第14話 級友との決闘(1)
戦闘シーンはなかなか悩みます。
まばらな場内の観客席を見渡しながら、コウは剣を片手に歩み出る。
中央付近ではすでにゼクトが待っている。反対側では同じようにカイルが肩に大きな剣を乗せて現れたところだった。
かすかなざわめきに急かされるように、顔がよく見える距離まで進み出るとゼクトに手で制止された。
「両者そこで、止まれ」
ゼクトの静止に二人は歩みを止めた。
二人の距離は3メートルほど。この間合いはカイルであれば一歩で詰められる距離感だ。
「帝国のクズ人間のくせに、逃げずにきたようだな。褒めてやるぞ」
上から睨みつけるカイルがコウに話しかけた。ゼクトから注意はない。最初は舌戦からということなのだろう。ならば、とコウはカイルからの鋭い眼光を真っ向から受けとめ、静かに返す。
「別に褒められることはなにもないよ。逃げる必要がないから来た。それだけだよ」
「はんっ。お前ら帝国人は度し難いな。自分たちが強いと驕っている」
「別に帝国とキミが争ったわけじゃないでしょう?なのによくそんなに強気でいられるね」
「てめぇっ!」
コウの言葉に青筋を立てカイルがいきり立つ。コウはそれ以上言葉を交わす必要はないとばかりに静かに睨みつけた。
「今回はおれが立会人をやらせてもらう。異論はないな?」
舌戦が終わったとみると、コウとカイルを交互に見ながら、いつもの厳粛な調子で確認するゼクトに、コウとカイルは同時に頷いて、異論がないことを示す。
「決闘のルールだが俺の合図で開始となる。戦闘不能、もしくはどちらかが降参、もしくは俺が続行不能と判断したときのみ、終了とする」
決闘に細かいルールは存在しない。この競技場に限って言えば、アーティファクトのお陰で致命傷を負ったり死亡したりしても無傷の状態に戻されるからだ。無論、大量の魔力を消費するためおいそれと使われることがないが、申請が通れば使える設備だ。
「では、この決闘で勝利した際に、お互いに対して行う要求を述べよ」
ゼクトがそういうと、荒々しい様子でカイルが真っ先に口を開いた。
「俺が勝ったら、この帝国人とくせぇ獣人女は俺の奴隷になれ」
高らかに宣言するカイルの声は観客席にも響いた。彼の言葉にざわめきがおこる。奴隷とは穏やかじゃないが、決闘の結果としてはないことはない。
「僕が勝ったら、キミには二度と学内の帝国人と獣人への差別をやめてもらう」
「ハッ!てめぇが俺に勝つなんて万が一もないけどな」
カイルの挑発をコウは黙殺した。言うべきことはいった。あとは言葉ではなく剣で語るのみ。
「要求は述べたな。では、双方構え!」
ゼクトが手を上げると同時に二人はお互いに構えを取る。コウは青眼に。カイルは腰を落とし、いつでも剣を振り抜ける体勢に。
「始めっ!」
ゼクトが手を振り下ろすと同時に、動いたのはカイルだった。
「即、死ねや!」
間合いを一歩で詰める。踏み込みの勢いを乗せた横薙ぎの一撃が風を切り裂き振るわれる。カイルの剛腕から放たれる一撃は鎧の上から体を真っ二つにする勢いだ。喰らえば即死。
しかしコウはその一撃に合わせて同じように踏み込んでいた。剣を水平に構えカイルの横薙ぎの剣閃に合わせ―
―キンッ
カイルの必殺の一撃は、まるで空中を滑るようにきれいにコウの頭上を通り過ぎた。それは妙技。水平に構えたコウの剣が、カイルの大剣の側面にふわりと触れる。そのまま力を逆らわせず、切っ先を下げて軌道を誘導すると、剛剣はまるで吸い込まれるようにコウの頭上を空回りした。勢いそのまま逸らされたカイルは大剣の重さと勢いに振り回され体勢を崩す。
「甘いよ、カイルくん」
その隙に肩越しに剣を構えたコウが間合いに滑り込み、すれ違いざまに、がら空きになったカイルの脇腹に一閃。剣が硬質な音を立てる。
コウの剣はたしかに刃を立てたはずだが、分厚い鱗に傷一ついれられなかった。
「そんななまっちょろい攻撃で俺に傷がつけられるかっ!」
体勢を立て直したカイルが振り向きざまに大剣を薙ぎ払うも、空を切る。コウはすでに彼の間合いから距離をとっていた。
「ちっ」
舌打ちをするカイルと、青眼に構えをとったコウが再び対峙する。
◆ ◆ ◆
「いなしただと!?」
隠れるように見ていたユリウスはコウがカイルの一撃をきれいにいなしたのを見て、思わず驚嘆の声をあげてしまった。
あれはやろうと思っても出来る芸当ではない。カイルの一撃がどこにくるのか完璧に予測し、その軌跡上に剣を置いていなければできないのだ。
ユリウスでもああもきれいにいなすことができるかどうかわからない。相当な実力差がないと狙ってできるものではない。
だがそれをあっさりやってのけた。むしろ競技場がどよめいていないのが不思議なくらいだ。
もとよりコウの目が良いことは入学式の一戦で見抜いていた。
ユリウスの本気の連撃をああも見事に防げる相手など、同学年にいない。Rank3の翔鱗の実力とはまさしく学校を代表する力の持ち主であるということだからだ。
一年ではRank2の光鱗になれれば上等、殆どの新入生が一年間、Rank1の卵鱗のままである。その中で近衛候補レベルとされるRank4(煌鱗)にすら手が届こうかという自分の目は誤魔化せない。
その自分の攻撃を防戦一方だったとはいえ、学年最下位の帝国人が防ぎきったのだ。
腹立たしいことこの上ない。やつが学年最下位という結果を出してしまったせいで、相対的に自分の模擬戦の評価が下がってしまっていたのだ。
おかげでしばらくは勘違いをした雑魚共が毎日のようにユリウスに勝負を挑んでくるはめになった。いい迷惑だ。
あれから三ヶ月、カイルとかいう半竜人と決闘をするというので、どれほど成長したものか確かめにやってきたのだが、コウはユリウスの想像を超えた強さを身につけているようだ。
―なるほど。貴様も強さを求めているようだな。
コウが強くなる理由に興味はないが、自らの牙を研ぎ続ける姿勢は好ましい。それにしても驚異的な成長速度だ。おおかたゼクトあたりから指導されたのだろうか、よほどいい教えを受けていなければ、あの成長はありえない。
つまらない試合ならすぐに帰ろうと思っていたのだが、なかなかどうして面白い試合をみせてくれそうだ。
ユリウスは中央で一進一退の攻防を続けるコウとカイルの試合を見るため、ベンチに深く座った。
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2025.12.19
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