槍ヶ岳 (ふるさとに寄せて1)
槍ヶ岳
遠く畝りながら
雪を被ったアルプスが
私を直視している
鋭い槍先が天に向けられ
昼には太陽やそこを横切る雲の群れを
夜には天の川を泳ぐ煌めく魚を射る
ひとり立ちそびえる群青の槍
若き日の父が見たその槍先
何を突き刺そうとしていたのだろうか
今では天からその槍先を見下ろし
若き心の憤りや叶わなかった思いなどを
変わらない青い山脈の畝りの中で
広く大きくなった心のレンズで見下ろしているのだろうか
父が生まれるずっと前から
父が死んだ後も
これからずっとずっと何千年以上も
槍ヶ岳は空に槍先を向け
仁王の如く立ち続けるのだろう