゲージ相手ゆえ、生かしておきたかったのじゃが…仕方あるまい)
一瞬、フゥの脳裏に、不器用ながらも剣を振っていた少年の姿がよぎる。だが、それは瞬きと共に切り捨てられた。黒竜の王であるフゥは他の王と同じく、将軍としての一面も持つ。ただし彼は暗部。諜報や間諜、必要であれば潜入、破壊工作、そして暗殺といった汚れ仕事を行う。
彼の優先順位において第一は国益ひいては皇族への貢献。それ以外は二の次だ。国家のため、皇族のためならば、たとえ皇族に恨まれようとも非情で卑劣な判断を下せる。それがたとえ、皇族の竜騎士であろうとも、ましてや自身が一度は騎士の素質を認めた相手であろうとも。
フゥの目の色が変わる。コウを見る目が保護対象から殺害対象に。そこにはもう、好々爺の慈愛は欠片も残っていなかった。
(せめて苦しまぬよう、一太刀で終わらせてやろう)
それはどんな技なのだろうか。
おもむろにフゥは藪から立ち上がり、自ら存在を晒す。そしてそれが当然であるようにゆっくりと歩き出した。無防備に歩くフゥをコウは認識していない。まるでそこに誰もいないかのように赤黒い炎を宿した瞳でゆっくり歩いているのにも関わらず、フゥの姿を認識できていない。
「あああ、どこだああああ!僕が、僕は、できるんだ!」
ゆっくりと音も風も匂いすら出さずフゥはコウの至近距離で脚を止めた。それが当然のように剣を振り上げる。
優れた暗殺とは何か。対象がそれと気づかず、誰にも気取られず、ただ自然に終わること。これはそういう技。
「救えなかった儂を恨むがよい。さらばじゃ、コウ」
そして幕引きの剣が振り下ろされる。
◇ ◇ ◇
「―!!」
森に差し掛かった時、おぞましい力の奔流が森の中に溢れかえっているのをィリーリアは感じ取った。
似た力を感じたことがある。
それは四ヶ月前のことだ。
眼の前で空に身を投げ出すコウ、追いかけるィリーリア。空中で体という殻を砕くように溢れ出す禍々しい赤黒い力。
今感じているものはその時のものよりも規模も圧力も薄いものだが、それでも息苦しさを感じずにはいられない。
力の源はィリーリアが目指しているところから溢れている。一刻の猶予もないことをィリーリアは察する。
「急がないと」
銀翼に力を込めてさらに速度を上げる。風圧で髪が乱れても構わない。
ィリーリアの心にひしひしと伝わってくるのはコウの壮絶な苦しみや痛みの感情だ。今のィリーリアなら分かる。コウは一人で泣き叫んでいる。歯を食いしばって耐えようとして、耐えきれなくて泣いている。
大事なものを喪失しまいと、必死になってかき集めようとして、それでもこぼれ落ちるものが悔しくて、痛くて泣いている。
ィリーリアも経験があることだからこそわかる。お父様とお母様が戦死したあの日、大切なものが手のひらからこぼれ落ちたことを認めたくなくて、必死になってかき集めて、それでもどうしようもなくて泣きじゃくった。
わかる。わかるからこそ胸が締め付けられるように痛む。
誰かが彼を堕としたのだ。
せっかく前を向くことを覚え、自分を出せるようになった彼を再びあの暗い牢獄に落としたのだ!
許せない。その気持ちが怒りが翼に力を与え、速度を上げる。
解放してあげたい。彼の苦しみの楔から今すぐにでも。
早く駆けつけたい。分かち合うために。
そして―
(見えた!)
赤黒い触手が彼を中心に蔓延っているのが見える。
そしてその中をフゥが悠然と歩いているのが見える。何の感情も何の興味も何の存在感もないフゥ。それはまるで景色のようだ。しかしィリーリアは知っている。あれはフゥが本気になっているのだ。防御も回避もさせず、ただ死をもたらす絶対不可避の一撃をフゥはやろうとしている。
ィリーリアはコウ目掛けて、急降下する。
(早く止めないと、間に合ってっ!)
◇ ◇ ◇
フゥがコウ目掛けて剣を振った。風を切る音。コウは回避も防御もしない。ただうわ言のように「燃えてしまう。やめてくれ」と叫ぶだけだった。
死を運ぶ刃がコウの首に触れる―
その寸前。
「――コウッ!!」
凛とした声が響き渡ると同時に、夜空から一筋の銀光が舞い降りた。
今まさに振り下ろした剣を止め、フゥは飛び退きながら叫んだ。
「姫様!?」
銀光がもたらした衝撃波が走る。その衝撃で赤黒い触手が引きちぎれ飛散する。すべての状況をかなぐりすてて、彼女は――ィリーリアは、狂乱するコウの体を強く抱きしめていた。
恐れも、躊躇いもなく。
「離せ!ああああ、燃えてしまう! 僕はできる!やれるんだ!!」
「心配しないで!何も起きていませんから!」
暴れるコウの腕を、ィリーリアは懸命に抑え込む。滅剣の力が発動し赤黒い焔が湧き上がり、彼女の白い肌を焼こうとも、彼女は決して腕を緩めなかった。
「あああああ、痛い痛い痛い痛い痛いやめてやめてやめて!できるからやめてよぉ!!!」
コウの口から漏れる哀願の声。目からは涙が流れ慟哭している。
痛ましさにずきずきとィリーリアの心が痛む。
コウがどうしてそうなったのか、わからない。けど彼の過去を見たィリーリアは彼がまさにあの時の状況に意識が囚われていることを察した。
「辛かったですね。痛かったですね。大丈夫ですよ。ここは安全ですから安心して」
癒やしてあげたい。彼を痛みから救ってあげたい。切にそう願ったィリーリアの体から柔らかな銀光が生まれた。
「おぉ、これは」
状況を忘れフゥが感嘆の声をあげた。
ィリーリアから生まれる光は、それは清浄な光だった。その光がゆっくりとコウを包み込んでいく。
それは癒やしの光だった。包まれたコウは、その表情がゆっくりと力が抜けていく。
暴れていたコウが落ち着きを取り戻していく
「僕は……僕はいないほうがいいんだ」
力なくィリーリアに抱かれたコウが告げる言葉を、首を横に振って否定する。
「そんな事ありません、いてほしいです」
「でも、僕は…リリィのお父様とお母様を殺した罪の力を…宿していて、封印しなくちゃ…いけない」
ビクリとィリーリアの肩が震える。それはコウにはあえて伝えてなかったことだった。
ィリーリアはぎゅっとコウを更に強く抱きしめる。
「それは、あなたが背負う罪ではありませんし、あなたはあの時、私にあなたの人生を捧げてくれると約束してくれたではありませんか」
「で、でも…」
「コウくん!」
体を離し、思いっきり呼びかけると、俯いたコウの体がビクリと震える。
怯えるように俯く彼の頬を優しく包み込み、無理やり視線を合わせる。
「あなたの前に誰がいるか、見えますか?」
赤黒い焔を宿したコウの瞳に、真剣な、そして今にも泣き出しそうなィリーリアのアメジストの瞳が映り込む。
ゆっくりと赤黒い焔が銀の燐光に浄化されていく。そして元の黒い瞳に焦点があった。
「……リ、リィ……?」
「はい。リリィです。……どうか、落ち着いて」
温かな温もりに触れ、噴出していた黒い力が嘘のように霧散していった。
「僕は、僕は……っ!」
何か告げようとして嗚咽し声を出せない。その目には大粒の涙が溜まっている。
「大丈夫です。今はいいですから」
にこりと笑って見せて、抱きしめた。温もりで安心したのか、コウの体から力が抜けていく。
コウの意識が途切れるその瞬間まで、背中を撫でるィリーリアの優しさを感じていた。
一部始終をフゥは見ていた。
「こちらは、大丈夫じゃな」
フゥは安堵のため息を付き、剣を納める。もう大丈夫だろう。慈しむように騎士を抱きしめる姫様の姿はとても神聖なものに見えた。
体の所々を焼かれてしまっているが、姫様にそのことを気にする様子はない。臣下としては傷の具合を心配するべきなのだろうが、いまの二人の空間を無粋な老いぼれがおいそれと邪魔して良いものではない。
忠臣はゆっくりとその場を後にしながらも、気配を探る。
「……やはり逃げられたか」
静まり返った森で一人、フゥが忌々しそうに舌打ちをする。
幻惑のアルラウネの気配は、完全に消え失せていた。




