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竜姫の葬送騎士 ―その少年、滅びの力を以て最愛を守る―  作者: フォンダンショコラ
第1部 2章 騎士学生

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第15話 級友との決闘(2)

 一撃一撃が暴風を伴って襲い来るカイルの激しい攻撃を、コウは躱し、いなし、すれ違うたびに一撃を脇腹に入れては離脱を繰り返している。


「てめぇは羽虫か!うぜぇんだよ!」


 飛び退くコウが数瞬までいた場所をブォンと音を立ててカイルの切り上げた大剣が通り過ぎる。後を追い、カイルが踏み込むと同時に、叩きつけるように振り下ろされる大剣。その動作に合わせるようにコウは地面を蹴り出し、大剣の横をすり抜け、カイルの懐に飛び込む。肉薄し、すれ違いざまに再び一閃。


「やっぱり僕の技じゃ切れないか」


 カイルから距離をとり、再び構える。カイルからの追撃はなく、二人は距離を開けて再び睨み合う。

 攻撃が当たらないカイルと有効打のないコウ。戦闘は膠着状態に陥っている。

 何度も同じ場所を切りつけているのにも関わらず、まったく傷が入らないカイルの鱗はうんざりするほど硬い。

 竜種が最強と言われるのも納得がいく。

 生半可な攻撃はすべて鱗に弾かれる鉄壁の防御に、無尽蔵と思えるほどのスタミナと、片手で大きな剣を軽々振るう膂力。

 技などなくともただ腕を振るうだけで敵を粉砕できるのだ。純然たる生物としての強さが人間とは段違いだ。


「おいおい、どうした、飛び回るのはお仕舞いか?てめぇのへっぽこ剣技じゃ俺にダメージは与えられねぇぞ?とっととやられにかかってこいよ」


 手を差し出し、指をくいっくいっと挑発するカイルにコウは不敵に笑ってみせた。


「そっちこそ、いつまでもだだっこみたいに棒を振り回すのはそろそろやめたら?」


 戦いの高揚からか、普段のコウなら絶対に言わないようなセリフが口からついて出る。


「それに、剣でだめなら魔法でいくさ! 雷よ/疾く駆け抜けよ/穿て!」


 不意打ちでの最速三節詠唱。かざした指先から雷撃がカイルめがけて飛ぶ。


「うぜぇ!土よ/(そび)え/阻め!」


 放たれた雷撃はカイルの前にせり出した土の壁によって防がれる。しかしその時すでにコウはカイルを中心に円を描くように駆け出していた。さらに詠唱は続く。


「火よ/舞い爆ぜ/覆い隠せ!」


 コウの視界に収まったカイルの周囲に火の玉が現れたその一瞬後、カイルを包むように燃え上がった。しかし燃え上がった火を物ともせずカイルが飛び出す。


「バカが!そんななまっちょろい火は防ぐまでもねぇ!」 


 飛んだ勢いそのままコウめがけて大剣で斬りかかるっ!

 しかしコウは冷静にまっすぐにカイルを見据えていた。焦ることなく詠唱する。


「風よ/強く/噴き上げよ」


 カイルの剣がコウに到達する寸前、コウの詠唱により発生した上への突風が、勢いのままカイルを打ち上げた。


「馬鹿な!?」 


 驚愕のあまり叫ぶカイル。下からの突風をもろにうけたカイルの体は、飛び込んだ勢いも相まって、まるで砲弾のように放物線を描くように飛ぶ。


「風よ/鳥を/墜とせ」


 コウのさらなる詠唱がカイルを襲った。発動させた魔法は空にいるカイルを正確に捉え、下に向けて落ちる突風となった。

 高く打ち上がったカイルが今度は勢いよく地面に叩きつけられる。


 ズドンッ!


 場内を揺るがすほどの衝撃が走った。地面に叩きつけられるように墜落したカイルにどれほどの衝撃が襲ったのか、場内に響き渡った轟音が物語っている。


「土よ/弾となり/打ち付けよ」


 間髪入れず紡がれるコウの詠唱が魔法を発現する。それはカイルがコウの雷撃を防ぐために作った土の壁に作用し、土の壁が地面から引き抜かれると、倒れたカイルを押しつぶすように放物線を描き飛び、そして激突。


 ドォォンッ


 空気を震わすほどの轟音ともに、カイルに激突した土塊が砕け、土埃が舞い上がる。

 一連の攻防に訓練場は観客も含め静まり返っている。

 いかに竜種だとしても質量攻撃は防ぎきれるものではない。古の戦場では竜種を相手にするには戦鎚などの打撃武器が有効だったのだ。

 しかし―


「クククク、ハーッハーッハッ!」


 土煙の中から高らかに笑う声。


「風よ/吹き荒べ!」


 カイルの詠唱により巻き起こった風が土煙を吹き飛ばす。そこにはよろめきながらもカイルが剣を担いだ姿で立っていた。


「やるじゃねぇか。てめぇ、まさか最初の査定試験のとき、ブラフかましてやがったのか?最底辺の魔力量でできることじゃねぇぞ。くそが」

「嘘はついてないよ。あの時の僕の実力は本当に最低限だったから」

「はっ!ふかしてんじゃねぇぞ。たった3ヶ月で俺の鱗を貫けるほどの実力を身に付けられるわけがねぇ」


 カイルの姿は無傷ではない。頭からは血を流し、土塊の直撃を防ぐために防御に使ったのだろう左腕は鱗が剥がれ落ち血を流している。

 竜の鱗を貫くほどの威力は相応の魔力量が必要になる。コウはそれだけの出力を魔法で出したのだ。


「そんなことより、その程度の傷でやられるほど、カイルくんはやわじゃないでしょ?」


 剣を構え直したコウの挑発的な言葉に答えるようにカイルは肩に背負った剣を真一文字に振るって見せた。

 低い風切り音を立てるカイルの剣筋に衰えは見えない。


「見ての通りだぜ」


 不敵に笑ってみせるカイル。対照的に微動だにせず見据えるコウ。二人の間に気迫が高まっていく。


◇ ◇ ◇


「うそでしょ!?」


 コウが流れるように魔法を詠唱し、カイルを追い詰める様をみていたノアは驚きのあまり思わず立ち上がってしまう。

 隣に座っているミリアとレヴィンもノアほどではないが、思わず身を乗り出しているし、観戦に来ているクラスメイトたちも程度の差こそあれ、どよめいている。


「ねぇ、コウくんって魔力量そんなになかった…よね?」


 おそるおそる確かめるように確認するノアにミリアはコクリと頷いてみせた。


「はい…私の記憶が正しければ450だったと思います…」

「450じゃ、日常魔法しかつかえないじゃん…」

「正直、わしも驚いている。まさかここまで伸びているとは」


 3人とも、コウの実力が伸びていることは知っていた。ノアは手加減無しに殴ろうとしてあっさり躱されたのもあり、近接戦闘は十分な実力をつけていると思っていたのだ。


「あの威力と連続性からすると、コウくんの魔力量は軽く2000は超えていますね」

「…ねぇ、ミリア。魔力量ってそんな、3ヶ月とかで大幅に伸びるんだっけ?」

「私が知る限り、成長期であれば稀にそういうこともあるそうですが…急激な上昇はないはずです。それこそ天性の才能があったか、実力を隠していたというほうが説得力があります」

「コウの性格を考えるなら才能があったのだろう。それに実力を隠すのであれば、あれは目立ちすぎだ」


 どちらかといえば物静かで、控えめ。誠実で嘘や誤魔化しが苦手そうな不器用な友人。それがレヴィンたちのコウに対する印象だ。

 顎に手を当てて何事か真剣に考え込んでいる様子のミリアがレヴィンの言葉に頷く。


「そうですね。きっとコウくんのもともとの実力が開花したのでしょう」


 そうだとしても驚異的な成長速度なんですけどね…きっといい師がいるんでしょう。と口の中で呟いたミリアの言葉は再び始まった剣戟の音にかき消され、誰にも聞かれることはなかった。


◇ ◇ ◇


 睨み合い状態を崩し、先に仕掛けたのはコウだった。

 水平に剣を構え、引き絞られた矢の如く地面を蹴り出す。飛び込んでくるコウを迎撃するようにカイルは横一文字に大剣を振るう。

 剛腕から繰り出される絶死の一撃。

 コウは冷静に軌道を見据え、水平に構えた剣でその一撃をいなす。それはまるで最初の攻防の焼き回し。必勝を期してコウは流れるように腰に剣を構え、飛び込むその刹那、カイルの表情がにやりと歪むのをコウは見た。


「同じ手は通じねぇ!」


 ざわっと直感が危ないと告げた次の瞬間、カイルはいなされた大剣から手を離す。大剣の重量から解放されたカイルの右腕はピタリと空中で静止。カイルの右腕がまるで時間を巻き戻すように元の位置に戻っていくと並行して握りこぶしをつくった左腕がコウにむかって繰り出される。

 咄嗟に剣を盾にしてカイルの拳を受け―ドンッという大きな衝撃とともにコウが吹き飛ばされる。

 コウは空中でトンボを切って着地し、顔を上げると、視界いっぱいにカイルの姿。コウを追撃するべく飛び込むように迫っていたカイルがすでに眼前にいた。

 衝撃は右からきた。コウの顔をカイルの裏拳が捉えたのだ。バンッと骨と骨が当たる鈍い音とともに、コウがよろめく。


「クソボケがぁ!!」


 がら空きになったコウの体にカイルのボディブローが突き刺さる。

 凄まじい衝撃がコウの体を突き抜けた。


「がはっ!」


 たまらず肺に残った空気が強制的に排出され、衝撃で体が宙に浮く。


「しまいだ」


 コウの視界にカイルがくるりと回転するのが見えた。

 これはまずい。あの一撃がくる。コウの脳裏にカイルの尻尾の一撃がよぎる。

 ドラゴンテイル。

 強靭な筋肉から放たれるしなる一撃が宙に浮いて無防備なコウに襲いかかる。

 決まった!

 だれもがそう思った。

 あわや尻尾がコウの体に激突するその刹那、コウが体をひねった。

 ズドン。激しい重低音が会場に響く。地面に叩きつけられボールのようにコウの体が跳ね飛ばされる。それでも勢いが止まらず何メートルも転がり続け、ようやく止まったのはカイルとの距離が20メートルほど離れたところだった。

 誰しもがそれで終わりだと確信した。

 あの直撃を見ていれば助かりようがないことは誰の目にも明白だった。


 ああ、コウはよくやった。劣等生だった彼は成績上位であるカイルに対してよくがんばった。終わってみればあっさり終わった決闘だったが、それでもよくやった。その場にいたほぼ全員がそう思った。

 しかしゼクトは終わりを宣言しなかった。


「くそが。てめぇやられてねぇだろ。さっさと立てや」


 見るからに苛立ちを隠しきれないカイルが忌々しげにつばを吐いた。

 あの一撃をまともに受けて、立ち上がれるわけがないだろう。会場内の誰もがそう思っていた。だからこそ、ざわめきが起こった。

 必殺の一撃をうけボロ雑巾のように飛ばされたと思われたコウは、カイルの言葉を受けゆっくりと立ち上がる。

 ダメージを受けているのは間違いないが、それでもしっかりと立ち上がっている。


「もう少し腕のしびれを取りたかったんだけど、甘くはないか」


 手を振りながら立ち上がったコウはダメージなどなさそうな様子でケロっとしている。カイルの必殺の一撃が見舞われた時、直撃の瞬間、身をひねるとともに、剣の腹を盾にしつつ、衝撃の殆どを回転することで逃がし、衝撃を殺していたのだ。

 何事もなさそうに立ち上がってきたコウをみて、カイルは嬉しくてたまらないというように声を上げる。



「ハハハ!こいつぁ上等じゃねぇか。決めたぜ、お上品なフリは終わりだ」


 気合をいれるように、バンと自身の拳を手のひらにぶつける。


「こっからはガチだ」


 カイルが宣言すると、空気が変わった。

戦闘シーンって、分厚く書きすぎてもなんだかなーと思ってしまうんですが、みなさんはどうでしょう?


2025.12.19

誤字脱字の修正と、一部表現の追加と修正

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