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クォヴァディス ―滅びの剣と竜姫の誓い―  作者: フォンダンショコラ
第1部 1章 騎士に至る軌跡

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第6話 班分けと最低限の試験

「名前を呼ばれたものから返事をし、前に出ろ。ガイウス=バルテス」

「はい!」


 姿は見えないが、前の方からゼクトの声がする。どうやら戦術クラスの生徒を集めていたのは、学年主任であるゼクトのようだ。

 そういえば、戦術クラスの担任はゼクトだと、昨日の式で言われていた気がする。

 ゼクトに名前を呼ばれた生徒は一人ずつ前にでていき、2列に並ばされてる。特に作為はなく、呼ばれた順で振り分けているようだ。


「ねねね、ゼクト教官って怖いけどちょっとかっこいいよね」


 ただ待っていることに飽きたのか、ノアが話しかけてきた。


「え、あー。確かにそうかも?」


 言われてみればそうかもしれないなとコウは思った。印象はかなりきついが、目鼻立ちは揃っているし、仕事ができる男前の外見だ。異性からの人気はたしかにありそうだ。


「ミリアもそう思わない?」

「え、私?私はうーん…もうちょっと、柔らかいほうが……いいかな?」

「へー!そうなんだ。たとえばコウくんみたいに?」

「!?」


 ノアの急な名指しにコウは驚いて思わずミリアをみると―


「え!?ち、ちがっ!」


 慌てて手を振って否定するミリアと視線があった。


「違うの?」


 二人の様子に特に気にすることもなく、あっけらかんと聞くノアに、ミリアは小さく「…うん」と答えた。


「そっかー。まー。コウくんはお姫様タイプだもんなー」


 だから、お姫様タイプって…なにさ。

 ノアの中ではコウはお姫様ということで決定しているようだ。はなはだ不本意だが、今のところ否定できる要素がないのが悲しい。


「次、ノア、ノア=フィルシア!」

「あ、呼ばれた。いってくるねん!」


 ゼクトに呼ばれたノアが元気よく「はい!」と返事をしながら軽い足取りで前に出ていくのを見送りながら、コウは内心ため息を付いた。


「ごめんね?その、コウくんのことが嫌ってわけじゃなくて」


 おずおずとフォローするミリアにコウは「あはは」と力なく笑った。


「次、ミリア=ネスティア」

「今度は私だ。行ってくるね。またあとで」


 ぎこちなく笑いながら去っていくミリアの背中に小さく手を振るコウの肩に手がのせられた。


「元気をだせい。男をみせるのはこれからじゃ」


 振り返ると、慰めるように深くレヴィンがいた。彼はゼクトに名前を呼ばれ颯爽と前に出ていった。

 周りをみると残っているのはコウだけになっていた。

 ゼクトが真正面からコウをみながらその名前を呼ぶ。


「コウ=ドラウグル。貴様は右に並べ」

「は、はい!」


 名前を呼ばれ小走りで指定された列の最後尾に並ぶ。

 ノア、ミリア、レヴィンは残念ながら左の列に並んでいた。非常に残念なことにユリウスとは同じ列のようで、コウは少しうんざりした気分になる。最後尾に行く途中、ユリウスと目があうと、無言で鼻で笑われた。

 少しムっとした気持ちになったが、無視して最後尾に並ぶ。


「よし、並んだな」


 コウが最後尾についたのを確認した、ゼクトが後で手を組んで堂々と立ちながら、宣言する。


「今日一日、貴様らは並んだ列のものたちと行動してもらう。便宜上、こちらをA班、そちらをB班とする」


 振り分けはやはり、グループ分けだったようだ。コウが並んでるほうがA班で、レヴィンたちが並んでいるほうがB班だ。


「B班はバルド=グランツ教官が担当する。バルド教官。よろしく頼む」

「承知した」


 背後から聞こえたその声はとても静かだったにも関わらず、まるで耳元で囁かれたかのようにしっかりと、その場にいた全員の耳に届いた。


 驚き、振り返る。

 その男はいつのまにかいたのだろう。

 最後尾のコウのすぐ後ろにバルド教官は佇んでいた。

 歴戦の軍人という言葉を体現したら彼のようになるに違いない。大柄な体躯と左目に刻まれた剣傷が歴戦の兵を彷彿とさせる。


「私がバルド=グランツである。戦術クラスの武器学および実戦格闘の授業を担当する」


 無駄を一切省き、必要なことだけをいうとバルド教官は自分の番は終わったとばかりに口を噤むと、ゼクトが満足そうに頷きこう告げた。


「よろしい。ではこれより移動を開始する。A班は私についてくるように。教室に案内する。わかっているだろうが、最初のテストは筆記による学識考査だ」


◆ ◆ ◆


 静かな部屋に30人分のペンを走らせる規則的な音が響く。

 そんな中、コウのペンは動きを止めていた。


――これ、なんだ。半分しかわからないよ。


 試験はおもに算術、歴史や地理、魔法理論の基礎、倫理規範の分野でそれぞれ試験が行われた。

 前半の簡単な問題だけなら、アーティ、フゥ、レムに教わった内容で特に問題ない。

 しかし、試験の後半になると初めて見る内容が増えてくる。

 例えば歴史の問題でこのような一節があった。


【問題】銀竜歴19234年(帝国暦412年)に締結された「黒羽条約」における第七条は、竜族と帝国のどちらの交易権を制限したものか。また、その後の戦炎月戦役(銀竜歴19244年、帝国暦422年)でこの条約がどのように解釈されたかを簡潔に記せ。 


――まるでなにを言っているかわからない。


 そもそも黒羽条約そのものをコウはしらないのだから答えようがない。


例えば倫理―


【問題】次の問いに答えよ。

「騎士が主君に忠誠を誓うのは義務か、それとも選択か。竜族の誓約と人族の契約法の違いを踏まえ、300字以内で論ぜよ。」


――騎士が忠誠を誓うのは義務じゃないの!? 誓約と契約の違いはわかるけど、どう書けば良いんだろう…


例えば魔法理論―


問題:次の魔法式における欠落部分を補い、正しい魔導陣を完成させよ。

∇Φ = α・(Ψ火 − □) + β・(Ψ風 ÷ □)


――これ、みんなとけるの?


 それとなく周囲を見渡すと、スラスラと解いているようにみえる。その中でも、斜め前に座ってるユリウスは全て書き終えたのか、満足そうに答案を見直しているようだった。


――すごいなぁ。


 素直に関心する。きっとみんなこの学校でやっていくためにたくさん勉強し、いろんな努力をしてきたのだ。


――ぽっと出の特別生が睨まれるのも無理ないね…でも、よしっ!


 ウジウジしても仕方がないと、気合をいれる。

 やれるところだけやってみよう。その気持でコウはわからない難問に対して自分なりに答えを書いていった。


 学識考査はおおよそ2刻ほどかかり、太陽が中天に差し掛かる頃、昼食の刻限を示す鐘の音とともに終わりを告げた。


「そこまで。ペンを置き、答案は裏返しにし、そのまま教室をでなさい。食堂で昼食を取ったあと、朝の集合場所にきて班ごとに並ぶように。昼食の時間は半刻だ。遅刻は減点対象となるのでそのつもりでいるように」


 ゼクトがまくしたてるようにそう述べると、教室の中は一気に弛緩した雰囲気に包まれる。

 ずっと同じ姿勢でいたからか、体が固くなってるようで、腰をひねるとギギギと音がしそうなくらいこわばっているのがわかった。

 首を回し、背伸びをしながら、コウは筆記用具を片付けていると、


「特別生、出来栄えはよかったのかい?」


 ユリウスがわざわざ話しかけてきた。


――どうこたえよう。。


 正直自信はない。ないのだが、なんとなくユリウスに対してそういうのはイヤだと思った結果―


「え、あ…うん。全部書いてみたけど…」


 なんとも曖昧な返事がでた。


「ははは!さすが特別生じゃないか!全問答えられたと!」


 周囲に聞こえるようなわざとらしい声量に驚く。

 遠巻きに聞いていた生徒たちがざわめく。


「まじかよ。後半かなり難しかったよな?」「私、全部かけてない」「当然私もできましたが」「特別生ってすごい?」


 生徒たちの言葉にコウはいたたまれない気持ちになる。嘘はいってなかったのだが、大事になってしまった。

 ユリウスはわざとらしく手を広げて言う。


「午後の魔法試験と実技試験も期待できそうじゃないか。せいぜい実力を見せてもらおうか」

「が、がんばるよ」


 ニヤリと笑うユリウスを真正面からみられず、目をそらしながら、コウはなんとかそれだけを答えると、そそくさと荷物を抱えて教室を出た。


――なんだか嫌な空気だな。


 素直にできなかったと答えればよかったのかなと。コウは思った。


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