EPISODE:048 [ピンチはピンチ]
ダルいわー。なんで壊すんさ~。何してくれてんの?マジで。
私と女の間の距離はおよそ25メートル。学校のプール程だ。女の走るスピードを考えると、もう逃げおることは出来ない。
横目でフェルを逃がした通路を見ると、あいつの姿は陰一つ無かった。
まさか、この私がNPCを逃がす為に足止めをするとはな…。あの馬鹿共に知られたら、煽りの集中砲火をくらうのは確実だ。
まあ…、別に倒してしまっても構わんのだろう?
腰に装備していた斧を手に取り、女に向かって投擲すると同時に、長剣もすぐさま引き抜いて投げつける。
斧は横に、剣は縦に回転しながら飛んで行き、風切り音が二重に聞こえる。このままいけば直撃は免れないだろう。
しかし、私の投擲の予備動作を見て、どちらも右手の剣一本で簡単に弾かれてしまう。
弾かれた斧と長剣は破壊され、斧は刃の上から3分の1が無くなり、長剣に至っては刃が根元から折られて10センチしか残っていなかった。
それらの周辺には壊れたパーツが散乱していて、これではもう修復は出来ない。
予想はしていた。
これくらいの攻撃で傷を負うのならば、ステータス差が有っても倒せるのだが……。そう簡単にはいかないか。
相手はどうやら、ある程度の技術は持っている様子。《剣術》が上位のスキルになっていたしな。
今の状況は…、そうだな。中堅プレイヤーに初狩りされてる感じか?
…全くもって問題無い。
スキルには見えないPSを見せてやるよ。
背中から槍を引き抜いて両手で持つ。そして、私は足を不規則に入れ替えながら小さくジャンプをする。
ターンッ。タターン…ターン。タッーン。タタタターン。
いつまで経っても攻撃する動作は見せない。そんなクソみたいな時間が過ぎる事で、女は困惑すると同時に警戒を強めた。
相手が急に意味不明な行動に出ると警戒するのは当然だろう。何か有ると勘ぐって観察に徹する。
だが、実際の所、この行動に深い意味はない。強いて言えば、相手に慣れさせてからタイミングをずらすことで、正面から奇襲を仕掛けれるといった事ぐらいだろうか。
一応雑魚は引っかかるけど、時間掛かるし、使い勝手が悪いしで誰も使ってない。知ってる奴には意味ないしなー。
私は別にフェルを逃がせればそれで良い。これで時間を稼げるのなら、いつまでもやってやる。
え?PSを見せるんじゃないのかだって?何言ってんだ、今見せてるだろうが。
しかし、そんな時間は何時までも続かない。女が痺れを切らして魔法陣を5個宙に浮かべる。
ターン…ダッ!!
それに対して、私は出鼻を挫く様にして逆に女に向かって走り出した。
女と私の間の距離が直ぐに無くなっていく。
女は向かってくる私に驚いたが、気を取り直して魔法を放った。
私は魔法陣の角度から予想して、その全てを紙一重で避けていく。
掠ったら死ぬ。それ程の熱量を間近で感じて、私は笑う。嗤う。
生と死の狭間!その間をタップダンスしながらする闘争ほど面白いものは無い!!
もう既にこの身体は死んでるがなぁ!
弾幕を潜り抜けると、私は飛び上がって上段から槍を女に向かって振り下ろす。
女は双剣を交差させて私の槍を受け止める。
硬い。ビクともしねぇ。まるで岩に叩き込んでるみてぇだ。
だが、敢えて更に押し込む。地面に着地しても思いっきり力んで、《魔闘法》も使う。それでも、動かない。
何故か、女は力勝負で勝っている筈なのに顔を引き攣らせている。
「ガア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッ!!!!」
「ッ!?」
今まで使ってこなかった《叫び声》を使うと、女の身体は一瞬だけ痙攣する。
隙有りッ!
それを見逃さず、私は槍を瞬時に逆手に持ち替えると首に突き込んだ。
しかし、女は痙攣から回復すると直ぐに首を捻ることで回避する。辛うじて穂先は当たったのだが、女の物理防御力を抜けなかったから傷は付かなかった。
ダメージが通らないよ~(笑)
ハハッ、萎える。
女が双剣で槍を上に弾き、空いた私の胴に蹴りを放とうとしてきた。
しかし、弾かれた勢いのままバク転をして、それを回避する。
そのまま距離を空けて、仕切り直しといこうとしたところ、急に女が口を開いた。
「あまり気分が良いものではないな」
憂鬱そうな表情で、私を今まさに追い詰めている女の言い草ではない物言いと態度に、私は若干ながらキレる。
(ああ・?・同情・か・?・クソ女・シバき・回す・ぞ・!)
「なッ!?ステータス欄に有ったスキルの《念話》か?」
私の咄嗟の《念話》に女は暫し唖然するが、直ぐに顔を引き締めて答えた。
「魔物に同情などするか!下郎!お前を手早く殺せない私に苛立っているだけだ!」
短気乙。ていうか、私のステータスが何気に把握されていて泣ける。
(私・は・お前・よりも・上手い・からな)
「………」
クリーンヒットでやっぱ嗤えるわ。
あら、黙っちゃった?技術で負けて悔ちい~?ねえねえねえねえねえねえ(笑)
おちょくるようにして、前屈みになりながら首を小刻みに傾げ続けていると、突然大きな魔力を感知する。
勿論大きな魔力の正体は女。女の身長と同じくらいの魔法陣が宙に浮かべられ、ヤバい状況という事だけが分かる。
一体どうしてこのような事に。
†┌┘墓└┐†
え?まだ早い?




