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クォヴァディス ―滅びの剣と竜姫の誓い―  作者: フォンダンショコラ
第1部 2章 騎士学生

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第6話 友の心配

 ゼクトの執務室を出ると、廊下でずっとまっていたのだろうノアたちが待っていた。


「コウくん!大丈夫!?」


 心配そうな顔でノアが駆け寄ってくる。自分が原因で執務室まで連れて行かれたとなれば、責任感の強いノアのことだ。気が気じゃなかったのだろう。

 コウは安心させるように手を上げて答えた。その様子にほっと安堵のため息をつくノアだったが、コウに続いてでてきたカイルの姿をみて怒りの視線をぶつける。


「あ?なんだ、また仲良しこよしか」

「あ、あんたねぇ!」


 くってかかりそうな勢いのノアに不穏なものを感じたコウはノアの言葉を遮るように手を突き出した。


「コウくんなんで止め―」

「大丈夫だよ。ノアさん」


 ニコリと穏やかな笑顔をコウから向けられたノアは、予想外の彼の表情に一瞬言葉を失う。その一瞬の隙にコウはカイルの方に体を向ける。


「カイルくん。決闘までにお互い余計なトラブルは避けよう。余計な茶々はいれられたくないでしょう?」


 カイルはフンと鼻を鳴らし、忌々しげに顔を背けた。コウの言葉は正論で、反論のしようもない。彼は苦々しい沈黙を貫くことで、渋々ながら同意を示した


「それじゃあ、僕達はここで少し話すから、カイルくんはどうぞお先に」


 コウに促されるまま、一言も発することなくカイルはその場を去っていった。廊下の角にカイルの姿が消えると―


「ちょっとコウくん!決闘ってなに!?ていうか罰則じゃなくて決闘!?ゼクト教官に罰を課されるんだとおもってコウくん悪くないっていうためにここでまってたのに、ゼクト教官に直談判しようとおもったら、いきなりカイルと決闘するって危ないし、怪我とかしちゃうじゃん!てか、いつ!?」


 堰を切るように言葉の乱打がノアからコウに放たれる。


「ちょ、ちょっとまって、説明するから、ちょっと落ち着いてね?」


 心配してくれるのはありがたいが、説明するのに落ち着いてほしい。

 ノアの勢いに圧倒されながらもどうにか彼女を落ち着かせようと肩を掴んで物理的に押し留める。


「ほれ、コウが困ってるぞ」


 見かねたレヴィンが彼女の服を引っ張ってくれたおかげで、ノアはようやく離れてくれた。ようやく一息つく。


「それじゃあ、寮に戻りがてら説明するね」


 コウは改めてあらましを説明した―




「あたしがでる!!」


 コウの説明を聞いたノアの第一声だった。


「いや、だめだろう」

「なんで!?本当の当事者はあたしじゃん!」


 レヴィンの冷静なツッコミにノアは理解できないとばかりに食って掛かる。


「あのな、ノア。少し頭を冷やせ。これはもうコウとカイルの問題として教官にも認められてるんだ。そこでおまえさんが出てみろ。コウは『女の後ろに隠れた』って言われるだけだぞ。そうなってもいいのか?」

「……っ!そ、それは…」


 レヴィンの指摘にようやくそのことに考えが思い至ったのか、ノアの勢いはしぼんでいく。


「そっか。そうだよね。あたしがいまさら出ていったらコウくんの立場が危うくなっちゃう」

「そういうことだ。これはもうコウの戦いだ」

「そうだよね。ごめんね。コウくん。あたしのせいで巻き込んじゃって」


 シュン、としおれた花のように落ち込む様子のノア。いつも天真爛漫で元気な彼女のその姿にコウの心は痛む。


「ノアさん。謝らないで。巻き込まれたなんて思ってないし、僕は僕の意思で立ち向かったんだから」

「う、うん…でもさ」

「大丈夫だから信じて、ね?」


 なおもなにか言おうとしたノアに、コウは断ち切るように言い切ると、ノアはそれ以上何も言わずコクリと頷いて引き下がった。

 ちょっとずるい言い方だけどこうすればノアがそれ以上言ってこないだろうとコウは計算しての発言だった。


 仲間を守りたい。そう思った気持ちは本物で、カイルは彼女を侮辱し、害そうとした。コウが剣を取る理由はそれだけで十分だし、これからは自分の戦いだ。ノアを心配させてしまうだろうが、信じてもらうほかない。


 この心境の変化はここ最近のものだ。ィリーリア様に出会う前の自分は罪の意識に苛まれ、自信がなくなっていた。けれど彼女に言われ、泣いて抱きしめてもらったときから、罪の意識はきれいに無くなっている。


 そのかわりただ大切な人や仲間を守りたい気持ちと、4王にしごかれ積み上げてきた知識と経験が確かに自分の血肉になっているという自信がある。

 たった数ヶ月で?とコウ自身も不思議に思うが、二人は自覚していないが、エンゲージによって繋がっているコウには、ィリーリアからの信頼の感情が流れ込んできており、それがコウに自信と勇気をもたらしており、彼の心境や人格に良い変化をもたらしていた。


「でも、正直な話、コウくんは彼に勝てる見込みはあるんですか?」


 なにかを考え込んでいたミリアの疑問はききようによってはコウへの侮辱にもとれるものだった。反射的にノアが思わず声を荒げる。


「ミリアちゃん!どうしてそういうこというの?」


 しかし声を荒げるノアに対して、ミリアは冷静だった。


「ノアちゃん、考えてみてください。カイルさんはRankⅡ光鱗のしかも上位です。しかも魔力量だけでいうならトップクラスの有望株で、RankⅢも見えています。対してコウくんはRankⅠの卵鱗で学年最下位の成績。成績だけみるなら勝負にすらならないでしょう。確かにここ最近のコウくんの飛躍力はすごいものがありますが、カイルくんだって努力しています。」

「…そ、それは」


 ミリアの的確な分析にノアは言葉に詰まり、目が泳ぐ。仲間を信じたいけど、厳然たる成績という事実が重くのしかかる。


「こ、コウくん…」


 捨てられた子犬のような目つきで自分を見上げるノアに、コウは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 ミリアの言う通り、入学時の成績だけでいうならそうだろう。しかもカイルは勤勉で努力もしているのだ。3ヶ月前よりも格段に強くなっている。

 コウがノアを安心させようと口を開く前に、それまで黙っていたレヴィンが口を開いた。


「なんじゃ、ノア。おまえさんはコウのことを信じてないのか?確かに、ミリアの評価はそのとおりだろう。それで、コウ。おまえさん、勝算はあるのか?」


 じっと真剣な顔でコウにまっすぐ視線を向けるレヴィンから目をそらさずコウは頷く。


「もちろん」

「そうか、ならわしからはなにも言うまい」

「ちょ。ちょっとまってよ!」


 それで話は終わりとばかりに歩き出すレヴィンをノアは慌てて腕を引いて引き止める。ぐいっと引っ張られ、レヴィンがつんのめるが、ノアは構わず引っ張り続ける。


「なんだ?」

「レヴィンはコウくんが心配じゃないの!?」

「そんなもの、コウが大丈夫といったのだから、わしは信じるだけだ」


 ほれ、離せ。とノアの腕を振りほどく。明らかに納得のいってなさそうな顔のノアにレヴィンは一つため息を付いた。


「あー。そうだな。ノア。一度本気でコウを殴ってみると良い」

「え、あ…はぁ!?」


 しれっと予想だにしない言葉にレヴィンにノアだけでなく、コウもミリアも驚きの表情を浮かべている。


「なんだ、わからんのか?それが1番わかりやすいと思ったのだがな」


 なぜ驚かれたのかわからない。とでもいいたげに頭をかくレヴィンの姿に、時々このドワーフは脳筋がすぎるとコウは思った。


 しかしコウは忘れていた、脳筋ならずとも単細胞に近い友人が直ぐ側にいることを。その人物―ノアはレヴィンの言葉に合点がいったのか頷くと―


「わかった!殴ればわかるんだね。やるよ!」

「ちょっ!?」


 止める間もなかった。こうと決めたら行動がはやいのはノアの美点であり、欠点だ。

 言葉が終わるやいなや、一切の躊躇なく振り抜かれたのはノアの拳。

 それはコンパクトに最短距離を撃ち抜くノアの拳打。獣人族特有のしなやかな筋肉から放たれたその鋭い一撃は至近距離ならば、教官であっても躱すことが困難な一撃。

 ―パシンッ

 弾けるような音がした。


「え、うそ!?」


 驚きに声を上げたのは拳を放ったノア本人だった。

 コウに当たるはずだった拳はコウの左手で弾かれたうえ、ノアの顎にはコウの拳が触れていた。

 それは流れるような体捌きだった。


「ほらな?」


 手を腰に当てながらレヴィンがまるで我が事のように誇らしげな表情をしている。

 ノアの攻撃は鋭い。彼女の正確かつ、鋭い一撃による不意打ちを躱せる相手は学年でも数えるほどしかいないだろう。

 彼女は紛うことなき脳筋だ。コウと同じRankⅠの卵鱗ではあるが、こと戦闘だけに限って言えば、RankⅡ光鱗の中位から上位の実力を持っている。


「びっくりっ!あたし本気であてようとしたんだよ!」

「…す、すごいです」


 ノアとミリアが信じられないものをみたような表情をしているが、とうのコウはそれどころじゃなかった。


「レヴィン!」

「どうしたコウ。なにを怒っている?」

「そりゃ怒るよ!いきなり殴れってのはひどいんじゃない!?あたってたらどうするのさ!」


 捌けたから良いものの、ノアの一撃をうけていたら怪我だけじゃすまなかった。

 しかしコウの抗議に対してレヴィンはあっさりとしたものだった。


「今のおまえさんなら、大丈夫だろう?」


 けろっとした表情でさも当たり前の事実をいうような態度とその言葉に、コウはすっかり毒気を抜かれてしまった。


「おまえさん、放課後もほとんど寮にもおらんで、習い事と称して特訓でもしとるだろう?日を追う毎に見違えるように成長するおまえさんをみていればその程度のことはわかる」

「―っ!」


 レヴィンのその言葉はコウの胸に刺さった。


「なるほど!さっすがコウくんは努力家だね!」


 感心するノアに同調するようにコクコクと嬉しそうに頷くミリアの賞賛の言葉はいまだに褒められることに慣れていないコウにはくすぐったく感じた。


「ま、そういうことだ。いまのコウの実力ならカイルといい勝負になるだろう」


 ウンウンと訳知り顔で頷くレヴィンがそう締めくくった。

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