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竜姫の葬送騎士 ―その少年、滅びの力を以て最愛を守る―  作者: フォンダンショコラ
第1部 終章 異心は制裁とともに

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第11話 赤竜王ラナ

 フゥと幻惑のアルラウネの戦闘が始まったのと、同時刻。別の場所。

 学生の空挺部隊が訓練で使うために作られた港は、ハルディンの外壁付近にある。おもに竜族や飛翔可能な鳥族の兵士や騎士が発着に使うための場所なので作りとしては非常に広く頑丈にできている。


 もちろん、飛べない兵士たちが地上に滑空して降下するためのグライダーも備品として併設されている倉庫に保管されている。

 ハルディンには似たような設備はこことは別に100以上の箇所に設置されているが、警備されていないのはここだけだ。理由はいくつかあるが、ここはそもそも騎士養成学校の敷地内にあり、外部の者が入り込めないよう学校全体に結界が張られていることや、生徒が利用、悪用するには不便すぎる立地などがあげられる。


 さらにいうならば、港などの施設の無断利用は退学のリスクがある。そうまでして港を利用する事にメリットを見出すような生徒は本当に極稀にしか現れないため、警備がない状況になっていた。

 淡い月明かりが照らす中、そこに現れたのは赤髪の好青年然とした竜族の男。赤龍の王、ラナだった。

 愛用している大剣を無造作に担いで現れた彼は倉庫の前までくると、額に手を当てて呆れたようにため息をついた。


「こうまで想定通りになるとは、敵さんに同情しちまうぜ」


 普段しまっているはずの倉庫が鍵を解除された状態で扉が開け放たれていた。だが、それはゼクトがラナに伝えた通りの状況だったのだ。


「なあ、おまえさんたち、悪いことは言わねぇ、投降しねぇか?」


 ラナはその場で声を張り上げた。彼の声に反応するものはいなかったが、ラナは踵を返しながら、背後にあった森に視線を向け、指を次々に指した。


「そことそこと、それとそこに。三人隠れているだろ? バレてんだから出てこいよ」


 ラナの視線は鋭く貫くように見据えている。数瞬の間のあと、観念したようにラナが指し示した場所から、三人の影が出てくる。


「あー。出てきてくれたのはいいが、投降するって感じじゃねぇな」


 ラナの言う通り、姿を現した三人の手にはナイフが握られ、いつでも飛びかかれるように姿勢を低くしている。あからさまに臨戦態勢で、決して投降しないという意志が感じられた。

 ラナは三人の態度に、獰猛な笑みを浮かべる。


「いいぜ、そういう気骨がある態度は嫌いじゃねぇ。いいぜ。付き合ってやるよ。手加減してやっから本気でかかってきな」


 構えもせず、ラナは無造作に三人に向けて歩き出す。真正面から向かってくるその姿は無防備そのもので、非常に挑発的だった。対して黒ずくめの三人はラナを囲うように一人を正面に残し、残り二人は左右に展開する。ラナは一向に気にせずただまっすぐ歩き――


 左右に展開した二人がラナの視界から消えたタイミングで、一斉に動いた。

 まず正面の一人が予備動作なくナイフを投擲、その数、三。それを合図に左右に分かれた二人もラナを目掛けて、矢のように飛び出す。


 三人の動きに呼応するようにラナも動いた。

 投擲されたナイフ目掛けて真正面に飛び込む。ラナの顔を狙ったナイフの一投目を口で咥え止め、時間差でくる二投目を手で掴み、さらに三投目をあろうことか、口に咥えたナイフをプッと吹き出し、弾いてみせた。


 しかし、そこに隠れるように四投目と、その奥にナイフを手に飛び込んでくる正面の一人が見える。

 ラナはそれを予想していたように右足を踏み出し、肩にかけていた大剣を四投目のナイフ目掛けて振り下ろしていた。


 豪速で振るわれた大剣が四投目のナイフを斬り飛ばし、さらに迫っていた正面の一人に迫る。正面の一人は寸前でナイフを頭上に翳して盾にしながら左に飛ぶ。ラナの一撃をすんでのところでいなしたが体勢が崩れる。


 そこでようやく追従していた左右の二人が到達。背後からの挟撃を行う。

 ラナはそれも予想していた、踏み出した右足を軸に体を回転、左手に握っていたナイフを遠心力を使い、左の一人に投擲すると同時に、左足の回し蹴りを右から迫っていた一人に見舞った。


「オラァ!」


 ラナの裂帛の気合とともに放たれた一撃。右から迫っていた一人はラナの一撃を辛うじて腕で防ぐが、その一撃は鋭く、防御の上から全身に衝撃を与え、吹き飛ばす。

 そしてラナが放った短剣は、ガキンッ、と弾かれるが、思わぬ反撃に左の一人はその場でたたらを踏む。その隙をラナは見逃さない。遠心力を振るった大剣に乗せ、たたらを踏む左の一人に振るう。

 ザンッ、防御すらままならず横一文字に真っ二つにされた。


「まずは一人、だな」


 血飛沫をあげ崩れ落ちる相手を一顧だにせず、ブンと血を払いラナが獰猛な笑みを浮かべる。

 ほんの数瞬の出来事で一人がやられたにもかかわらず、黒ずくめの二人に動揺はみられない。よく訓練されているなと、ラナは感心する。


「なあ、奥の手があるなら出し渋らないほうがいいぞ、でないと次で決めちまうからな」


 血払いした大剣を肩に担ぎ、ラナはいっそ心配そうに声をかけた。

 残った二人はお互いの顔を見合わせ、コクリと頷くと懐から飴玉のようなものを取り出し、何のためらいもなく口に放り込んで飲み込んだ。


 異変はすぐに現れた。彼らの体から膨大な魔力が吹き上がるのをラナは感じた。

 そして彼らの体が膨張――筋肉が異常隆起していく。


「へぇ…強化の丸薬ってわけじゃないな…もしかして、てめぇらライカンスロープだったのか」


 興味深そうに彼らの変貌をみていたラナは言ったが、彼らの耳には届いていない。みるみるうちに体からは体毛が生えてきて全身が覆われていく。同時に腕や脚が引き締まり、口や耳が伸び、人の形から獣のソレへと変化していく。


 もとの大きさの2倍程度になったあたりで変化は終わり、そこには狼人間といって差し支えないものがいた。


「そういや、帝国にゃ、奴隷にした獣人の工作部隊がいたな。フゥの旦那が徹底的に壊滅させたって聞いてたが、てめぇらはその生き残りか?」


 ラナの問いかけに、二匹のライカンスロープは答えない。ラナも答えを期待していなかったのか、返答がないことを気にせず、担いでいた大剣を掲げる――


「じゃ、こっちも少しだけやる気出していくぜっ!」


 ドンッ、と空気が脈動するような音が周囲に響いた。それはラナが発した気合の圧だった。同時にラナの髪の毛が逆立ち、見開かれた眼光が鋭くなる。赤いオーラが彼の体から立ち込めたところで、二匹のライカンスロープが大地を蹴ってラナに肉薄した。


「ったく、演出くらい待ってろ――やっ!」


 掲げた大剣をラナは無造作に振り払う。同時にラナの体から炎が爆発するように溢れた。それは爆音と熱波を伴い、衝撃波となって飛びかかってきたライカンスロープを弾き飛ばす。

 吹き飛ばされたライカンスロープは空中で体勢を立て直し、難なく着地してみせた。

 再び距離を開けて対峙する両者。

 体に炎を纏ったラナは再び無造作に大剣を担ぎ、二匹のライカンスロープを冷たく見据えた。


「わりぃな。これでも王を冠してるんでな。小物相手に本気はだせねぇからこれくらいで勘弁してくれや」


 体の調子を確かめるように首を鳴らしてラナは続けて言う。


「けど、まっ、せいぜい死ぬまであがいてみるんだな」

 それは宣告だった。吹き飛ばされ体勢を立て直した二匹のライカンスロープは身を屈め、いつでも飛びかかれる姿勢を取っているにも関わらず動かない。

 その様子にラナは「はぁぁぁ」と大きくため息をつく。


「おいおい、動かねぇならこっちからいくぜ」


 一歩踏み出そうとした瞬間――それを合図に二匹のライカンスロープが動いた。

 動物は動作の《起こり》のタイミングでは咄嗟に別の行動が取れない。それを狙っていたのだ。

 一匹はラナに向かい、もう一匹が詠唱を始める。


「風よ/疾く早く/我らを追いかけよ」


 詠唱が完成すると同時に飛び出してきた一匹がラナの視界を覆うように羽織っていたマントを飛ばすと、発動した魔法による突風が、マントを高速で押し出した!


「しゃらくせぇ!」


 射出されたマントはまともに当たっていれば顔に衝撃が出るほどに強化されていたであろう。しかしラナは難なく大剣に炎をまとわりつかせ、薙ぎ払うと同時にマントを焼き払った。

 マントが焼き払われ視界が開けた先には、二匹は当然のようにいない。

 ラナは素早く意識と視界を広げ、二匹を捕捉する。二匹の動きは対照的だった。

 向かってくる一匹はラナの死角に入り込むように地面スレスレまでかがみ込み接近している。大剣を振るって無防備になった脇腹を狙っている。もう一匹は、真後ろに疾走していた。その先にはグライダーが保管されている倉庫がある。その動きは事前に示し合わせていたのか、二匹の動きに迷いはなかった。


(こいつら、俺を倉庫から引き剥がしたか。いい連携だ)


 ラナは感心する。だが、獲物がどこにいようと関係ない。龍の王を狩るには、罠のスケールが小さすぎる。

 だがそれは龍の王を舐めすぎた行動だった。

 ラナの払った大剣が勢いを殺さないまま鳥のように翻り地面に剣先が触れる。同時にラナは詠唱。


「爆炎よ/疾く早く/駆け抜けよ/我が剣閃の導きとともに」


 剣先で地面をなぞるように擦りながらラナは切り上げ、魔法が発動する。ラナの切り上げは地面を抉りながら進む斬撃を飛ばした。そしてその軌跡をなぞるように魔法による爆発が生まれる。

 飛ばされた斬撃はその軌跡に爆炎を伴いながら、倉庫に走っていたライカンスロープの進路を阻んだ。

 そしてラナに肉薄していたライカンスロープは鋭い爪を、剣を振って無防備になった脇腹に突き出し――空を切った。


「――っ!」

「爆ぜよ/滅せよ/業炎を拳に/撃滅せよ」


 驚愕の表情を浮かべるライカンスロープの頭上からラナの声。

 見上げた彼が目にしたのは赤く輝く拳を掲げるラナの姿だった。


「あばよ」


 拳が彗星の如く打ち下ろされる。インパクトの瞬間、ラナの拳に付与された魔法が発動。業炎が解き放たれ、爆炎となりライカンスロープを爆散させる。肉の一片すら残さず灰にされる。

 ズドンッ、と凄まじい爆発音と衝撃波が夜空に響いた。


「やっべ、やりすぎた」


 炎がチリチリと燃える爆心地は地面が抉れクレーターとなっている。

 その中心で埃を払いながらバツが悪そうにラナが立っている。そこにライカンスロープだったものはいない。


「さて、あと一人だな」


 圧倒的な実力を見せつけたラナは生き残った一人に絶望を突きつけるように獰猛に笑ってみせた。

ラナはフゥと違って、豪快な攻撃方法。洗練された剣技よりも喧嘩殺法のほうが好きなタイプ。

RPGでいうと打撃特化とかそんな感じ。

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