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竜姫の葬送騎士 ―その少年、滅びの力を以て最愛を守る―  作者: フォンダンショコラ
第1部 終章 異心は制裁とともに

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第14話 幻惑のアルラウネ

 コウの眼の前で繰り広げられる光景は戦闘ではなく、災害のように見えた。

 無数の輝剣が絶え間なく降り注いでいる。それらすべてがまるで意志をもっているかのようにフゥに集中した。


 ズガガガガガガッ。


 削り取るような音の大瀑布。輝剣の濁流にフゥが飲み込まれた―ようにコウには見えた。


「はっ!」


 裂帛の気合。輝剣の濁流に呑まれたフゥが気合とともに放った一撃は濁流を割り弾く。しかし輝剣は無数に生まれ、弾いた先から押し流すように迫った。


「ヌルい、ヌルいわ!」


 フゥが吠える。ひらりと後ろに飛び退りながら、フゥは巧みに輝剣を躱し、いなしていく。自分にあたりそうなものだけ剣で弾き、最小限の動きで回避している。


「竜の鱗すら貫く私の魔法をものともしませんか!ではこれならどうですか!」


 ミリアの声が響く。


「《これは滅却の歌》《種子は焔を孕み》《芽吹きて花弁は綻び潰え、燎原を成す》」


 色とりどりの草花が地面から突如として生まれ、それは花畑となった。

 それは一面に広がり、フゥは花畑の中心に立たせられる。


「むっ!」


 フゥが危険を察知し、咄嗟に飛び退ろうとするも、無数の輝剣が退路を阻み、それを許さない。

 ああ、それはまるでミリアの心象風景。在りし日の彼女の故郷の風景なのだろう。


――美しい。


 思わず見とれてしまうほど悲しいほどに美しい花畑。

 そして一斉に咲き誇る。

 それは青い炎。それは赤い炎、黄色い炎でもあった。ああ、花弁が咲き誇るたびにそれらは激しく燃え上がり花弁と高温の鱗粉を撒き散らす。

 まるで劫火に包まれた地獄のようでもあり、豪奢に綺羅びやかな天国のような光景。

 立ち上る炎に包まれ、フゥの姿が消え―


「風よ/吹き荒れよ/清浄を宿し浄化せよ/真なる姿を暴け」


 その言葉とともに、フゥが空間そのものを断ち切るように炎の花畑を、斬り裂き暴風を生んだ。

 吹き荒れる暴風は、燃え盛る花畑を、降り注ぐ輝剣を、まるで描かれた絵の具を洗い流すかのように空気に還元していく。


「きゃっ!?」


 世界がひび割れる音と共に、美しい地獄絵図が霧散する。

 あとに残ったのは、夜の森の静寂と、驚きに目を見開いて髪を押さえるミリア、そして悠然と構えるフゥの姿だけだった。


「幻術破り……いえ、空間ごと術式を断ちましたか。私の全力だったのですが、ほんと、竜族の強さはデタラメですね」

「伊達に長生きはしておらんのでな。なに、先代に比べて貴様の術はなかなかに手こずった。誇って良いぞ。儂に本気をださせたのだからな」


 フゥが切っ先をミリアに向ける。もはや奇策は通じない。相対するのは死神なのだ。つまり詰み。


「抵抗せぬなら楽に介錯してやるが、どうじゃ?」


 フゥの死刑宣告。ミリアはまだ無傷だが、魔力消費が激しく、満身創痍。そしてミリアのいる場所はフゥにとって一足一刀の間合いであり、絶死圏内。


「ふふ、そうですね。それは魅力的な提案なのですが…」


 ミリアがにこりと、この場にそぐわない笑みを浮かべた。それはとても優しく慈愛に満ちていた。

 コウだけでなく、フゥですらその笑みに圧倒され、たじろぐ。ミリアの視線が、フゥを通り越し、コウへと向けられた。


「ごめんなさい、コウくん。連れて帰れないなら……せめて、安らかな夢をあげます」

「な、にを――」


 コウが言いかけた瞬間、ミリアの瞳が妖しく紫紺に輝いた。


「《回想せよ》《記憶の底に沈む者よ》《忘れ得ぬ傷よ》《忌むべき記憶よ》…」

「まずいっ!」


 フゥが飛び出し、詠唱を始めたミリアを斬った。袈裟懸けに両断されたミリアの体がズルリと斜めにズレ―滲むように虚空に消えた。


「幻覚かっ!」


 フゥの焦る声。そして再び森に反響するのはミリアの朗々たる声。


「《愛する場所が灰になる》《災い給え穢し給え、神ながら侵し給え、呪い給え》」


 世界が反転する。


「狙いは小童かっ!」


 フゥの声も、森の景色も遠のいていく。

 コウの視界は漂白されていく、やがて――


 

 ――あの日の、薄暗い部屋へと変わった。


『実験は最終段階だ』


 聞こえてきたのは、決して忘れることのできない冷徹な声。ガイウス将軍の声だ。

 磔にされ、拘束された自分の体。激震激痛。赤く染まる視界。絶叫は響かない。視界に映る将軍が、冷たい目で僕を見下ろしている。


『器がもたない? 構わん』


 違う。やめてくれ。僕はまだ――!


『失敗作など必要ない。ああそうだ、彼がいた孤児院だったか。あそこももう用済みだな』


 ――え?なんて言った?


『彼の罪を清算するしかあるまい。すべて燃やせ。子供一人、残すな』


 罪?罪と言ったか?

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 思い出されるのは優しい神父といつも困った顔をしているシスター。そして笑顔の弟妹たち。


『滅剣の力を使えぬものに用などない。使えるというのなら、その力を見せてみろ。でなければ―』


 嘘だ。そんなはずはない。だって、自分は罪があるから、連れてこられただけで、罪がないみんなは無事なはずで。


 けれど、脳裏に鮮明な映像が浮かぶ。

 炎に包まれる懐かしい建物。シスターの悲鳴。いたずらっ子だった弟分が、ませていつも大人ぶっていた妹、クッキーが好きなあの子が、僕が力を使えないから、代わりに燃やされる。


燃える燃える燃える燃えて燃える燃えて燃えるモエル燃エテモエル燃えて燃える燃えてもえるもえるもえるモエルモエルもえるごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


『お前がちゃんと力を使えないのが悪いんだ』


 ああ、僕が力をうまく使えなくてごめんなさい。




 ちゃんと使うから、許してっ!

 そして見覚えのある少女が言う。優しい声でコウに告げる。


『コウくんがいないほうがいいのです』



「あ、ああ、ああああああああっ!!」


 現実世界で、コウが頭を抱えて絶叫した。

 どす黒い魔力が、コウの体から爆発的に噴出する。


 見て、滅剣の力、ちゃんと使えるよ?

 ちゃんと全てを黒く、奪うよ。

 銀の光が翳り、赤と黒が世界を侵食する―


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