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第5章-第11社 隠れて祓って大騒ぎ(悠side)

 一方その頃。3階で幽霊を祓っていた(ゆう)たちは順調どころの話ではなかった。

 

『なんであの警備員、妙に気配に鋭いの!?』

 

 しゃがんだ体勢の悠は、オフィス内に並べられたデスクから顔を覗かせて様子を窺う。


 その視線の先には、警備員の服を着た中年男性が暗がりの中を懐中電灯で照らしながら辺りをキョロキョロしていた。

 

『あー、こらしばらく動けそうにあらへんな』

『どうしましょう先輩……』

『ここは出ていくん待つしか無いやろ』


 悠の隣で同じようにして警備員が去るのをじっと待つ海希(みき)詞貴(しき)から念話が飛んでくる。

 

 なぜこのような状況になっているのか。

 

 秋葉たちと別れた悠、海希、詞貴の3人は天音のドローンに導かれる形で、5階から順番に降りてビル内に蔓延る幽霊を祓っていたのだが、3階で警備員とばったり遭遇。


 海希の咄嗟の判断で、すぐ傍にあったオフィスへ入ってデスクに身を屈め、こうして警備員が出て行くのを今か今かと待っているのだ。


 しかし、問題はここからだった。


 そう、警備員の気配感知がやけに鋭いのだ。


 現状、悠たちは気配を消しており、天音もビル内に潜入して以降はプロペラ音を消している。


 にもかかわらず、隠れてからかれこれ3分経った今でも警備員がうろうろしているので、出るに出られない状況が続いていた。

 

(このままここでじっとしてたら幽霊を祓うに祓えない。何かこの現状を突破できる方法があればいいんだけど……)

 

 そう思案していると、同じく考えていた詞貴が顔を上げた。


『あ、そうだ。天音のドローンで何とかできないかな?』

『というと?』


 海希が詞貴へ視線を移しながら問いかける。


 悠は少し視線を下げて、地面スレスレを滞空しているドローンを見る。だが一体、これをどう使うというのだろうか。

 

『ドローンのプロペラ音を鳴らして警備員がそっちに注意を向けている間にここから出るんですよ』

『おぉ、ナイス詞貴!』

『確かにそれやったら何とかなりそうやな』

 

 詞貴の説明に悠と海希は揃って表情を明るくさせながら、反応する。

 

 悠は警備員の居場所を把握するためにデスクの陰から顔を覗かせる。今のところ悠たちに気づいている様子はなく、警備員のいる位置もこちらからは離れている。

 

『天音できそう?』

『任せてくださいっす』

 

 今ならいけるかもしれないと思い、悠は天音に声をかける。


 天音が自信あり気な返事をした直後、ドローンは警備員の視界に入らないように低空飛行のまま、立ち並ぶデスクを迂回して出口まで疾走する。


 途中、警備員が照らす光へ入りそうになるが、難なく回避。ちょうどドローンがオフィスから出たタイミングで、プロペラ音が響いた。


「ん? 何だこの音……。あっちからか」


 警備員は怪訝そうに眉を寄せて、懐中電灯で出口の方向を照らしながら歩き出す。そして悠たちのいるオフィス内から出て行った。

 

『お、行った!』

『しばらく囮になるんで、討伐の方よろしくお願いするっす』


 悠と詞貴が同時に声を上げると、ドローンを操作しているであろう天音から念話が飛んできた。

 

『了解や。よっし、今のうちにはよ出るで』

『はい!』

 

 海希がそう口にすれば、悠と詞貴は首を縦に振った。


 そうして誰もいないことを確認した海希を筆頭に、悠たちはオフィスを出てドローンが行った方向とは反対の道を進む。

 

 やっと警備員の目から逃れることができ、引き続き幽霊がいないか探りながら歩いていると、海希が「あっ」と声を漏らした。

 

「別にそんなことせんでも普通に隠札(かくれふだ)使こたらよかったな」

隠札(かくれふだ)ってなんです?」

 

 聞きなれない単語に詞貴が問いかければ、海希は手元に1枚の札を出現させて2人に見せる。


 悠と詞貴が札へ顔を寄せて見てみると、その札には崩し字で隠札と書かれていた。

 

「この札に祓力を通したら一定時間姿が消えるんよ」

 

 海希はそう言いながら、隠札へ祓力を込める。


 次の瞬間、祓力の込められた札が消滅して海希の姿が見えなくなった。


 どこにいったのか分からずに戸惑っていると、後ろからパチンと指を鳴らす音がした。2人して後ろを振りむけば、何もないところから海希が現れる。

 

「というか、隠札があるんなら早く言ってくださいよぉ……」

「すまんすまん」

 

 拗ねるようにして悠が言うと、海希は苦笑交じりに謝ってきた。


 (でもそんな便利なものがあるんなら、今後の任務で使わない手は無いよね)

 

 この任務が終わったらどこで購入できるか訊いてみよう。


 そう考えていると、背筋に寒気が走った。さっと身を翻せば、前から幽霊たちが近づいてくるのが分かる。

 

「どうやらお出ましのようやな。早いこと片付けるで」

「はいっ!」


 刀を抜きながら言う海希に、頷いた悠と詞貴はそれぞれ得物を手にする。一定の距離まで迫ってきたところで、3人は一斉に幽霊へと突撃する。


 悠は持っていた苦無に祓力を纏わせる。と、前方からやってきた幽霊が蒼い炎を帯びた手を大きく振りかざしてきた。


 悠はすぐさま横に逸れて回避。振り向きざまに手持ちの苦無を投げて、祟魔の核となる祟核(すいかく)を突いた。


(まずは1体)


 左右からやってくる敵を補足した悠はその場で踏み込む。


 すると、カーペットや壁から無数の祓力を纏わせたツルが延びた。それは瞬く間に2体の幽霊の胴体を縛って拘束する。


 悠はその隙を逃さず、両指の間に挟んだ苦無を放って幽霊を始末する。

 

 直後、霧を帯びた刀を脇に構えた海希が廊下の壁を伝って祟魔へ直行する。海希は着地と同時に敵が攻撃を与える間もなく回転斬りで一掃。


 続けて向かってくる幽霊の腕を斬り落とし、そのまま祟核ごと胴へ霧の刃を飛ばした。


(やっぱり綺麗……。それに一切無駄が無いし、速い)

 

 秋葉が入学前に海希に助けられた際に見た刀さばきが凄かったと聞いたが、これほどの腕前とは思わず一瞬、動きが止まる。

 

 幽霊が靄となって消えていく様を見届けた海希は、刀身に付いた血を払って次なる標的へと向かう。


「『吹き飛べっ!』」


 詞貴が力強く言った瞬間、祓力の波が発生し、周囲にいた幽霊が一斉に吹き飛ぶ。


 詞貴の言霊を受けた幽霊たちが消滅する中、息つく間もなく詞貴に向かって蒼い炎が放射される。炎が直撃する寸前で躱した詞貴は、幽霊へ疾走。


 幽霊が振りかざしてきた手を左手に持った鉄扇を開いてガードし、空いた横腹へ右手に握った脇差で斬撃を入れて祓う。

 

 襲い掛かってくる幽霊たちを次々と棘で突き上げながら、詞貴の一連の動きを見ていた悠は感心したように笑みを浮かべる。


 初回任務で一緒になった時から感じていたが、詞貴は力がない分、それ以上に祓式や武器を扱う技量に優れている。


(これは負けていられないな)


 そう思いながら悠は苦無で幽霊の目を射ると同時に、地面を蹴って跳躍。手元に出現させた短刀を抜いて幽霊の首を掻き斬った。


『みなさんお待たせしたっす!』


 念話が3人へ飛んでくると同時に猛スピードでドローンが突進してきた。祟核を貫かれた幽霊が消えていくのを見て、脇差を降ろした詞貴がドローンへと顔を向ける。

 

『天音、そっちはどうだった?』

『問題なく上の階に誘導できたんで大丈夫っすよ』


 天音からの返答を聞いて、悠を含めた3人は安堵する。


 これで心置きなく残りの幽霊を祓える。数としては10体前後といったところか。


 悠が短刀を構え直して、走り出そうとしたその時。


『指示出してばっかもあれなんで、そろそろアタシも参戦するっすかね』


(今、参戦って言った?)


 悠はその場で踏み止まって目を見開く。


 参戦すると言えど、天音は現在進行形で生徒会室にて管制している。到底、幽霊を祓えるとは思えない。


 一体何をする気なのだろうかと気になりながらも、幽霊の攻撃を短刀で防いで苦無でトドメを刺す。と、ドローンのセンターフレーム部分の下が開き、そこから銃口が出てきた。

 

 次の瞬間、銃口から無数の祓力で構成された弾丸が発射される。


 その後ドローンは縦横無尽に動き回りながら、残っていた数体の幽霊を的確に撃ち抜き、あっという間に殲滅した。

 

 その光景に悠や詞貴はもちろん、海希までもが呆気に取られていた。次いでハッと我に返った悠がドローンへ視線を向ける。

 

「ドローンってそんなこともできたの!?」

『そういえばこうして皆さんに見せるのは初めてっすね。弾は祓力で編んでるんでアタシの祓力が尽きない限りは撃ち放題っす。ちなみに今はサブマシンガンっすけど、銃口の大きさを変えることによってアサルトライフルやランチャー、果ては光線銃なんかも撃てちゃいます』

「はぇ~、そら凄いなぁ」


 天音の解説に海希が唖然としたような口調で反応した。


 ドローンって凄い……。

 

 天音の話を聞いて漠然とした感想を抱く悠。すると、興味深そうにドローンを見ていた詞貴が何を思ったのか恐る恐る口を開く。


「ちなみにそれっておいくらぐらい……」

 

 詞貴は尻込みしながら生徒会室でこちらの会話を聞いているであろう天音へ尋ねる。

 

(え、聞いちゃうの!? 聞いちゃっていいの!?)

 

 詞貴のまさかの発言に内心焦る。が、実際いくらぐらいするのかは気になるところではある。

 

 悠はそーっとドローンの方へ視線を送り、天音の返答を待つ。

 

『そうっすね。このドローンは『(かぎ)』の特注品でして、超遠隔操作も可能で、祟魔を視ることができる祟魔フィルターを搭載した高性能カメラに、人や物、祟魔を検知できるセンサー、専用の銃器に諸々を合わせるとざっと1000万ぐらいっすかね』

「い、1000万ッ!?」

 

 ドローンの金額に3人は愕然とした表情をしつつ、声を上げる。


 まだ高校生になったばかりの悠には、とてもじゃないが想像のつかない金額だが、多分というか間違いなく一軒家が建てられるぐらいはあるだろう。

 

『なんで何かの拍子で壊れたらヤバいんすよね……』


 バツの悪そうな声が聞こえてくるが、高価なドローンを容易く操作できてしまう彼女の胆力と技術力に戦々恐々とする。


 自分だったら壊す自信しかない。

 

「ド、ドローンへの攻撃は何としてでも防がんとな」

「そ、そうですね」


 天音の話を聞いた海希が動揺しながら言うと、悠と詞貴は頬を引き攣らせながら首を縦に振った。

 

(間違ってもドローンには武器や祓式を当てないようにしよう……)

 

 そうドローンを見ながら、悠は心の中で強く誓うのだった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

「これでこの階は大方片付きましたかね」

「せやな。もうそろそろ合流しても……」

 

 2階の討伐を粗方終え、悠は武器を仕舞いながら海希に向けて言い、彼も同意したその時。


「しゃがめっ!」

 

 刀に手を掛けた海希に言われ、悠は咄嗟にその場でしゃがむ。直後、悠の頭上を蒼い炎が通過した。


 突然の事に驚いていると、炎を避けた海希が悠の背後にいた幽霊へ向けて刀を横一線に振るった。放たれた霧の刃が幽霊の胴を斬り裂き、斬撃を喰らった幽霊が消えていく。

 

 その様子を面食らった表情で見ていた悠は、海希へ顔を向ける。

 

「た、助かりました。ありがとうございます」

「ええよ。にしても今の……」

 

 海希は刀を鞘へ仕舞いながら、先ほどの幽霊がいた場所を凝視する。

 

 真後ろにいたのにもかかわらず、全く気付かなかった。いつ出て来ても対処できるようにと、周囲を警戒していたというのに。

 

「ねぇ、2人ともあれ」

 

 少し離れたところで屈んで辺りの様子を見ていた詞貴から声が掛かり、悠と海希は駆け寄る。


 2人は詞貴と同じようにして身を屈め、廊下の壁から顔を覗かせるようにして詞貴の視線を辿ってみる。


 と、青白い鬼火を周囲に浮かべた幽霊たちが揃って階段の方向へ向かっていくのが見えた。


 悠たちが目の前にいるというのに気づく様子がなく、幽霊たちはふらふらと引っ張られるようにして素通りしていく。

 

「何かに吸い寄せられてる……?」

「こっちに見向きもせんと歩いていきよるな……」

 

 霊眼(れいがん)に祓力を纏わせて視力を上げ、幽霊たちが階段を降りていく先を見てみるも特にこれと言った何かがあるわけではない。


 眉を顰めながら様子を視ていると、ジジッと念話の繋がる音が脳内に響いた。

 

『まずいっすよ皆さん。下の階から強い祟気の反応がするっす。こっちで計測してるんすけど、だんだん濃度が高まっていってます』

 

 天音からの報告を受け、一同目を見開く。


 霊眼の精度を上げてみてみると、確かに階段から先ほどまで微量だった祟気が徐々に濃くなっていた。

 

「そういえば、さっき例の警備員さんが下に降りていったような……」

「えっ、それってかなり危ないんじゃ……」


 詞貴が顎に手を当てながら呟けば、悠は顔を強張らせる。


 悠たちはビルに入った瞬間から祓力を全身に纏っているため、祟気の影響を受けることはほとんどないが、生身の警備員の場合はそうもいかない。


 むしろ身体に害が及び、濃い祟気を長い時間吸ってしまえば死に至る可能性もある。

 

「取り敢えず、上におる多田(おおた)らと合流しよか。悠は向こうに念話で連絡。詞貴は祟気がビルの外に漏れ出えへんように結界の強化や」

「分かりました。でも、海希先輩はどうするんです?」

 

 詞貴は海希の指示に頷くとともに問いかける。

 

「俺は先、下に降りて警備員の救出に向かう」

「ちょっ、1人でですか!?」

 

 幽霊たちの様子を窺いながら話す海希に、悠は思わず声を上げる。不安げに見つめてくる悠と詞貴へ海希は笑いかける。

 

「心配せんでも大丈夫やって。天音に道案内頼むさかい。急で悪いけど、いけるな?」

『もちろんっす』

 

 鍔に手を掛けた海希が立ち上がりつつ天音に尋ねると、彼女は念話越しに頷く。もうこうなったら信じるしかないだろう。

 

「くれぐれも気をつけてくださいね」

「多田先輩たちと合流したらあたしたちもすぐに向かいます」

「あぁ。ほな、頼んだで」

 

 詞貴と悠がそれぞれ声をかければ、海希はそう言い残して天音のドローンについて行く形で階段の方へと向かった。

 

 あたしもやれることをしよう。

 

 海希が降りていくのを見届けた悠は腹を括る。詞貴が印を組んで結界を強化している横で、悠は上で祓っているであろう秋葉たちへ念話を飛ばすのだった。

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