第5章-第12社 次々に浮かび上がる謎
念話で悠から連絡を受け、秋葉たちは2階へとやってきた。中央階段の傍で待機していると聞き、そっちへ向かうと曲がり角の壁際にしゃがんでいる悠と詞貴がいた。
「2人とも無事!?」
「秋葉! あたしたちは大丈夫!」
憑依を解いた状態の秋葉が真っ先に2人へ駆け寄ると、悠から返事が来る。見たところ怪我などはほとんど負っていないようだ。秋葉はホッと息を吐きつつ、後からやってきた多田、美澪、亜莉朱にこっちへ来るように手を振る。
「おい、海希はどうした?」
「あー……それがですね……」
悠たちの引率をしているはずの海希がいないことに気づいた多田が声をかけると、詞貴が気まずそうに事情を話し出した。
「1人で下に降りた!?」
「う、うん。警備員が下に降りたから一足先に助けに行くって言って……」
話を聞いていた秋葉、美澪、亜莉朱の3人から一斉に詰め寄られ、詞貴はその圧に怖気づきながらも説明する。 傍で聞いていた多田は、額に手を当てて心底呆れたように溜息を吐いた。
「ったくあいつは自分1人で行きやがって……。仕方ない、俺たちも早く合流するぞ」
「はい!」
多田がそう言い放つと、秋葉を含めた1年生は首を縦に振った。その後、多田を先頭にして下に続く中央階段を進み、1階へ降りた秋葉たちは目の前の光景に目を見開く。
「何この祟気の量……」
フロア全体に広がる黒い靄を見て美澪が呟く。通常、霊眼を起動させなければ視えないほどに薄いのに対し、ここに浮かんでいる祟気は起動させずともパッと見で分かるほどの量を誇っていた。
「この分だと、上にいた幽霊よりもここにいる奴らの方が強くなってるだろうね」
美澪の横で霊眼を発動させた詞貴が、遠くでうろついている幽霊を視ながら言った。同じように秋葉も視てみると、上の階で祓った幽霊とは段違いの量の祟気を纏った幽霊がそこかしこに群がっている。
「いいかみんな。祓力をいつもより多めに回せ。これを直に浴びたら、いくら俺たちでも無事じゃ済まないぞ」
多田は指示を出しながら祓力で更に全身を強化し、刀に手を掛ける。秋葉たちも祟気の影響を受けないよう、最大限身体に祓力を回す。
(早く海希先輩たちを見つけないと……)
そう己が身に『紅桜』を憑依させようとしたところで、トントンと後ろから肩を叩かれた。前には多田先輩と自分以外の1年がおり、自分の後ろには誰もいないはず。
じゃあ一体誰だ……と思いながら慎重に振り向く。
と、そこには全身血まみれの海希が懐中電灯で自身を照らしながら突っ立っており、天音の操作するドローンが浮かんでいた。
「ぎゃああああっ!?」
血濡れの海希を見た瞬間、秋葉は悲鳴を上げる。先を進んでいた多田たちが振り向いて足を止めるとともに、秋葉に向かって静かにするよう口元へ人差しを当てる。
ついやってしまったと謝りつつ、幽霊がまだ気づいていないことを確認した秋葉は、悲鳴を上げる羽目になった主犯へガバッと顔を向ける。
「海希先輩っ! 驚かさないでくださいよっ!」
「いや、みんな集まってるから声かけようとしたんやけど、こっちの方がおもろそうかな思て」
「この期に及んで何悪巧みしてんですかっ! というかその血大丈夫なんですか!?」
秋葉はできる限り声を落としながら海希にこれでもかと詰め寄る。ライトを消した海希が一瞬、きょとんとするも、何を指して言っているのか理解したようで口を開く。
「あぁ、全部返り血やから大丈夫やって」
「あ、なら良いです」
海希が何ともないというふうに笑って話せば、秋葉は一気に興味を失ったかのように冷めた口調で返した。
本当、余計な心配かけさせてやがって……と内心怒っていると、海希が来たことを知ったみんなが駆け寄ってくる。
「2人とも心配かけてすまんな」
海希は真っ先に近づいてきた悠と詞貴に対して申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「本当ですよ! 天音が着いてるとはいえ、ほぼ1人で行ったようなもんなんですからね! あれ!」
悠は開口一番、海希に向かって非難の言葉を並べる。が、その表情にはどこか心配の色が見えた。
「もう待ってる間にコロッと殺られて死んでたりしないかなって思うと心配で心配で……」
「ちょお、人のこと勝手に殺すなや」
わざとらしく目元に指を当てながら泣き真似をする詞貴に、海希はすかさずツッコんだ。
そんな3人を秋葉は、僅かな短い時間でどれだけ仲良くなったんだ……と苦笑交じりに呟く。秋葉の傍で様子を窺っていた天音もドローン越しに激しく同意しており、念話で『分かるっすよ~』と言ってきた。
そして悠と詞貴のやり取りがひと段落したところで、多田が海希へと歩み寄る。
「無事で何よりだ。それで、警備員は?」
「だいぶ祟気に当てられとってな。気失ってたさかい、担いで外に連れ出して結界貼って浄化ついでに守っとるところや」
窓の方へ目を向て話す海希に、秋葉を始めとした1年は安堵の表情を浮かべる。
そういうことならば安心だ。不安要素がない分、自分としても気兼ねなく幽霊討伐に集中できる。
「せやけど、気になる点があってな。あの警備員、祟気は吸うとったけど、幽霊に襲われた形跡が1個もあらへんかったんよ。周りにはうじゃうじゃ幽霊がおったっちゅうのに」
「え、それってどういう……」
秋葉が問いかけようとした途端、背後から何かが迫ってくる気配がし、その場にいた全員が瞬時に身を翻す。秋葉たちの前に次々と幽霊が集まってくる。その数、およそ数十体。秋葉は『紅桜』を憑依させていつでも迎撃できるように体勢を整える。
「考えるんは後や。まずはあいつらを祓うで」
刀を抜くと同時に刀身に霧を付与した海希は、腰を落として相手に対して剣先を隠す霞の構えを取る。秋葉も刀を正面に構える正眼の構えでタイミングを窺う。と、ドローンで敵の情報を感知していた天音から念話が入る。
『観測したところ、このフロアにいる祟魔たちはほとんどが烈級相当っす。祟気をどうにかできれば弱まるかもしれないっす』
「ならフロア全体の浄化を美澪、詞貴、亜莉朱の3人で頼む。その間に俺と海希、秋葉と悠は連携して祟魔を討伐だ」
「了解!」
多田の指示を受け、頷いた美澪たちは浄化の際に邪魔が入らないように安全な場所に向かう。
3人が離れるのを確認した海希が先陣を切る。海希は幽霊たちへ駆け出すと、横一線に霧の刃を飛ばして3体纏めて祓い、流れるように横から来た幽霊へ袈裟斬りを喰らわす。続いて多田も正面から放たれた炎を祓力を纏わせた鞘で弾き、回転斬りで始末する。
(私たち巫級代報者じゃ連携しないと倒せない相手をあぁも簡単に祓っていくなんて、やっぱ先輩たちは凄いな)
次々と幽霊を祓っていく2人に感化された秋葉は、祓力でコーティングした紅葉を展開させて噴射された蒼い炎を攻撃を防ぎ、桜の花弁を帯びた刀身で祟核を貫く。
すると、背後にいた幽霊が秋葉に向かって腕を振りかざてきた。振り向きざまに身体を逸らして避けるが、風圧で頬が切れる。ピリッと痛みが走るも、構うことなく反撃しようと刀を構え直す。と、左右の壁と床からツタが伸び、幽霊の両腕と脚っが拘束された。動きが止まったのを見た秋葉は、即座に葉を纏った苦無を手にした悠へ声をかける。
「合わせるぞ!」
「オッケー!」
同時に踏み込んだ2人は幽霊の前後に取り付くと、刀と苦無で祟核へ斬り込んだ。攻撃した拍子に桜の花弁と葉っぱが舞い、幽霊が消滅した。
その後も連携を取りながら祓うこと数分。多田がラスト1体の祟核を貫き、幽霊が靄となって消えていった。
「これで一旦、全部か」
「ですね~。でも今のところ祟気が増加してる原因になりそうなものは見つかってないような……」
一息ついた多田が納刀する中、フロアの浄化を終えて途中から参戦した美澪が銃を仕舞いながら溢した。
すっかり幽霊退治に夢中になっていたが、美澪の言うように今回の任務は祟気増加の原因究明も含まれている。上で祓いながら探索していたがこちらでもそれらしきものは見つかっていない。
『それについてなんですけど、どうやら祟気の発生源はこの下にあるみたいなんすよね』
「下? でもここって1階やんな? 地下があるわけでもないし……」
天音の話を聞いて首を傾げた亜莉朱は床に視線を向ける。生徒会室で豊田から配られた資料ではこのビルは1階から10階までと書かれていたはずだ。当然、地下があるなんてことは――。
『それが、その地下があるんすよ』
「……どういうことだ?」
天音の声色的に嘘をついているような感じは見受けられず、戸惑った秋葉はそう訊き返すのだった。




