きぇぇぇしゃべったぁぁぁ!?
ボクは今、戦っている。
目の前に立ちはだかるのは──おっさん顔の犬。
──人面犬。
その異形の存在と、なぜか……討論している最中だった。
『……だから、こうなるから、ああなるんだって!』
『オイ、オイ、それは違うだろぅ?』
この、不毛としか思えない言い争いは、すでに半日ほど続いている。
───
──
─
どうしてこうなったのか?
その原因は、ロゼさんとボク自身にある。
──すべての始まりは、実践修行のつもりでボクが人面犬を蹴り飛ばし、故意に“縁”を繋いだことだった。
イザという時は助けてくれる。
そのロゼさんの言葉を信じて、思い切った行動に出たのだが──今思えば、軽率だったかもしれない。
食事の問題は切実だった。
ボクにはもう肉体がない。
だから魂──つまり“魄”を維持するには、精気を補う必要がある。
選択肢は少ない。
宛先不明の供物、つまり無縁仏に供えられた花や食べ物。
それを頂くしか手短な方法はなかった。
けれど、それは既に他のモノの“餌”でもあった。
魑魅魍魎──満たされずにさまよう霊たちが、そういった供物に群がるのだ。
しかし、そういって供えられた品は、当然の如く、無縁仏の主のモノだが……。
その主が、成仏済の場合……供えられた品は、魑魅魍魎の餌になるのが常らしい。
とは言え、ソレは悪いことではない。死者の安寧を願う思いが込められてるため、満たされた魑魅魍魎が浄化されたりするからだ。
──で、ボクはボクのために、ソレを掠め取る必要がある。
そして……人面犬もまた、同じことを考えていた。
結果、生存競争に発展。
──いや、正確には死後の存続競争か?
『すでに死んどるから言い得て妙じゃが、止むを得ないことじゃな。
まあ実利もあるし、実践訓練にちょうど良いじゃろ。
なぁに、いざとなったら助けてやるから、気楽に行くが良いのじゃ』
『……うん、それなら!』
──このあいだの恨み辛み、返してやるっ!
『……まぁ最悪、骨は拾ってやるから安心せい』
『ちょっ!? ロゼさーん!? 骨なんて残ってないよ!?』
そんなやり取りの末、突発的な戦いが始まった。
ボク VS 人面犬──まさかの第一ラウンド!
『ところで、どうすれば勝ちなの!?』
『それは蹴る前に聞くべきことじゃな。
まぁ、その愚直さが良きところであり、悪しきところでもあるのぅ』
『うん、そうだね!
──だから早く教えてよ!? 本気でヤバいんだけど!』
『幽体同士の争いは、単純な力比べじゃ。
つまり──殴り倒せば良いだけじゃ』
『暴力反対! ……って、ボクが先に手を出してた!?』
そうして何度か──
殴っては、噛まれ。
蹴っては、噛まれ。
掴んでは、噛まれ。
払っては、噛まれ。
──噛まれ過ぎなんだけど!?
『ロゼさーん!?』
『……ほぼ互角ってとこじゃな。
このまま続けても、相打ちで両者に益はないじゃろうな』
『え? じゃあどうすればいいの!?
ロゼさん、ヘールプ!?』
『それはまだ早いわ。
単純な力押しが効かぬなら、絡め手じゃな。
──要は、成仏させてやれば良い』
『えーと……なむあみだぶつ? 』
『退魔呪か?
それは生者が行うモノで、死者である、わっちらが扱えるものではないぞ?』
『えっ!? じゃあロゼさんは、どうやって助けるつもりだったの?』
『魔法じゃな。
まぁそやつ程度なら、素の実力差で跳ね除けられるが……触りたくないしのぅ』
『魔法!? ──なんかズルくない!?』
『生前の修行の賜物じゃな。
──とはいえ、制限がキツいから、生きてた頃のようには、行かんのが遺憾じゃがな、かかかっ!』
なんか下手な洒落言って笑ってるけど……ボクはそれどころじゃないんだけど!?
そんなことを考えていたら──
人面犬が、ふと距離をとり……その場に静かに腰を下ろした。
『……オイ、小僧。もうやめないか?』
『──うわっ!? しゃ、喋った!?』
こうしてボクと、人面犬の第二ラウンド……討論は始まった。
──なんでこうなった!?