第8話 魔力考査
コウたちA班の魔法の試験は大講堂からさらに北東方向に進んだ開けた場所で行われるとのことだった。
ノアたちB班はまた別の場所で魔法の試験が行われるみたいだ。
――統治クラスと儀礼クラスは先に実技だっていってたっけ。
食堂で統治クラスの生徒がいっていたのを小耳に挟んだ。
ゼクトに連れられておおよそ4半刻ほど歩いてくと、やがて開けた平原が見えてきた。
「何か光ってる?」
生徒の誰かが呟いた。
言われてみると平原を覆うようにドーム状の光のカーテンのようなものがかかっているようにみえる。光に反射して淡く輝きながら覆われてるそこに向かっていく。
入る瞬間、軽い抵抗にあうが、少し力をいれると簡単に入れた。
「これは魔力の暴走を抑え、外に漏らさないようにするための城塞結界だ。未熟な魔法であっても決して
暴走することはないから安心して存分に貴様らの力を発揮するように」
ゼクトの言葉の通りドームの中に入ってから体の外から何かを押し留めるような軽い圧力を感じる。これが暴走を抑える力なのだろう。
「さて、ここが演習場だ。殺風景だが、試験をやる分には十分な設備がある」
ゼクトの後ろには魔力水晶が設置された台座が4つ等間隔に置かれている。大きさは腰の高さくらい。水晶本体はコウの頭より少し大きいくらいの大きさだ。魔力水晶が設置されている台座の下に金属製のプレートが、名札のように設置されている。
「知っているものが大半だと思うが、念の為、使い方を説明する」
説明しながら魔力水晶の前で、ゼクトが手をかざす。
「魔力水晶に向けて自身の力を手から流し込むイメージしろ。あとは勝手に魔力水晶が勝手に吸い取ってくれる」
魔力水晶がぼんやりと光り始める。そして水晶の中心に火が宿り、まばゆい光を放つ。
あまりの光に思わず目を覆ってしまう。
「これで終わりだ」
一瞬の輝きのあと、すぐに光が収まると、ゼクトが直立不動で佇んでいた。
「結果は下のプレートに表示される」
ゼクトの言葉の通り、魔力水晶の下に設置されているプレートに光る文字でこう記されていた。
総魔力量=20982
安定性=91%
適正属性=闇、火、雷
「魔力適性二万超え!?」
数値をみた獣人族の生徒が叫び声をあげる。それもやむなしだろう。一般人の魔力量は百に届かないくらい、魔法に対して才能があるもので五千、二万あれば魔法使いとしてのエリートといわれる中、二万をこえるゼクトの力量は並々外れている。
「おい、おれ前に測った時1800くらいだったぞ」「わたし、1500だったよ」「俺の父さん、魔法使いなんだけど、たしか9000くらいだった」
「やかましいぞ、貴様ら。静粛に」
しかしゼクトが注意したにもかかわらず、全員がゼクトの叩き出した数値に驚きざわめいていた。
ゼクトは咳払いして落ち着けることを諦めたのか、手物と名簿を開く。
「では、始めるぞ。名前を呼ばれたものは返事をし、前に出ろ。イザベル=クローディア」
「は、はい!」
「セラ=ミルヴァ」
「…はい」
「カイル=エストラン」
「はい」
「メリア=ドーラン」
「はーい…」
名前を呼ばれた生徒たちが前にでていく。それぞれ人族の女性、エルフ族の女性、竜族の男性、兎の獣人族の女性だ。
皆一様に嫌そうな顔をしている。
ゼクトの化け物じみた数値をみたあとにやらされるのは色んな意味できついだろうなとコウは同情する。
それはそれとして試験は始まり、各々が水晶に力を込める。ほんのりと魔力水晶が輝き出す。
【イザベル=クローディア】
総魔力量=3800
安定性=73%
適正属性=風、氷
【セラ=ミルヴァ】
総魔力量=3000
安定性=89%
適正属性=風、植物
【カイル=エストラン】
総魔力量=5500
安定性=58%
適正属性=火、雷
【メリア=ドーラン】
総魔力量=2600
安定性=88%
適正属性=風、植物
「ほう、一学年で5500の魔力量は流石だな。カイル」
関心したゼクトが竜族の男子生徒を褒める。カイルは腕を組み「当然です」と尊大な態度だった。
「だが、安定度が低い。これでは減点だな。対してセラ、メリアの両名は安定度が高い。加点だ」
カイルが舌打ちをし、対してセラと、メリアは嬉しそうに頷いた。
「では次だ。ガイウス=バルテス―」
ゼクトが手元の用紙にそれぞれの成績を書きおえると次々と生徒の名前を呼び、魔力テストをうけた生徒がその結果に、一喜一憂していく。
「次で、最後だ。ユリウス=レイヴンハルト、コウ=ドラウグル。前へ」
最後に呼ばれたのはユリウスとコウの二名だ。
「せいぜい、特別の実力をみせてもらおうじゃないか」
声に反応すると、ユリウスがコウにむけて挑戦的な視線を向けると、颯爽と前にでていく。
コウは踏み出そうとした足を思わず止めてしまい、一瞬呆然とする。
「コウ=ドラウグル、いないのか?」
「は、はい!いま出ます!」
苛立った声のゼクトに急かされ慌てて前に出る。
「呼ばれたらすぐに出るように。故意に試験を遅滞させたら、減点対象になるからな。以後気をつけるように」
コウがゼクトに注意されると、それをみていた他の生徒達がくすくすと笑う。
ただでさえ特別生ということで注目されているのに、さらに目立ってしまっていたたまれない気持ちになる。
できるだけ小さくなりながら、魔力水晶の前に歩み出る。隣ではすでに手をかざしていたユリウスの結果がでている。そこには―
総魔力量=4400
安定性=89%
適正属性=風、雷、植物
「ほぅ。ユリウス。貴様の数値は素晴らしい。魔力量もさることながら、安定性もよく3属性の適正はなかなかないぞ。将来有望だ」
ゼクトが感嘆の声を漏らした。
「当然です。レイヴンハルト家の人間ですから。このくらいは当然の結果でしょう」
髪をかきあげながら誇らしげなユリウスに、他の生徒たちも、思わず拍手してしまいそうになる。
「なにを呆けている。特別生、はやくやりたまえ。みなキミの結果を待ちわびているぞ?」
にやりと笑いながらユリウスがコウを促すと、生徒たちの視線が一斉にコウに集まった。
――やりにくいなぁ。
注目されていることになれていないから、非常にやりづらい。
その場にいる全員の好奇の視線がちくちくと全身に刺さるようだ。
一つ深呼吸して心を落ち着ける。
レムはいっていた。魔法は集中力が大事だと。
気合をいれて、おずおずと手を伸ばし、魔力水晶にふれる。
――大事なのは、魔力の流れを感じること。
レムからの教えを思い出す。自分を覆う膜を想像し、頭から足の先にゆらゆらと流れを作る。やわらかいヴェールのようだ。そして手でふれているものまで、膜を拡張する。
レムはいっていた、これが魔力を通すこと。
「……ほぅ。これは」
ゼクトが感心したような声を漏らすが、集中しているコウには届かなかった。
そのかわり、レムからの注意を思い出す。
『コウくん。一つ注意しなさい。あなたの魔力はィリーリア様の魔力が大半。ですがそれらはあなたの中にある滅剣と密接に混じり合っていまの』
ぞわり、とコウの全身に悪寒が走る。
――まずい!
魔力を出しすぎた。と直感で理解した。
腹の奥から自分のものじゃないどす黒い力が吹き上がろうとしていた。
それは、コウの魔力を押しのけるようにのしかかってくる黒だ。
『学校の試験では魔力水晶を使って計測するわ。うまく扱えるまで、魔力を絞りなさい。細く細く。そうすれば滅剣の力がでることはないですわ』
そうだ、細く、細く絞るんだ。
レムと練習した時のイメージは手で管を握るイメージ。出るところを絞れば自ずと出ない。
グググと無理やり絞られ行き場を失った勢いが、体中に圧力をかけ、嘔吐感を催す。息を止め、制御することに集中する。
「コウ=ドラウグル。もういいぞ」
その声にコウは弾かれるように手を引いた。魔力水晶に吸い込まれていた魔力が霧散し、コウは大きく息を吐いた。
心臓が早鐘を打ち、ドクンドクンという音が耳まで届くほどうるさい。
過呼吸のようにゼーハーゼーハーと息を吸い込む。全身に冷や汗が滲んでいる。
危うく力が吹き上がるところだった。魔力暴走を防ぐ結界ではなかったのか。
顔を上げると、ゼクトの感情の一切ない冷たい瞳と目があった。コウにだけみえるように口を動かす。
――危なかったな。
なにかあればすぐに対処するように構えていたのか、ゼクトの両手は自由になっていた。
「コウ=ドラウグル、下がりたまえ」
すでにユリウスは列に戻っており、前にでているのはコウだけになっていた。
ゼクトの言葉に頷き、おずおずと列に戻る。
「あいつ、やばくね?」
誰かがそういった。
残されたプレートにはこう記されていた。
総魔力量=450
安定性=95%
適正属性=火
それはぶっちりの最低値だった。
試験は飛ばしてもいいような飛ばさなくてもいいような、、完成したら色々シェイプアップしないとなと思う反省をしています。




