第2話 4王流祝勝会
「コウくんってさ、結構強引でえげつないところあるよね」
昼食中、ノアの不意の発言に日替わりランチのスープをすすっていたコウは思わず吹き出しそうにむせる。
「ごほ、ごほっ。え、えっと、急にどうしたの?」
ハンカチを取り出し、口元を拭う。むせた時、鼻の奥の方にいってしまったのか、トマト煮込みスープの匂いが鼻の奥に残っている。
それにしても強引でえげつないとはいったいどういうことなのだろうか。コウとしてはできるだけ慎ましく振る舞っているつもりなのだが。
ノアの言動に疑念を抱いていると横合いから思わぬ賛同の声があがった。
「わかります!」
手を叩かんばかりに賛同したのはノアのとなりでサラダをつついていたミリアだった。
「あ、ミリアもやっぱりそう思うよね!」
「はい。さっきのカイルくんとの件で思いました」
「教室のことだよね?そんなにだったかな?」
教室のことを思い出してみるがコウとしては、決闘のあとはろくに話ができなかったので、熱狂が冷めないうちに決着をしっかりつけておこうと思ってとった行動だったので、そんなにおかしいことはしていないと思っている。
コウのいまいちわかっていなさそうな表情にノアとミリアは若干呆れ顔だ。コウはますます困惑する。ちなみにレヴィンは我関せずで黙々とパンをスープにつけて食べている。口を出すつもりはなさそうだった。
「あのねコウくん。朝の教室で皆が集まってるところに決闘の勝者であるコウくんが堂々とカイルくんに仲直りしようって話しかけるわけ。客観的に考えてどう?」
「…どうって」
自分がカイルだったらと思って考えてみる。眼の前には昨日戦って自分が負けた相手。周囲にはクラスメイトの視線。高いプライドのせいで好奇の視線が煩わしいと感じる。自分の中にはまだ消化しきれない敗北の味と傷ついたプライドが痛む。そんな中、仲直りしようと手を出される。さらに多くの視線が集まる―
「…あ」
「わかった?」
「えっと、うん…確かにこれは。うん」
ノアの言う通りだ。これは確かにえげつないと言われても仕方がない。断るに断れない状況を作った上に、クラスメイトのほとんどが無自覚に視線という圧力をカイルにかけている。
コウの顔に理解の色が出たのを見てノアとミリアが揃ってはぁ~と大きくため息をついた。
「もしかしてコウさんって天然なんですかね」
「ミリアさん、もしかしなくてもコウくんは天然かもしれませんよ」
「ノアさん、もしかして心当たりが?」
「もちろんありますよ。ミリアさん」
女子二人でひそひそ話が始まり、蚊帳の外に置かれるコウは思わず助けを求めるようにレヴィンを見る。我関せず黙々とパンを頬張っていたレヴィンはコウの視線に気づくと、ゆっくりと口の中のパンを飲み込む。
「…女性同士で盛り上がった話に男は入らないのが鉄則だ」
「そういうものなの?」
「おそらく世界共通だろうな。うちのオヤジも親戚の叔父貴も同じことをいっていた」
「…なるほど」
まあ、楽しそうだからいいか。
仲睦まじそうに話に花を咲かせる二人を前に、男二人は黙々と昼食を取ることに徹した。
◇ ◇ ◇
その日の夜、特別授業を受けるため、テレポートしたコウは予想外の歓待を受けることになる。
「あれ、みなさんお揃いなんですね?」
いつものように自室の魔法陣から城にテレポートすると、いつもはその日の授業を受け持つ王が待っているだけのはずが、今日はなぜか4王に加えてィリーリアが待っていた。
そうそうたるメンバーにコウは若干腰が引けつつも、皆の前に歩み出る。
「よう、来たな!」
最初に声をかけてきたのはラナだった。組んでいた腕を解き、手を上げてみせる。アーティとレムは小さく会釈をし、フゥは顎髭を撫でながら片眉を上げると「姫様を待たせるとはけしからんな」と笑って見せた。
「コウくん、お待ちしていました」
四人の後ろから歩み出てきたィリーリアがスカートの裾を持ち上げ小さく礼をするのを見て、コウも慌てて腰を折り頭をたれて挨拶をする。今日はプライベートというより公寄りの対応のようだ。
「姫様におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「堅苦しい挨拶はここまでにしておきましょう」
面をあげて、と言われたコウが視線を戻すと、にこりとィリーリアの顔がほころんだ。
「今日は、勝利のお祝いをしたくて皆にきてもらったの」
「お祝い、ですか」
「そう。コウくんの初めての決闘に初勝利だから皆、コウくんにお祝いをしたいのです」
ィリーリアの言葉に、後ろで控えている四人は一斉にこくりと頷く。
「お祝いと言われるとなんだか照れますね」
なにか貰えるのだろうか。お祝いというと昔、孤児院で行った祝祭なんかは村の子どもたちと一緒にお菓子をもらえたことがあった。砂糖を固めたあのお菓子は甘くて美味しかった。
「じゃ、さっそくだが始めるぜ」
そう言ったラナが背中に隠していた武器を取り出し、前に出る。同様にいつのまにかアーティは三叉の槍、レムは錫杖、フゥが反りがある片刃の剣を取り出している。
「………え?」
完全に気の抜けた声が出た。予想もしない四人の行動にコウはただ表情を凍らせることしかできなかった。
そんなコウの様子をィリーリアは一顧だにせず、しずしずとコウの隣にやってくるとドレスの裾を翻し、4王に対峙する。
「今日は私も参戦します。コウくんのサポートとして」
「ィリーリア様!?」
ィリーリアの「参戦」という言葉に敏感に反応し、彼女の横顔を覗き見ると、いつもの毅然とした表情が今はどこか期待に満ちてワクワクした表情になっている。
ほんとうにこれはどういうことなのか、説明を求めてこの場で一番冷静そうなアーティを見る。コウの視線に気づいたアーティは、にっこりと微笑むと穏やかな口調で言った。
「姫様の騎士候補であるコウくんへのお祝いですが、将来を見据えて《特別》に姫様と合同の模擬戦を執り行わせてもらいます」
特別という言葉をことさら強調してそういうアーティの笑顔はとても楽しそうだった。いや、アーティだけじゃない、レムやラナも楽しそうに笑っている。そして一番楽しそうなのは目をギンギンに光らせているフゥだろう。
「この老骨、粉骨砕身で姫様と未来の騎士のため、喜んでその血肉となろうぞ」
あまりのやる気に満ちたフゥの言葉は聞かなかったことにする。
「コウくん、精一杯がんばりましょう!」
何がそんなに彼女を駆り立てるのであろうか。やる気に満ち満ちているィリーリアの姿にコウは腹をくくるしかないと悟った。
「わかりました!やります!そのお祝いしかと受け止めさせていただきます!!」
「よくいった!ほら、おまえさんの獲物だ!」
豪快に笑うラナが放り投げてきた鉄剣を受け取り抜き放ち、一歩前にでる。
騎士として姫様を守る戦いの訓練だと思えばいいのだ。
「よろしくおねがいします!!」
若干やけくそ気味に放たれたコウの言葉を皮切りに、祝いと称したひどい訓練の夜が始まった。
四王との特訓の内容は、別のエピソードでちょこちょこ挿入していきたい所存。。
ちなみにィリーリアも戦えますが、女皇陛下なので。実戦経験は皆無です。
活動報告に生成AIで作ってみたキャラのイメージ絵を掲載してます。興味があればぜひご覧ください。




