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クォヴァディス ―滅びの剣と竜姫の誓い―  作者: フォンダンショコラ
第1部 1章 騎士に至る軌跡

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第7話 事情

「お、コウくんだーおーい!」


 食堂につき昼食を受け取ったコウが空いている席を探していると、どこからか目ざとくコウを見つけたノアが席を立ち上がり全力で手をふっていた。

 その声に周囲の生徒たちの注目を集めることになる。そのおかげでコウはノアをすぐに見つけられた。注目されていることについては、とうのノアは一切気にしていない。

 元気な彼女らしいアピールだが、もう少し控えめにしてほしいな。と思いながらコウは片手を軽く上げて答えながらノアに近づくと、すでに昼食をとっていたレヴィンとミリアもいた。


「おぉ、コウか。試験のほうはどうだった?」


 空いているレヴィンの隣に座りながら、コウは力なく首を振った。


「全然ダメでした。半分がいいところです」

「むずかしかったよねー。あたしも魔法学がぜんぜんわからなかったよ」


 もしゃもしゃとパンを口に詰め込みながらノアがいうと、隣のミリアのほうに体をぐっと寄せる。


「その点、ミリアは頭良さそうでいいよねー」

「…あはは。そこそこはできたとおもうけど、そんなにできてないよ?」


 困ったふうに笑いながらミリアは自信なさげに答えると、ノアは大げさに体をのけぞらせた。


「あー!過ぎたことは仕方ない!やっちまったもんは取り戻せない!あたしは実践派なんだ!」


 その主張にミリアはまたも困ったふうに笑うと、さらさらと茶髪が流れる。


「ふーむ。午後からは魔法に関する試験だったな。そこで挽回すればよかろう」

「うわー。あたし、魔法の試験も苦手だー」


 絶望を表すようにノアがパンを咥えたままうなだれる。そのままもぐもぐとパンが口に吸い込まれていくのをみると、その状態で食べているのか。実に器用だ。


「…おぬしは実践派じゃなかったのか」

「あたしは体動かすの専門なのさ」


 レヴィンが呆れたようにノアに突っ込むと、彼女は項垂れたまま答える。


「ノアさんは、猫の獣人だもんね」


 ミリアがノアをフォローするようにいう。

 獣人族は身体能力が総じて高い。猫なら身のこなしと聴覚。犬なら嗅覚や瞬発力、熊なら膂力など。それぞれの種族に見合った能力を持っているとレムの授業で教わったことをコウは思い出した。


「そうなのさー。猫だから集中力もないし、お昼寝もしたいのさー」


 パンを平らげたノアが大きくあくびをし、眠気をアピールする。

 コウには猫がどういうものかしらないが、きっと彼女のように天真爛漫な生き物なのだろうと見当をつけた。


「そういえば、レヴィンさんの調子はどうだったんですか?」


 ふと気になり、黙々と昼食を食べているレヴィンに、コウは聞いてみる。


「わしはほどほど、可もなく不可もなくだな。ま、2回目だし、そんなものだろう」


 特に気負いすることなくありのままを話すような態度でいった。


「…えっ!2回目!?」


 はじめに反応したのはノアだ。バンと机を叩き大げさに立ち上がる。

 何事かと周囲の視線が再び集まるが、コウたちはそれどころじゃなかった。


「伝えていなかったか。わしは留年組だから、2回目なんだ」


 あっけらかんと肯定する。あまりにも普通の対応に余計に混乱する。


「…え、え、じゃあ、ほんとはレヴィン先輩、ですか?」


 戸惑うノアにレヴィンは首を振る。


「いや、レヴィンでいい。皆と同じく扱ってくれ」

「そっか!じゃあ、今まで通りにさせてもらうね!」


 今まで通りでいいのなら、とあっけらかんとニコッとノアは人懐っこい笑みを浮かべた。


「レヴィンせ―さんはどうして留年されたんですか?」


 触れてよいか迷っていたその質問をしたのは、気を遣いそうなミリアだった。

 今日出会ったばかりだが、彼女の立ち居振る舞いからそういったことは聞かないタイプだと思っていただけにコウは彼女の行動を意外に思った。


「ああ、急遽実家に帰らねばならない事情ができてしまってな昇級試験に参加できなくてな」

「なるほど、ご実家のほうで…」


 満足したのか、ミリアはそれ以上突っ込んで聞かず、キレイな所作で食事にとりかかった。

 みなそれぞれ事情があってここに来ているのだ。コウにも人には言えない事情があるように。


「まーレヴィンが留年してることには驚いたけど、それって考えようによってはお得だよね!?」

「え、お得?」


 思わず声に出てしまった。横目にみえたミリアも驚いて食事の手が止まってしまっている。


「そそ、だってみんなより一年多く勉強できるってお得だよね!」

「―そうかな?」

「そうだよ!」

「―そ、そっか」


 確かにノアの言う通り、一年多く勉強できるってのは良いことかもしれない。良いかもしれないのか?

 自分の言動になっとくいったのか、改めて食事を始める。


――なんというかとても自由な人なんだな。


 スープにうつった自分の顔を崩すようにスープをすくって一口すすった。


ノア、レヴィン、ミリアのそれぞれの立ち位置や振る舞いを固めていこうかなとおもったらできたエピソードでした。


面白かった評価いただけますと幸いです

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