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ボクがヒーローならよかったのに……。

 『……だったら、背後霊やってみませんか?』

 

 カラカラと妙に明るく笑う黒衣の骸骨……髑髏の死神は、血塗れの自分の身体(・・・・・)を見下ろして、唖然としてるボクにそう言った。

 

 それから色々とレクチャーを受けて、ボクは今、異世界にいる。

 

 この世界に特に名は無いので。便宜上、砕月世界と呼ぶことにする。

 

 普通世界は一つで、分けて考える必要も無いので名前が有るはずもないが……こうして、異世界の存在を知ってしまった以上、区別するためにも名は必要だと思う。

  

 名の由来は単純で、天に浮かぶ月の3分の1が砕けて、常時欠けているからだ。

 ―――理由は知らない。

 

 だけど、ココが異世界であると強く実感させてくれるから、ボクは気に入っている。

 

 そんな、異世界情緒あふれる月夜。

 産声が静寂に響く。

 

 「オギャー! オギャー!」

 

 「おめでとう。ほらほらしっかりなさい。

  元気な子だよ……うん、こりゃ美人になりそうだね~」

 

 「……ミレル! 無事か!? 子は……子供は大丈夫か!!」

 

 「あらやだ騒がしいね~、ガイン様ったら~。

  見ての通り二人とも元気だから、落ち着きなさいな……」

 

 月光に祝福され、異世界……この世に生まれでた女の子。

 

 彼女の生涯が閉じるまで、健やかに生きる姿を見守ることが、ボクの使命であるらしい。

 

 詳しい状況は理解しきれて無いが、死神曰く。(カルマ)の精算は重要なことらしく。

 

 自殺(・・)した事に成っているボクが、地獄に落ちないために必要なことだそうだ……。

 

 事故死だったのに、自殺扱いされてるのが、未だ納得できないが……仕方がない。

 

 信号無視で交差点に突っ込んできたトラックの前に居た同級生を庇おうとして、助けきれずに、一緒に死んだ間抜けなボクだけど……死ぬ気なんて無かった。

 

 ―――死なせる気もなかった。

 

 同級生は普通に事故死扱いで、輪廻転生。

 

 ボクは……自ら死を選んだとして地獄行き。

 

 ふざけるなと!! 言いたかったが、泣こうが喚こうが摂理は変わらない。

 だが、死神曰く。情状酌量の余地はあるらしい。

 

 ただの自殺なら、地獄行き確定だけど。

 人助け目的の自殺行為なら善行と看做され、罪は免ぜられるそうだ。

 

 しかし、それは人助けに成功した場合であって……ボクみたいに、助けられなかった場合は適用されない。

 それでも助けようとした行為自体に価値はあるらしく……それが、冒頭の言葉に繋がる。

 

 『背後霊? 守護霊のこと?』

 

 『ははは、違います。あなたは守護霊に成れるほど“(ダルマ、)”は積んでません。

  ですが……守護霊見習いとして、背後霊と成るくらいの“功徳”はあります。

  

  ―――それに、助けようとした人を、一回失敗しただけで見捨てるんですか?』

 

 『見捨てるも何も……もうどうしょうも無いじゃないか!?』

 

 『はい。ですが、“縁”はまだ繋がってますし……実のところ、若死にすること自体罪なんですよ。

  輪廻転生はしますけど……それが枷となり、来世は良い境遇には成れないでしょう』


 親より先に死ぬのはアウト。

 子々孫々との繋がりを否定する行為だからだ。

 

 ついでに、子孫を残さずに死ぬのもアウトなんで、同級生はツーアウト。

 その状態での転生なんで、色々と不利な条件が付くそうだ。

 

 ボクの方も早死未婚でツーアウト。さらに自殺扱いのせいで、スリーアウトで地獄行き……ではなく。

 情状酌量。ツーアウトツーストライクって感じで、まだ、ワンチャンスあるらしい。


 『そこで、提案なんですが……』


 そんなこんなで、ボクは、同級生の背後霊に“成る”ことが決まった。

 

 決まった後の展開は早く。この世とあの世の仕組みとか、背後霊の心得などをレクチャーされ。

 あれよあれよと言う間に、同級生の輪廻転生の準備が整い。

 

 ボクの背後霊デビューが決まった。

 

 ただ、想定外だったのは……同級生の転生先が、異世界だったって事だ。


 ―――それと、誤算がもう一つある。

 

 同級生……ボクの友人で、親友でもあった。“彼”が……“彼女”として転生してしまった事だろう……。

 

 「この子の名前は、レミア。

  ―――レミティア・グラン・トゥールニヲンよ!」

 

 グランドリア帝国伯爵領領主。

 太守(カウント)“アンガレッド・フォン・トゥールニヲン”の次男……。

 子爵(バイカウント)“ガウェイン・ド・トゥールニヲン”と、旧皇族の“ミルティア・グラン・トゥールニヲン”の二人の間に生まれた……元・親友。

 

 よくわからないけど貴族生まれ? 勝ち組じゃないか!?

 なんだよ、死神の奴め、不幸になるってさんざん脅かしといて……でもまあ、コレなら本当(・・)見守るだけ(・・・・・)で良さそうだ。

 

 いやーよかったよかった~。

 

 ―――と、その時のボクは、何も分かってなかった。

 

 “トゥールニヲン”の名の意味も、旧王族の“旧”が何を意味してるのか……何も知らなかった。

 

 父と母にあやされて、無邪気に笑い、無邪気に眠る、普通の赤子。

 元・親友の姿を、眩しそうに、どこか羨ましそうに見ているだけだった……。

テーマソングもあります。

ttps://suno.com/s/fj7s8xmeJ6y6ZJ8W

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