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クォヴァディス ―滅びの剣と竜姫の誓い―  作者: フォンダンショコラ
第1部 1章 騎士に至る軌跡

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第5話 学友と自己紹介

「ほう、するってーとおまえさんは帝国領出身で、戦火を終われ孤児だったところを、黒竜王のフゥ様にスカウトされた特別生だったのか」


 あのあと、好奇の視線を一喝して散らしたレヴィンと向かい合って朝食をとりながら、レムとフゥが作ったコウの生い立ちを説明していた。

 二人の周辺には生徒はいない。かわりに腫れ物を触るような雰囲気で、遠巻きにみている視線を感じるだけだ。


「それは不憫だったな。帝国人とはいえ、帝国への忠誠などはないのだろう?」

「はい。帝国にはもう帰らないつもりです」

「そうかそうかそれは重畳」


 その雰囲気に全く動じることなくレヴィンはガツガツと気持ちのいい食べっぷりだ。大食いなのか、コウの2倍の量はありそうなサラダとパンを難なく胃袋に収めている。

 食べっぷりを唖然とみていたら、レヴィンが食うか?とパンを差し出してきた。物欲しそうにみえたのだろう。丁重にお断りした。


「フゥ様がおまえさんをスカウトしたのは何かしら才があるからだろう。まわりのやつらは気にせんでよい。どうせ直接何かできるような豪胆なやつはおらんよ」


 教師も見張っているしな。と皿のものを全て平らげ満足そうな表情でレフィンは言った。


「それよりも、だ」


 レヴィンが身を乗り出してコウに顔を寄せる。


「さっきの金髪のやつには気をつけておくんだぞ」

「最初に突っかかってきた人ですか?」

「そうそうそいつだ。名前はユリウスといってな。あれは騎士の名門レイヴンハルト家の子息でな。なんというか、思い込みと正義感が激しいやつなんだ」

「彼を知っているんですか?」

「まあ、一部の界隈ではちと有名人でな。優良問題児と呼ばれとる」

「…優良問題児、いったいどんなことをしたらそんなことに?」


 優良なのに問題を起こすというのがコウには想像できなかった。


「そうさな、自分の信じた正義を一方的に押し付けてくるタイプといえばよいかの」


 頭をガシガシとかきながら、レヴィンは苦々しく言った。

 その様子から、レヴィンと彼との間に何か因縁があったのだろうと、コウは思った。


――でもまだ、聞ける距離感じゃないかな。


 出会ったばかりで不躾な質問を続けるのはよくないと、アーティの礼儀作法の訓練で教わったのを思い出し思いとどまる。


「あー。コウくんじゃん!」


 コウの名を呼ぶひときわ明るい声がかかった。

 声の先を見ると、そこにはよく動く尻尾と耳をもった獣人の女の子ノアが、お盆を持って席を探しているようにみえる。


 彼女のとなりには見慣れない(二日目なのであたりまえだが)小柄な女生徒がノアの少し後ろに控えめにたっている。

 肩口まで伸ばされた柔らかな栗色の髪と、垂れ目がちな目に淡い琥珀色の瞳が印象的な一見して穏やかそうな少女に見えた。


「ノ、ノアさん、声が大きいです…」


 オロオロとノアの声の大きさを小声で注意しているが、当のノアには届いていなかった。


「やっほー。昨日振りだね。おや?ドワーフのお友達ができたの?」


 親しげに近づいてきて、どかっとコウの隣の空いてる席に腰をおろした。


「ほらほら、ミリアもそんなところにたってないで、座ったら?ちょうどいい具合に席があいてるんだし!」


 ミリアと呼ばれた控えめな女生徒は傍目でみても可愛そうになるくらいオロオロしている。見かねたレヴィンが助け舟をだした。


「ほれ、わしの隣が空いとるぞ。取って食ったりせんから座りなされ」

「あ、ありがとうございます」


 おずおずと椅子を引いて静かに着席した。


「で、で!紹介してくれるよね?」


 ずずいと、ノアが隣から顔を寄せてくる。昨日も思ったがノアの距離感とこの圧は絶対に普通じゃないと思う。

 コウは心持ち身を引き、そっとノアから距離を離した。


「え、えっと。彼はレヴィン。さっき食堂で助けてもらったんです」

「へーー!昨日に引き続き、助けてもらったなんてコウくんってばお姫様だね!」


 屈託なくそういうノアに悪意は微塵も感じられない。確かに昨日はノアに助けられ、さっきはレヴィンに助けられた。お姫様といえなくもないのだが、もう少し言い方を考えてほしいとコウは思った。


「レヴィン=カークスだ。見ての通りドワーフだ。戦術クラスを選択しておる。よろしく頼む。ノア殿」


 そう言ってレヴィンは礼儀正しく一礼する。


「あたしも戦術クラスだから一緒だね!よろしくね。私はノア。ノア=フィルシア。猫の獣人だよ」


 闊達と挨拶を交わし、レヴィンとノアは握手をする。

 自然と視線がコウに集まってきた。次はコウの番らしい。


「…改めて。コウ=ドラウグルです。レヴィンとノアと同じ戦術クラスです」


 二人は知ってるはずだから、ミリアに向かってにこやかに挨拶をする。コウの自己紹介をうけて、ミリアは小さく会釈をし、今度は自分の番だと居住まいを正す。


「私は―「あー!コウくんも戦術クラスだったんだね!」


 見事なまでにノアが話しの腰を折った。

 行き場を失った自己紹介のタイミングにミリアは若干口をひくつかせて笑って誤魔化しているのがなんだかかわいそうだ。


「ミリアも戦術クラスだから、この4人、全員一緒だ、偶然だね!」


 耳をピコピコ動かして嬉しさをアピールする様子は非常に可愛らしいのだが、コウはミリアを不憫に思った。

 しかし、元凶はというと、急に目を丸くするとミリアに視線を向けこういった。


「あ、ほら、ミリアも自己紹介しないと!」


 言われたミリアの目元が一瞬つり上がったのをコウは見逃さなかった。

 しかし、ミリアは心を落ち着けるようにコホンと咳払いをして気を取り直すと、再び穏やかににっこりと微笑んだ。大人な対応だとコウは思った。


「ミリア=ネスティアよ。戦術クラスを選択している人族よ。ノアとは部屋が一緒だったの。これからよろしくね」


 ミリアから差し出された手をコウは握り返した。細く長い指だが、どこか力強さを感じる。彼女がただの穏やかなだけの少女ではないのかもしれないとコウは感じた。

 —キンッ。硬質な音が遠くで響いた。


◆ ◆ ◆


 食堂で食事を済ませたあと、なんとなくコウ、レヴィン、ノア、ミリアの4人は連れ立って移動していた。行き先は集合場所に指定されていた大講堂の前庭だ。

 前庭につくとすでに大半の1年生が集まっているようだった。

 各クラスの教官がそれぞれのクラスをよんでいる声が聞こえる。


「戦術クラスはこちらに並べ」「魔法クラスはここだ」「統治クラスを選択してるみなさんはこちらにー」「儀礼クラスを選択してるものはこちらです」


 各クラスの人数差は戦術クラスが3に対して、魔法クラスが3、統治クラスが2、儀礼クラスが2くらいの割合みたいだ。


「わしらは一番右だな」


 低くよく通る声がするほうに向かうレヴィンのあとについていくと、


「―ち」


 舌打ちする音がした。音の主は、先に集まっていたユリウスだ。

 ユリウスは数人の取り巻きに囲まれている。みなユリウスに媚びを売るように話しかけているようだったが、ユリウスはまるで気にもせず、取り巻きを置き去りにしてコウたちに向かって歩み寄ってくる。


「特別生が戦術クラスで同じとは、実力があればいいのだが、実力もなく特別枠として入ったお前にこのクラスはふさわしいのか、今日のテストで見極めてやろう」


 近寄ってくるや、間髪いれず厭味ったらしく突っかかってきた。


「見極めるのはおぬしじゃなく、教官だろうに」


 呆れたようにレヴィンが突っ込みは残念ながらユリウスに黙殺する。


「特別枠を納得させるだけの力量をみせてくれるのだろう?」


 挑戦的にコウを見下ろしてくる。ユリウスは長身だから小柄なコウに近づかれると自ずと見下されるような形になる。


「…やれるだけのことはやります」


 正直自信はないのだが、自分にできることをやるしかない。そんな思いを込めてコウはユリウスから視線をそらすことなくそういった。

 コウの言動に、ほう、と感心したようにユリウスが引き下がった。


「まあいい。せいぜい騎士の品格を落とさない成績を期待するよ。特別生くん」


 ひらひらと手を振りながら、取り巻きを引き連れ、ユリウスは歩み去っていった。


「何あいつ!嫌な奴!嫌な奴!嫌な奴!」


 やりとりをみていたノアがコウの背後で地団駄を踏んでいるのを、ミリアが「まあ、まあ」と宥める声が聞こえた。

これから試験の始まりです。ちょっと間延びしちゃうかも。。。とおもいつつエピソードとしていれておいたほうがコウの現在地がわかりやすいかなーと。。


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