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竜姫の葬送騎士 ―その少年、滅びの力を以て最愛を守る―  作者: フォンダンショコラ
第1部 2章 騎士学生

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第16話 級友との決闘(3)

 遊びの空気感がなくなったことをコウはひしひしと感じ取った。先程まであった余裕やあざけりはなくなり、ピンと張り詰めたものに変わっている。

 ここからカイルの本気ということだ。

 いまだしびれの残る腕に一抹の不安を感じながらもコウは余裕の表情を崩さない。

 カイルの巨体がコウに一直線に向かっていく。その手に大剣は握られておらず、徒手空拳。しかし彼の拳は鋼鉄より硬い鱗で覆われている凶器そのもの。ただ殴ればいいだけなのだ。


「火よ/我が拳に/宿れ」


 カイルが素早く詠唱。カイルの拳に火が宿り、拳が燃え盛る。カイルは火と雷に適性がある。適性がある魔法の場合、威力が一段上がる。3節詠唱だとしてもそれは4節詠唱並の効果が発揮されるということだ。


「俺を本気にさせたんだ。すぐにくたばるなよ?」


 ドンと地面を蹴り出しカイルがコウに飛びかかった。迎え討つ形になったコウは再び青眼に構える。圧倒的暴力の波が迫りくるそれはまるでそびえ立つ山が襲いかかってきたように錯覚を起こす。


『武器使う必要がねぇんだよ。圧倒的な体格的優位があるとな』


 コウの脳裏にラナの言葉が思い出される。圧倒的体格差があれば多少の技術の差は簡単に覆ってしまう。たしかにそのとおりだ。カイルの突進は小手先の技術だけで覆せるようなものじゃない。ただぶつかるだけでも相手を吹き飛ばすことができるだろう。

 畢竟、左右に避けるのが定石。立ち向かうなどもってのほかだ。


「さっきみたいにいなして見ろや!」


 カイルの拳打がコウに縦横無尽に襲いかかる。

 それに対してコウは小さくバックステップをしながら剣を振るい拳をいなし、ときに身を引いて躱す。

 しかし―


「あつっ!」


 紙一重で躱さざるを得ないコウは至近距離でカイルの拳が通り抜けるたび、拳にまとっている火がコウの皮膚をジリジリと焼いていく。

 苛烈な拳打は徐々にコウを追い詰めていく。


「どうした!?反撃くらいしてみろや!」

「くっ!」


 頬をかすめる拳の風圧にコウの体が一瞬よろめく。


「もらった!!」


 カイルの握りしめた燃え盛る拳がコウを射程圏に捉えた。その瞬間、誰もがコウがカイルに吹き飛ばされると思った。

 しかしその刹那、よろめいたはずのコウが前に踏み出していた。

 コウに誘われたとカイルが気付いたときにはすでに遅かった。

 二人の姿が入れ替わり、静止する。

 そして、どさりと何かが地面に落ちる音がした。


「ぐああああ!!」


 右肩を抑えながら膝をついたカイルが絶叫を上げる。

 対してコウは剣を振り抜きながら残心。

 はたしてそれはどのような術理か。コウの剣はカイルの鱗に刃すら通らなかった。にも関わらずカイルはコウに腕を切り落とされた。

 切られたカイルの肩口から血が吹き出す。叫び声を上げながらうずくまるカイルをコウはなんの感情も見せず見据えた。


「カイルくん」


 コウがまっすぐカイルを見据えたまま、静かに口を開く。ぎろりとカイルが血走った目を向ける。

 その視線をコウは真っ向から受け止める。


「君がちゃんと武芸をやっていたのなら、今ので僕は負けていた」


 その一言が全てだった。体格に恵まれたものは自身の才能に溺れがちだ。なぜならただ、腕をふって殴るだけで相手が倒れてしまうからだ。

 でかいということはただそれだけで強い。ましてやカイルは半分とはいえ竜人。硬い鱗に強靭な筋肉。生まれながらにしての戦士である。

 コウの貧弱な筋力では傷一つつけられない。まともにやるなら同等以上の力が必要だ。

 だから、コウは相手の力を利用した。カイルの突進しての攻撃。その勢いと相手の体重を。鱗の守りが薄い関節の隙間。そこへ、カイル自身の体重と速度、そしてコウの全魔力を乗せた剣閃が一点に集中した結果だった。


 それは技術の賜物。

 コウが行ったのはラナとの特訓により得たカウンター技だ。

 自分の力で斬れないのならば、相手の力を借りればいい。そこに自分の力を上乗せするだけでよいのだ。


「そこまで!カイル=エストランは右腕喪失と多量の出血のため戦闘続行不能と判断。よって勝者はコウ=ドラゴニアとする!」


 ゼクトの宣言を受けると同時に会場が大きく湧き上がった。

 歓声を一身にうけ放心していたコウだが、カイルの右腕を斬り飛ばしてしまったことを思い出し、慌てて彼を見ると、うずくまるカイルがちょうど担架で運ばれていくところだった。


「さっそく敗者の心配か?」

 

 隣でゼクトがコウにだけ聞こえるように言った。


「え、あ。は、はい⋯アーティファクトがあるから大丈夫なのはしっているんですが⋯」


 いったいいつアーティファクトの効果が現れるのかしらないコウは、右腕を失ったカイルのことが心配でならないのだが、そんなコウの心配は不要とばかりにゼクトはフン、とつまらなそうに鼻を鳴らした。


「アーティファクトの発動条件なら、この場から出ることだけだ、担架で運ばれて外にでればすぐに元通りになるから心配するな。明日には普通に登校できるだろう」


 もっとも、痛みや衝撃は残るがな。と意地の悪い笑みを浮かべながらゼクトが言った。

 その笑みをみて、ゼクトの底意地の悪さを垣間見たコウだった。


◆ ◆ ◆


 観客席から響く歓声を、まるで水の中にいるかのように遠くに聞きながら、コウは選手控室の扉に寄りかかった。

 勝った。

 その実感が、全身を叩きのめすような疲労と、全身からじわじわと染み込んでくる痛みを感じさせる。

 平気なふりをして訓練場から出てきたが、使い果たした魔力が回復せず、指一本動かすのも億劫だ。決闘中、つねに全力で集中し続けたため頭はすでに沸騰しそうなほど熱をもってさえいる。

 あの決闘、実のところコウは一撃でもカイルの攻撃をまともにうけていたらそこで終わっていたのだ。余裕に見えてすべて紙一重の攻防だったのだ。

 いくらコウがィリーリアとエンゲージして種族としての強度をあげていようとも、ヒト種はもともとの強度が竜種に比べて圧倒的に劣っているのだ。ましてやコウは成り立てである。1年後ならいざしらず今のコウにカイルの重い一撃を受け止めることなどできようもない。

 ゆえにコウはあの試合、すべての攻撃をきれいにいなす必要があった。徹底的にいなす技術をラナは訓練で徹底してきたのだ。その成果は結果が示している。

――戻らないと。

 最後の気力を振り絞り、震える手でドアノブを回し、中へとなだれ込むように一歩踏み出した。

 その瞬間。


「コウくんッ!!」


 悲鳴に近い切実な声。 思考が追いつくより早く、視界いっぱいにノアの泣き顔が迫り――次の瞬間、ふわりとした柔らかい感触と温もりが、全体重で胸に飛び込んできた。


「ぐ……っ!」


 受け止めきれず、コウは背中から壁に叩きつけられる。


「よかっ……た……ほんとうに、よかった……っ!」


  腕の中で、ノアがしがみつくように嗚咽を漏らす。その肩の震えが、コウに勝利の重みを何よりも強く伝えていた。


「こら、やめんか。おまえさんの飛びつきでコウが大怪我をしてしまうだろう」


 唐突にノアの温もりが消えた。そのことに少し寂しさを感じながらもコウはゆっくりと立ち上がり礼をいう。


「ありがとう、レヴィン。助かったよ」


 ノアの首根っこをまるで子猫のようにつまみ上げながらレヴィンは「うむ」と頷いてみせた。もっとも当のノアは涙目でなにか言いたげにこちらを見ている。

 その瞳を見返しながらコウはためらうように口を開いた。


「…その、ちゃんと勝ってきたよ」


 朴訥とした、まるで使い走りから戻ったかのような報告。

 その言葉に、レヴィンに羽交い締めにされたままのノアが、わっと再び顔をくしゃくしゃにして泣き出した。


「ばかっ! コウくんのばかっ!」

「えっ」

「当たり前じゃない……! ちゃんと勝ってくるって……ううっ、信じてたけど、信じてたけどぉ!」


 ジタバタと暴れるノアを、レヴィンが「はいはい」とあしらいながら、そっと床に降ろす。

 解放されたノアは、しかし今度はコウに飛びつかず、その場で顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。いつも忙しなく動く耳が、しおれたように横を向いている。おそらくは、先ほど我を忘れて飛びついた自分を思い出して恥ずかしくなったのだろう。


「ふん。まあ、おまえさん、見直した。正直、負けると思っておったわ」


 腕組みをしながらレヴィンが言う。


「ひどいな、レヴィンは」

「だが、あの最後の一撃。……見事だった」


 ぶっきらぼうな口調に隠されたドワーフの少年からの率直な称賛が、コウの疲れた心にじんわりと沁みる。

 その時だった。

 ずっと控室の隅で、息を詰めるように戦況を見守っていたミリアが、おずおずといった様子で一歩前に出た。


「あ、あの……コウ、さん」

「ミリアさん」


 彼女は、まだ興奮で頬を上気させながらも、どこか夢見るような、それでいて少し潤んだ瞳でコウを見つめている。


「……すごかったです。本当に……」


 ノアのように感情を爆発させるでもなく、レヴィンのように技術を評するでもない。

 ただ、心の底から湧き上がったような、小さな、しかし確かな声だった。


「カイルくんが相手なのに……私たちを、ノアちゃんを守るために、一歩も引かなくて……」


 ぎゅっと自分の胸の前で手を握りしめ、ミリアは小さく、しかしはっきりと続けた。


「……おめでとう、ございます」


 その控えめな祝福の言葉に、コウもようやく全身の力を抜き、小さく笑みを返す。

 自分のためだけに戦っていたらあそこまで頑張れなかっただろう。いいや、そもそもカイルに対して喧嘩をふっかけたりなんかしなかった。守りたかったからこそ戦えた。戦えたから勝てたのだ。


「ありがとう、ミリアさん。……みんながいたから、勝てたよ」


 その言葉にコウ以外の三人は噛みしめるように聞き入っていた。やがてレヴィンが腕を解いて一歩前に歩み出ると、コウの背中をばんと叩く。


「わしらはただ応援していただけだ。勝てたのはおまえさんのがんばりから得た実力だ」

「…ありがとう」


 レヴィンの声は優しくあたたかい。じんわりとコウの胸に彼の賞賛が染み込んでいくようだった。

 その時、ポンと何かを思いついたのかミリアが手を叩いた。


「そうだ、勝利のお祝いをしないとですね!」

「ミリアったら、ナイスアイディア!」


 ぴょんと跳ねるように身を起こしたノアの表情は楽しいことをみつけた子供のような表情だった。


「じゃあさ、いつものあの場所で四人でしない?」


 あの場所というのは秘密基地のことだろう。


「いいですね!賛成です!」

「わしも賛成だ」


 ミリアとレヴィンも乗り気だ。


「でしょでしょ? コウくんもそれでいいかな?」

「もちろんだよ」


 断る理由もない。大いに賛成だ。祝ってくれるなんてとても嬉しい。


「よかった!それじゃあ、計画しっかりたてないとね!」

「よし、秘蔵のハムを出すときがきたわ」

「わ、わたしも、とっておきのハーブの…」


 わいわいと計画を立て始める三人の様子に、コウは改めて勝てて良かったと思った。


◇ ◇ ◇


 その日の夜、コウが寮の自室に戻ると、一枚の便箋がおいてあった。

 銀の竜印が押されたそれは一目でィリーリアからのものだとわかった、

--------------------------------

コウくんへ


決闘、本当にお疲れ様でした。 あなたが無事にこのお部屋に戻ってこられることを祈りながら、この手紙を書いています。

まず、おめでとうございます。 エストラン家御子息を相手にした、見事な勝利でした。

決闘のことを知らされた時、正直、心臓が止まるかと思うくらい心配でした。

でも、それ以上に、私はコウくんのことを強く信じていました。

あなたが誰よりも努力を重ねてきたこと。 ラナたちとの厳しい訓練を、歯を食いしばって乗り越えてきたこと。 そして、あなたが本当はとても強い心を持っていること。 私は全部知っていますから。

だから、「コウくんなら、きっと大丈夫」と、そう自分に言い聞かせていました。

今日のあなたの戦いぶりを伝え聞き、本当に誇らしく思います。

あなたは、ご自身が思っている以上に、ずっとずっと強い人です。 そのことを今日、多くの人が知ることになりましたね。 私にとっても、自分のことのように嬉しいです。

今夜はきっと、緊張と疲れでいっぱいだと思います。 どうかゆっくりと休んで、今日の疲れを癒してください。

本当におめでとう、コウくん。 私は、あなたの勝利を心から誇りに思います。


ィリーリアより


P.S.

今日の特別授業は免除とのことなので、安心してゆっくりやすんでください。

--------------------------------


 最後の一文でコウがホッとしたのは言うまでもない。

カイルとの決着はあっさりでしたが、実のところカイルがずっと剣を使っていたらコウは詰んでたという話。リーチとか体格差って圧倒的だからね!

剣を捨てた時点でカイルくんの負け確定でした。


2025.12.19

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