背後霊のお仕事とは?
守護霊とは何か?
守護天使や守護者など、天使や聖人などの霊格の高い聖霊の役職名であり、背後霊の監督でもある。
背後霊とは何か?
広義では、守護霊や憑依霊も含む、背後に立つモノの総称。必ずしも善性の存在では無いので注意が必要。
狭義では、指導霊、支配霊、補助霊などの、守護霊の指示で動く下っ端を意味する。
ボクの場合は、補助霊に当たるらしい。
なぜらしい、と疑問系なのかは単純で、死神に概要を聞いただけで、彼ら……ボク以外の背後霊と会ったことが無いからだ。
実のところ守護霊は、守りに特化しているため。
対象の死を避ける事で手一杯で、不幸から逃れ、幸せになるように導く余裕は無いらしい。
そこで、守護霊の指示で、指導霊や支配霊がより良い人生を送れるように働きかけ、さらにソレをサポートするのが、ボク、補助霊の役割なんだけど……。
死神曰く、例えご先祖様でも、異世界まで着いてくる酔狂な霊は珍しく。
ボクの親友の場合、辛うじて守護霊はいるけど、他はいないと言う悲惨な状況だそうだ。
だから生き死には、守護霊任せだけど……親友の新たな人生が、不幸に成るか幸福に成るかは、ボクの手にかかっている……。
責任重大だがヤるしか無い!
ただ問題点として、唯一の同僚であり上司でもある守護霊だけど……ボクとは霊格が違いすぎてコミュニケーションが取れないのがツライ。
姿は光に包まれ、声は澄んだ鈴の音。
うん、誰が何言ってるのかさっぱり分からない。
本来なら、指導霊や支配霊が中継して、ボクに指示が下るんだけど……いないから、どうしょうもない。
力なく明滅する守護霊は、なんとなくだけど、途方に暮れてるように思える……けど、戸惑っているのはボクも同じだ。
親友のご先祖様何やってんの?! と、言いたいけど、どうやら異世界逝きと合わせて“罰”の一環と看做されるらしいので、拒否した祖霊に文句も言い難い。
唯一の救い……と言うには何だけど、ボクと親友を殺した加害者は、地獄行き確定らしいので、そこはまあ、納得できるし……納得するしかなさそうだ。
まあいいや、難しいことや面倒なことは後で良い。
どうせ今のボクでは、大したことは出来ないんだから、考えて気に病んでも馬鹿らしい。
さて、お仕事お仕事っと……。
『そろそろミルクの時間だよ』
『今夜は冷えそうなんで、毛布増やしたほうが……』
『オムツ変えてやって』
『暇そうだから遊んでやったら?』
『泣いちゃったからあやしてあげて』
『疲れたみたいだから、そっとしてやって』
『etc.etc...』
“虫の知らせサービス”
背後霊のお仕事、その一。
ハッキリと聞こえる、伝わるワケじゃないけど……こうやって話しかける事で、なんとなく意思を知らせる事ができる。
とりあえず、元同級生……レミアの乳母っぽい人や、メイドさんっぽい人に声をかけてみた。
「……あらあら、お腹すいたようだね~奥様を呼びますかね~」
「……そうね~今夜は、暖房を付けておきましょう」
「……あらまあ~さあ、キレイキレイしましょうね~」
「……あらあらあら~まあまあまあ~そーれよしよし」
「おや? 寝ちゃったみたいだね~」
「……? 気のせいかね~」
ただ、相手や状況によっては全く気づいてくれないし、勘違いされることもあるのでアテには出来ない。
でも、数少ない背後霊のお仕事だし、頑張らないと―――
『過保護すぎるわ! たわけが!』
『ごめんなさい!? ……って、誰?』
―――とか思ってたら、いきなり怒られた!?
声のした方を振り向くと……誰もいない?
『誰もいない? え? お化け!?』
『たわけもの! 何処を見ておる!! こっちじゃこっち!!』
正面には誰も居ない。
でも、そこから声が聞こえてくる……なにコレ怖い?!
……っと、思ったら声は正面と言うか、下の方から聞こえてる?
視線を下げると、そこには赤いドレスを着た、気の強そうな女の子が立っていた……半透明で。
『やっぱりお化けじゃん!?』
『あほう! 誰がお化けじゃ! ソレを言うなら、お主もお化けじゃろうが!!』
ああ、そりゃそうだ……って、ことは同業者?
『見たところ成り立てのようじゃが……他のモノは何をやっておる?』
あ……それを聞きますか。
カクカクシカジカと事情を話すと……。
『……あー、その、なんじゃ……強く生きよ』
『いやいや、もう死んでるから!』
背後霊生活を始め、同じ立場の人とのファーストコンタクトは、こんな感じに始まった。