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跳ねまくりシンカー

 

 風そよぐ明るい森に乾いた音が小鳥の囀るように小気味よく響いた。音の主はその手にある長い取っ手のある筒を念入りに気持ち悪いほどに睨んでいる。その目線が森が夕暮れほどになったとき一つの声とともに別の、音の主の友の方へと向いた。


「よう。こんな時間まで森にいて狩りもせずによく暮らしていけるな。まぁ、もうすぐ大会もあるがお前ならそんなに気張らなくても大丈夫だろうが。飲みに行こうぜ」


 声を発したのは大きな筒、音の主と同じようなものを背負う男だった。彼の名前はリガトゥ。音の主、サナイの友である人物だ。


「っと!そんなー!睨まなくたっていいぜ!あー……あれだろ最近調子が悪いんだろ。それでも他の射手と比べたら圧倒的にお前はまるで神の恩寵でもあるかのように射撃が上手いじゃないか。どうせ今の不調もスランプで直ぐ治るさ。それに前より射撃の腕は更に上手くなってるかもな」



 サナイは目線をその筒に戻した後、直ぐにリガトゥの後ろの方、彼らの住む町の方を眺め、背負う荷物をひょいと跳ねて、からいなおすとリガトゥを無視し町の方へ歩く。

 森には彼と彼の友の他には彼らの同業者の射手と獣、そして森の浅いところでは人の子がいるのみで時々響く乾いた音と獣の唸り声、子供の叫び以外には何も無い静寂でいつも満たされる。また今日も通例通りであり、彼らは無闇矢鱈に騒ぐ。なんていうことはなく黙り込む。

 

 夕暮れの森の奥はすっかり宵のような闇が勢力を強めている。そうなれば闇の中には恐ろしい、怪物が、現れるとこの町では語られる。だがそれは子供が森の奥へと入らないようにする。いわば作り話である。もし、怪物がいたところで、夜の森は大人でも危険な場所なので闇にしか現れないその怪物が恐れられることはまず無いだろう。



 そうして子供がこの手の話に震え上がり眠りにつく頃とある酔うことばかりが取り柄の安い酒と美味とはとても言えない食物が売られる……酒場とでも言えば良いのだろうか場所でサナイとリガトゥは騒ぐ。

サナイが言った。


「クソっ!いつもの俺ならば、地平の向こうの小鳥さえ一匹も逃さないのに!何故だ!何故たかがリスごときを逃すんだ!?!」


 サナイは酒は飲まずに固い肉を苛立ちの当てつけのように噛み締めて自身のことをまくしたてる。

 そんな森の静かな様子とは打って変わって喧々諤々な酒場で彼の友人のリガトゥは店のウェイトレスに少しばかり高い酒を頼むと落ち着いた口調で淡々と喋る。


「いいじゃないか。今までが可笑しかったのさ。お前は地平の向こうの鳥を墜としたとき何を思って引き金を引いたんだ?答えられないなら、それが答えだ。それにお前が撃ち漏らしたリスだって地面の向こうじゃないか。そんなの誰だって撃ち殺せないさ。そんなに。神の御業のような射撃なんて求めなくていいんじゃないか。俺たち射手は見世物小屋の芸人じゃない。弾を標的に当て、撃ち殺す。それが俺たちじゃないか。その為なら何でもする。距離なんて知らない。弾を詰め、引き金を引く、あとは弾に祈りを込める。それだけだ。お前は何処を目指しているんだ? 凄腕の暗殺者? 曲芸師? それとも猟兵にでもなって人を大量に撃ち殺すのか? お前が俺に射手への憧れを語った時の眼差しを俺はまだ覚えてるぞ。怪しく、悪魔に百発百中の弾をもらえるとあれば、全てを払って何もかもを撃ち殺す、透徹した目をしていた。けれども射手になることだけは譲らなかった。だが今のお前はすっかり高名な射手になってもう何年だ。えー……そうだ。五年も経って今年で二十二か?……だったら」


「――リガトゥは話が長いんだよ!! 結局何が言いたいんだよ?!」


「ん?そりゃあ、…………特に無いな。しいて言うならお前は十分凄いってことか。そんなに童話みたいなことを喋って、出来た、出来ないなんて語ったら他の射手が嫉妬したり、そいつらの基準がおかしくなったりするからな。そこで、こう。酒を飲んでな。少し頭をバカにして、そのアツアツの頭を少しでも冷まそうってことだよな。うん。つまりだ。……あっ、酒ならここに置いといてください」


「はい。他に注文はありますか?」


「じゃあソーセージ適当に四つ」


「かしこまりましたー」


「でな、話に戻るぞ。いつもお前はギリギリを攻めすぎなんだよ。もうガキじゃないんだから余裕を持って、程よく息を抜いて」



「長い!!」 


 サナイは肉を噛み千切り、此処では喧騒の中に溢れる内の大声の中でも少し大きな声を出す。すぐ隣の席の客は少し驚き、四歩ほどに離れた席では誰も彼の声を聞き止めずに騒ぎ続けている。サナイはそんな様子は全く知らずにリガトゥを睨んで、その元の苛立ちを散らすためによく噛みもせずに肉を飲み込んだ。  

 

「ゴホォッ」


 彼の喉に肉の筋が詰り呼吸を二秒ほど阻害した後、彼は肉を口に一旦戻してから今度はゆっくりと飲み込んだ。


「もういい。俺は帰る。酒は飲まない主義なんでな、じゃあな」


 軽く手を振りサナイは彼の頼んだ肉とリガトゥが頼んだ酒の代金程度の貨幣をリガトゥに渡した。そうしたら直ぐに店を去っていった。

 

 

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