悪霊退散!……できたら良いな。
除霊と浄霊。
言葉は似てるけど、意味はぜんぜん違う。
除霊は、退魔の基本。つまり、霊にダメージを与えて、霊的に追い払うこと。
けど、これは一時しのぎでしかない。追い払うだけだから、また戻ってくる可能性もある。
ただし、“縁” が浅ければ、それでも自然に切れていくものらしくて。
大抵の場合は、これで問題なく済むらしい。
対して、浄霊はこの世からの卒業──
未練や執着を解き放ち、“あの世” へと魂を導く行為。
地獄か天国か、それとも転生かは、その霊のカルマ次第。
でも、とにかく “この世から消す” のが目的らしい。
もちろん、可能なら浄霊の方がベスト。
だけど、成功させるのは超難しい。
だから、現実には除霊で妥協するのが一般的らしい。
その除霊の手段にも、色々あるわけだけど──
……ボクが最初にやった “力ずく” って方法は、最悪の一手だったらしい。
──なら最初に教えてよ、ロゼさーん!!
『ほれ、それより今は──目の前の討論に集中するのじゃ』
──って、流された!?
『念仏を唱えるのも、大仰な儀式も──要するに、効率良く “説得” するための手段なのじゃよ。
つまり、対話で相手を言い負かせれば、それだけで退魔呪は不要になるのじゃ』
──言うは易し!
『同じ言葉でも、いつ何処で、誰がどう言うかで意味は変わる。
じゃがまぁ……ようは、気合じゃよ!』
──雑ぅううう!!
『なぁに、喧嘩と同じじゃ。余程の実力差がなければ、“気迫” で勝ち、“威圧” すれば勝ち確なのじゃよ』
(なんか……わかった気がする)
コレまで、いろいろあった。
死んでなかったら、ストレスで倒れてたかもしれない。
このいら立ち、全部ぶつけてやる!
──八つ当たりごめんねっ!!
『だからっ、これはボクの方が必要としてるって言ってるでしょ!?』
『オイオイ、それこっちのセリフだろぅ? 見ろよこの骨。ガリッガリだぜ? 栄養失調レベルだぜ?』
確かにガリガリだけど、見た目ほぼ妖怪だよね?
『こっちだってガリガリだよ!? 精神的に!!』
『はっ! メンタルが貧しいのは育ちの問題じゃねーの?』
『どうしてそうなるの!? ていうか、アンタもう “成仏の予定” ないでしょ!?』
『予定ってなんだよ!? オレだってな、生きてるんだよ! 毎日がサバイバルなんだよ!!』
『生きてないよね?!?
それにボクだって同じだよ!?
──供物なかったら消耗して消えるんだよ!?』
『じゃあ訊くけど、これ誰宛てだ!? オマエ宛てじゃねーだろ!?』
『アンタもなっ!? 無縁仏に便乗してるだけじゃん!?』
『こちとら近所付き合いってやつよ! 古参の顔ってもんがあるんだよ!』
『浮遊霊のくせにそれ言う!?』
(……ただの口ゲンカじゃな。だが、“討論”とは本来そういうものかもしれぬ)
『なぁ坊主、オレはここで長いんだ。秩序も仁義も知ってる。新参者が出しゃばるのは──』
『だったら訊くけどさ、アンタはそれで少しでも “マシ” になったの?
成仏の目処は? 徳は? カルマは!?』
『……ぐぅ……』
『ボクは違うよ! 少しでも霊格を上げて、ちゃんと先に進むつもりなんだ。
──だって、守るべき子がいるんだから!!』
『……』
『だから……譲れない!!』
『……生意気なガキが吠えやがって……あー、もう馬鹿らしくなってきたわ』
『えっ、逃げるの!?』
『ちげーよ! お前みたいな青二才とマジで争ってるオレが馬鹿らしくなっただけだ。あばよ!』
『……あ、ちょ、まっ──って……追いかける意味、ないか』
『勝ちを譲られたようじゃな』
『……なんか釈然としない』
『仕方あるまい。お主だけで退散させたわけではないからの。
恐らくじゃが──あやつ、わっちの存在に気づいたから引いたのじゃ』
『……えっ』
『姿は隠しておったが──お主が、わっちを気にしておったから、察したのじゃろう』
──ボクって……ダメすぎない!?
『それは今さらじゃな』
『ぐぬぬぬ……』
『──だからこそ、これからじゃよ』
『うん……うん、そうだね! がんばるよ!』
『良き心意気じゃ。ならば遠慮なく、ダメ出しをさせてもらうとしよう』
あ、コレ……お説教される流れじゃ……。
『どうやら分かっておるようで、分かっておらんようじゃな。
ならば、じっくりと説いて聞かせるとしよう』
『お、お手柔らかに……!?』
『安心せい。加減は心得ておる。
──わっちは弟子を死なせたことはないから、大丈夫じゃよ』
『……それもう死んでる前提の、ダメなやつっ!!』