婚約破棄されましたが、隣にいるのって……
卒業パーティ。
「君との婚約は破棄する!」
その会場のステージで。
そこからそう告げるのは、私の婚約者『だった』レイ・アルバーツ王子。
……変えられなかったか。
そう、心の中で呟いた。
突然だが、私は転生者だ。
……正確に言うと憑依者?になると思う。
この世界は『階級差のリナリア』という学園乙女ゲーであり、そこの『悪役令嬢』であるエリカ・エヴァーギスに突然なっていたのだ。
……ちなみに、このエリカというキャラ、作中最大級の嫌われ者である。
ストーリーで主人公に嫌がらせはもちろん、バトルでも『分身魔法』とかいうので毎ターン2回行動してくる。
それだからレイ様に婚約破棄されるんだよ(ネタバレ)
しかし、やったことのあるゲームのため、婚約破棄を回避してイケメン+王家のレイ様と結婚できるだろう!と高を括っていた。
だが、現実は非情である。
……友達ができないのだ。(クラス40人中1勝37敗)
まあ?主人公である『マリネ』とは親友になったのでセーフ(マリネがレイ様のことを好きじゃないのを確認済み)だと、思っていたのに……。
婚約破棄されたと言うことは、どこぞやの女狐に取られてしまったのである。
……何諦めているのだ。
まだ理由を聞いていないではないか。サプライズかもしれん!
「レイ様!理由を、理由を教えてくださいまし!」
「理由は、お前よりも献身的に、心身ともに支えてくれる人ができたからだ!」
支える力がなかったのはちょっと自覚がある。
つまり……女狐だな?(2回目)
いずれにしろ許せはしない。
「……ではその方を、私に見せてください。私よりあなたに相応しいか、チェックしてやりますわ!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
王子が「出ておいで」と囁いている。
さて、どんな奴が……。
私は、言葉を失った。
私と色違いのドレス。
私と同じ体型。
私と同じ顔。
私と同じ髪型。(色違うけど)
「エリナだ」
王子が名前を教えてくれた。
……いや、わたしの分身じゃねーかよ!
何でアンタそんなとこいんの!?と思念を送ってみれば、
『助けてください……私、学校内を歩いていた時に、この方達が怪我をされていたので助けただけなのに……』
……だんだん笑いが込み上げてきた。
え、『私の分身』を好きになったから『私』との婚約を破棄するってことでしょ?
どっちも私ですよ!
能力と性格ほとんど一緒なのに!
ってか、この方『達』?
「おいレイ!俺たちもいるっつーの!」
そう言うと、傍から2人出てきた。
確か……攻略対象の『ヨウ・クラーベル』と『チェイス・メズル』!
「俺たちも、この子に救われた……好きになってしまったのだ!」とチェイス。
もうだめ…笑いが堪えきれない……!
「「「?」」」
『笑ってる場合じゃないですよ!助けてください!』
いいじゃないの、イケメン3人よ?
『……助けてくれなかったら行為中にずっと頭の中で実況してやります』
ごめん。それはやめて。
「そう……俺たちはお前にない、社交性と彼女の優しさに惚れたんだ!」とレイ。
いや、だからそれ私の分身……。
……ちょっと…おもしろすぎるんですけどっ……(必死に笑いを堪えている)
これ以上はまずい。話を切らなければ!
「……ええ。どう…やら、ふふっ、私はお邪魔のようね。ふふっ…(笑いが堪えきれてない)」
「ああ、そうだな!さあ、出ていくがよい!」とレイ。
何の権限があって……パーティから追い出せるのよ……
ふふっ、いやもういいわ…。
じゃあね。分身、お幸せに。
私は、卒業会場を後にした。
『ちょっとぉー!実況しますよ?まじで実況してやりますからね!』
あとで助けてあげるから静かに!
家に帰り、分身を呼び出す。
「えーん!もっと早く助けにきてくださいよう!」
「元はといえばアンタが王子達を助けたのが悪いんでしょう!?」
そうでした……と項垂れる分身。
でもでも、人助けはいいことですよ!と反論してくる。
……確かに、よくよく考えれば。
「王子のアホさには、アンタのおかげで…ふふっ…気づけたわね。」
やはり、まだ面白い。
クスクスと笑っていると、「あなたって人はー!!」と、分身に怒られた。
<王子視点>
分身が呼び出された後……
「さあ、エリナ、私と一緒に踊ろ……。」
レイが許可なくエリナの部屋に入ると、そこには誰もいない。
「どこだ!?エリナがいない!」
必死に部屋の中を探すレイ。
ベットをひっくり返し、引き出しを全て開けて。
「どったのーレイ?」
「何があった……?」
「!聞いてくれ、ヨウ、チェイス!」
その後、合流した2人と共に探すものの、エリナは見つからない。
「「「エリカの奴が、何かしたんじゃないのか!?」」」
その後、エリカを指名手配したが見つからず、3人はエリナに二度と会えなかったそうな…
<数年後、エリカ視点>
王子がいた国から遠く離れた場所……
「ふふっ…ちょっと、見てよこれ…っ…。」
分身を呼び、読んでいた新聞の記事を見せる。
「レイ王子とその仲間達、追放……え。何したんですか!?」
「私は何もして無いわよ。」
その記事には、レイ王子、ヨウ、チェイスが3人揃って国から追い出されている写真が載っていた。
どうやら『人体錬成』なんてものを行おうとしてたらしい……。
「恋は盲目とはよく言ったものね。ま、私もだけれど。」
あの時の自分も、王子と同じ考えだったのだろうと、今思う。
内面を見ずに、イケメンで、王家だからなんて……。
「エリカ!もうお茶会の時間ですよ!今日はマリネちゃんと久々に会うんですから!」
「ええ、わかったわ。今行く。」
婚約破棄を笑い話にでもしてマリネに話そう、と思ったエリカであった……。