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クォヴァディス ―滅びの剣と竜姫の誓い―  作者: フォンダンショコラ
第1部 2章 騎士学生

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第2話 秘密基地

 森林演習場に入ったコウたちは、ノアの言う通り特に危険な場所や、野生動物には出会わなかった。もっとも、左へ、右へと蛇行していたのでノアがそういう進路を選んだのだろうが、おかげで、コウは方向感覚を完全に失ってしまったので、一人で同じ道を辿り無事にかえる自信はなかった。

 森林演習場に入ってからどれくらい歩いただろうか、ほどなくノアが足をとめた。


「ここだよ!」


 ノアがそういって振り返ってコウたちに自慢するように腕を広げた先にそれはあった。

 そこは少し開けた場所になっていた。中央にぽつんと背の高いものが、今日の目的地なのだろう。それは幾年月の年月が流れを経たのか植物に覆われている。しかしところどころみえる金属質の壁面や窓が、それが人工物であることを雄弁に物語っていた。


「…えっと、これは、塔ですか?」


 自信なさそうなミリアの言葉も当然だろう。縦に長く学園の鐘塔より高さがありそうな、円筒形のそれはあきらかに塔だ。しかし塔というにはどこか家っぽい雰囲気を感じるのだ。

 たとえば植物の間から見える窓は風雨で汚れて入るが採光を考えれた窓だし、塔の周辺に散らばっている残骸はテーブルや椅子といったものの成れの果てのように見える。


「んー。前にはいった感じだと、灯台っぽかったよ?」


 ノアはすでに入ったことがあったようだ。


「こんなところよく見つけたな」

「へっへっへー。森林探索は猫獣人の十八番だからね!探検してたらたまたま見つけたんだ」


 感心して目を丸くするレヴィンに、ノアは鼻をこすりながら誇らしげだ。

 それにしてもノアは思った以上の野生児っぷりのようだ。種族特性なのか血が騒ぐという感じなのだろうとコウは思った。


「ささ、ほらほら、そんなところたってないで入ろう!」


 ぴょんと軽快に飛び跳ねるようにしてノアが塔らしきものの入口へかけていった。


「ノアちゃん、まって」


 慌てて追いかけるミリアに続き、レヴィンとコウも追いかける。

 入口はわかりやすかった。というかそこだけ植物が取り払われている。おそらくノアがやったのだろう。木製のドアにはちゃんとドアノブがついており、ノアがひねるとあっさりとその入口を開いた。


「明らかに年代が経っているのに腐食していない?バカな、一体どんな加工処理がされているんだ」

 レヴィンがドアの表面を確かめるようになぞる。そういったことに知識のないコウにはものすごく驚いた様子のレヴィンの反応が気になる。


「これはすごいの?」

「ばかもん!すごいなんてものじゃないぞ、普通に作るだけでは無理だな。普通であれば鉄に触れている部分が風雨で腐食するんだ。せいぜいもって10年だ。だがこれは100年はすくなくとも前に作られたものにみえる」


 レヴィンは熱心に扉を調べ始める。ドアについてはそれがどれほどすごいかはいまいちわからないが、10倍になるのは確かにすごいと思う。物作りを生業とするものがおおいドワーフにしてみたらなおさらなのだろう。


「もー何してるのー!早くこっちにきてよー!」


 部屋の奥からしびれを切らしたノアが声を上げている。レヴィンはまだドアに夢中でノアの声は聞こえていないようだった。

 仕方ない。つれていこう。


「ほら、レヴィンいこう?」

「ま、まってくれ、もう少し、もう少し!」


 ドアにへばりついたままのレヴィンの後ろ襟を掴み、やや強引に引っ張って中に引き入れる。

 普段ものすごく物わかりがいいのにまるで子どものようだ。よく孤児院でわがままを言われたのを思い出す。


 御飯の時間になっても遊びをやめない弟たちをこうして回収してたっけ。

 なんだか懐かしい気がした。孤児院のみなは元気でやってるだろうか。自分のように陰謀に巻き込まれていたりしないといいのだけど。


 ズキっと心が痛む。

 今はすごくいい暮らしをしている。お腹いっぱいにご飯を食べられるし、清潔なベッドに、お風呂だって入れる。孤児院の子どもたちと今の自分の境遇の差に後ろめたさを感じる。


「どうかしました?」

 気持ちが沈みかけたコウの視界に心配そうなミリアの顔が割り込んできた。今考えることじゃなかった。


「ごめん、ちょっと考え事!」


 気持ちを切り替えてミリアに心配かけないように笑う。コウのごまかすような様子にミリアは納得行っていない様子だったが、コウが再度笑いかけると、なにか言いかけた言葉を飲み込んだようだった。


「…わかりました。悩み事があったら、ちゃんといってくださいね?」


 あっさりと引き下がったミリアは等の中の部屋に興味を移し、離れていく。ほっと胸を撫で下ろしていると、コウにひっぱられていたレヴィンが独り言のように「青春だな」と一人得心したように呟いていたので、コウはぱっと掴んでいたレヴィンの襟首を離すと、コウという支えを急に失ったレヴィンはドタンと背中から床に転げ落ちた。


「あたた…急に離すでない」


 ホコリを払いながらレヴィンが起き上がり、文句をいう。頑丈なドワーフならそのくらいの衝撃は痛くないだろうに、抗議の代わりにいってるだけなのだ。さっと立ち上がったレヴィンは痛そうな顔はまるでしていない。口だけなのがその証拠だ。


「ほら、レヴィンいこう。ノアが待ちくたびれて怒り出すよ」

「それもそうだな」


 気がつけばノアはすでに奥の階段から駆け上がっている。ミリアも慌てたように追いかけている。ここで待たせすぎたら、ノアが不機嫌になりかねない。そうなるとあとが怖い。

 改めてコウは1階を見渡す。


 やはり人が住んでいたような形跡がある。1階はさしずめ生活の場だろう。炊事場のようなものや、テーブル、食器棚のようなものがある。廃墟特有の汚れやホコリの蓄積、空気の淀みがある。ところどころ蜘蛛の巣や、隙間から入ってきた蔦などがあるが、なぜか昨日まで誰かが住んでいたかのような不思議な生活感を感じる。

 ここはどういう場所なんだろうか。

 疑問は尽きないが、一旦頭の隅において、コウは階段に足をかけた。



「…ようやくついた」


 階段を登りきったのは、6階分の階層を登りきった後だった。体育の教練で体力づくりをしているとはいえ、階段を走って登るのはなかなかにきつい。考えてみれば森の中を歩いてきことを考えれば、結構な運動量だと思う。


「おっそーい!」


 先についてまっていたノアが両手を腰にあてて頬を膨らませていた。


「の、ノアちゃん早いよ」


 隣で息を整えているミリアは体力の限界そうだ。膝に手をついて息を切らしていたので、背中を擦る。意外と華奢な体にコウは驚く。


「あ、ありがとう。コウくん。大丈夫だから」


 遠慮がちにコウの手を遮り、ミリアはゆっくりと深呼吸して息を整えた。


「体力がないな」

「レヴィンはすごい涼しい顔してるね」

「ま、鍛え方が違うからな」


 最後に上がってきたレヴィンはコウの言葉に得意げな表情を見せている。その顔には汗一つかいていないのがすごい。このメンバーの中だと、体力担当なのはノアとレヴィンだ。もしかしたらこの二人にとって、このくらいの運動量は、運動したうちに入らないのかもしれない。


「さて、ここがみんなに紹介したかったところだよ!」


 ノアがめいっぱい両手を広げて見せたかったものを誇示する。


「わぁ!」


 思わず感嘆の声がミリアの口から漏れていた。

 それもそうだろう。階段を登りきった先は、周囲を一望できる展望塔のようになっている。


 遠くに沈む夕日と、反対側から迫る夜の気配。オレンジ色から藍色へ染まる空が一望できる。それは思わず言葉を失うほどキレイな光景だった。


「ほぅ、これはいいな」


 レヴィンは縁に近寄って身を乗り出して周囲を見ている。

 コウもレヴィンの隣に並び立って周囲を見回した。

 遠くに学校や寮の敷地が見える。さらに向こうに小さく見えるのはリリィがいる王城だろう。夕日のオレンジに照らしあげられキラキラと光っているように見える。

 広い森林演習場の木々が風にさざなみ、まるで森全体がうねっているように見えた。


「ね、すごいでしょ?」


 宝物を自慢するのが嬉しくてたまらない。そんな表情のノアに一同は言葉なくただ頷いて同意した。

 しかし同時に疑問が湧いた。


「どうして、外から見えなかったんでしょう?」


 口元に手を当てて不思議そうな顔をしたミリアがコウの疑問を代弁した。


「うーん。よくわからないけど、魔法敵な何かがかかってるんじゃないかな。ここにいく道も決まったルートを通らないとこれないしね!」


 あっけらかんとすごいことを言うノアに一同は言葉を失った。


「あ、あのね、ノアちゃん、それは絶対魔法だと思うよ?」

「え!?そうなの!?」


 ここにいくルートが決まっているのであれば、それはもう確実に魔法がかかっているとみて間違いないだろう。


「ノア、おまえさん。授業ちゃんと受けているよな?」


 レヴィンが呆れを隠せない声で問うと、ノアはバツが悪そうに視線を泳がせる。悲しいかな。その態度が答えを物語っている。


「え、あははは。受けてはいるよ?」

「…ノアちゃん。私、ノアちゃんの先輩になるのは嫌だよ?」


 ミリアが本気で心配そうな表情で追い打ちをかける。


「や、やめてよ!今度からちゃんと受けるから!」


 慌てて両手を振るノアが「この話はおしまい!」と手をパンと叩くと、すぐにぱあっと顔を輝かせ、この気まずい空気を吹き飛ばすかのように声を弾ませた。


「それよりもほら!ここ!私達の秘密基地にしない?」

「それはいいな!」


 ノアの言葉に真っ先に同意したのは瞳を輝かせたレヴィンだった。

 コウも秘密基地という響きに懐かしさを覚える。孤児院にいたころ、森の中によく秘密基地を作って遊んでいたのが懐かしい。


「でしょう!ほら、ここってちょっと綺麗にしたら住めそうだし!見つからないってのもすごくいいよね!」


 ノアの言う通り、汚れて入るが掃除すれば使えそうな場所だ。ノアが来るまで数年は誰も来てなさそうなところや、特定の手順でないと来れない場所というのも、秘密基地にぴったりだ。正直ワクワクする。


「秘密基地ですか…」


 盛り上がる3人をよそに、一人、ミリアが小首をかしげる。その顔は秘密基地という響きにイマイチぴんときていないようだった。


「そうそう、秘密基地!私達だけの拠点だよ!テンションあがらない!?」

「いいぞ、やはり男子たるもの秘密基地の一つや二つもたなくてはな!な、コウ!」


 バンッ!とコウの背中に衝撃が走る。テンションが上がったレヴィンがコウの背中をたたいたのだ。前につんのめりそうになりながら、コウは衝撃にたえた。


「あはは。そうだね」


 背中の衝撃にひりつきながら、コウは同意した。


「そうと決まれば、早速片付けからはじめよう!」


 ノアの号令に一同手をあげて応じた。

 しかし、盛り上がりこれからのおこる楽しいことやワクワク感が絶頂に達していた三人は気づかなかった。真剣な顔をしたしたミリアがボソリと呟いたのを。


「…誰も知らない場所」


連載開始から2ヶ月が経過しました。

読者がいついてくれるといいなーともいつつ。。


ここまで読んでくれてる方ありがとうございます。

頑張って書いてまいりますので応援してもいいよって方がいましたら、評価いただけますと連載の励みになるので、評価いただけると嬉しいです。


m(_ _)m



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