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第5章-第10社 任務中の喧騒

「うおっ!?」

 

 猛スピードで向かってくる水で編まれた2本の鎖を捉えた秋葉は、咄嗟に身体を横に逸らして避ける。


 亜莉朱の祓式らしきもので編まれたそれは、秋葉の横を通過し、後方にいた祟魔3体の胴を立て続けに貫通した。


 祟魔が靄となって消える中、制御が効かなくなった鎖は物凄い勢いで壁へ激突する。

 

「あ、ヤバッ……」

 

 鈍い音を立てて鎖がぶつかり、壁の一部が割れるのを目にした亜莉朱は焦ったような声で呟いた。


 と、その場にいた最後の祟魔を祓い終え、納刀した多田が壁に突き刺さった鎖を目撃する。

 

「お前、何やってんだよ!」

「やって、いける思ったんやもん!」


 声を荒げて叱責する多田に亜莉朱はすかさず反発する。祟魔がいないことを確認した秋葉は刀を納めながら言い争う2人の方を向く。


 すると、呆れたように溜息を吐いた美澪が彼らに近づく。

 

「2人ともそこまで。流石にそんな大声出したら祟魔と警備員に見つかっちゃいますよ」

「す、すまん」

「あー、せやね……」

 

 後輩に注意され、多田が情けなさそうに謝る一方で、亜莉朱は祓式を解いて突き刺さった鎖を消滅させる。


 とはいえ、今のところ誰かが近づいてくる気配は感じられないので大丈夫だろう。反省している様子の2人にこれ以上とやかく言ってやる必要もない。

 

「で、これどうすんだよ。先輩」

 

 秋葉は改めて破壊された壁へ目を向ける。鎖がぶつかった衝撃で、直撃した箇所を中心に壁が抉れ、割れた破片が床に落ちている。

 

「やってしまったものは変えられないからな。だが、これぐらいの損傷ならまだマシな方だ。処理班の人たちに任せておけば明日の朝には治ってるだろう」

「ホンマ、すんません……」


 多田が壁を観察しつつ口にすると、亜莉朱は申し訳なさそうに肩を竦めた。


 流石は処理班だ。初回任務でも秋葉たちや小春たちが荒らしに荒らしまくった山林や歩道を一晩で直したと織部から聞いている。


 それを考えたらこのぐらいの修繕は屁でもないだろう。


「後、亜莉朱は今回の任務中、祓式を使っての戦闘は禁止な」

「えぇっ! そんなん酷い!」

「酷いじゃねぇよ。これ以上処理班の仕事を増やすな」

「うぅっ……分かったって……」


 多田に咎められた亜莉朱は、不満そうに目を逸らしながら返事をした。

 

「そういやだいぶ今更だけど、亜莉朱の祓式って何なんだ?」

「確かに。同じクラスじゃないからボクらは知らないよね」

 

 秋葉が疑問を口にした横で美澪も同意する。

 

 亜莉朱が刺さった鎖を消したことから彼女の祓式であることには間違いないのだろうが、その実態がどんなものなのかまでは分からない。

 

 2人から視線を向けられた亜莉朱はそういえばまだ言っていなかったと呟いてから話し出す。

 

「うちの祓式は嵐操作。武器とかに纏わせたり、嵐を凝縮した球を操ったり、さっきみたいに鎖の形に編んで生成できるんよ。やけど、威力が強いんもあってまだ完全には制御できてへんねん」

 

 亜莉朱は手のひらを上に向けて、そこから手のひらサイズの嵐球を出現させた。


 球状に生成されたただの水……というよりは暴風雨などで荒れた海に近い水が高速で横に回転している。じっと見ていると、次第に球の周りに風や雷が発生する。


 先ほど祟魔3体を一網打尽にしたのはこれの鎖バージョンだった。この球体だけ見てもかなり強力だろうに、嵐の鎖を真っ向から喰らったらまず大怪我を負うことは間違いない。

 当たらなくて良かった……と心底思うと同時に秋葉の頭の中に別の考えが浮かぶ。

 

「でも逆言えば、扱いこなすことができればめちゃくちゃ強い武器にもなるんじゃないか?」

「おぉ、それもそうやな。よっしゃ! 帰ったら頑張るで~」

 

 秋葉がそう言うと、手のひらの嵐球を消滅させた亜莉朱は自信を取り戻したかのように張り切り出す。

 

 亜莉朱のやる気が戻ったところで、一同は討伐を再開。10階から9階、8階へと辿り着き、順当に幽霊たちを祓っていく。


 亜莉朱が祓力を纏わせた苦無を放って幽霊の手足を壁に縫い付ける。身動きを封じられて幽霊が雄叫びを上げる中、秋葉と美澪が互いに刀と銃で攻撃を仕掛けて幽霊を殲滅した。

 

「にしても、こんな人が多いところに幽霊がうじゃうじゃいるのって何でなんだろう。幽霊って臆病だし、どっちかというと墓地にいるイメージがあると思うんだけど……」

 

 他に祟魔がいないか確認し終えた美澪は、銃の引き金に人差し指をかけてくるくる回す。

 

「一般的にはそうだな。けど、こういう人が集まってる職場や学校は負の感情――すなわち怨念や祟気といったものが溜まりやすい。ましてやここみたいに大企業ともなると更に人が多くなるから、目に見えないストレスが渦巻いて祟魔をおびき寄せやすくなる」

 

 多田はそう言うと刀身に血の付いた刀を払って落とし、鞘に納める。


 祟気というものは祟魔が放つほかに、説明にあったように人間が放つ負の感情から生まれることがある。それが一定まで膨れ上がると祟気は祟魔へと転じるのだと、代報者課程の授業で織部から聞いた記憶がある。


 初回任務で人の多い嵐山に行った時も拙級とか荒級みたいな低級祟魔が多かったのはその影響もあるのだろう。

 

「へぇ、そうなんやな。お兄意外としっかりしてるやん」

「お前、俺のこと何だと思ってんだ……」


 見直したとでも言うように目を細めながら話す亜莉朱へ、多田は頬を引き攣らせる。


 生徒会室では口うるさく終始みんなから弄られていたが、こうして行動を共にしていると何かと頼りになる。

 

 秋葉の中でも多田の印象が少しずつ変わりつつある中、当の彼がこちらを振り向いた。

 

「というか、どうして姿が変わってるのかいい加減教えてくれないか」

「あー、そうだった」

 

 多田に詰められて、すっかり頭から抜けていた秋葉は多田と亜莉朱へ自分の祓式について説明する。

 

「創作キャラを憑依させるとかかっこええな!」

「声押さえろ馬鹿」


 亜莉朱は興奮した様子で拳を握りしめ、秋葉へと詰め寄りながら話す。と、彼女は眉を顰めた多田にペシッと後頭部を軽くシバかれる。

 

「けど、憑依ってことは祓力の消費が大変じゃないか?」

 

 亜莉朱が不機嫌そうに舌打ちして多田を睨みつける傍らで、本人は気にする素振りもなく秋葉へ問いかける。

 

「まぁな。他にも憑依させるまでに色々と手順を踏まないといけねぇし、目立ちすぎる見た目も駄目で何よりキャラとの相性が合わないとならねぇから現状、まともに扱えるのはこいつぐらいなんだよ」


 まだ人よりも祓力量が多いから何とかなっているものの、ずっと憑依状態を保っていては祓力を消費する一方なので、今回の任務でも階を下るごとに解除しては憑依させ直していた。

 

 そして一番初めに憑依できた金髪エルフのような目立ちすぎる見た目は一般人が驚くだけでなく、祟魔の目にも留まりやすいのでそれだけ敵を引き寄せやすくなる。


 その他にも色々と苦労する点や問題点が多いので、新しいキャラを憑依させることは簡単ではないのだ。

 

 改めて自分の祓式の不便さに嘆いていると、背後から「あのー」と美澪から呼びかけられた。


 秋葉と多田、亜莉朱の3人はきょとんとした顔をしながら振り返る。


「話してるところ悪いんですけど、後ろから敵さんうじゃうじゃ来てるし、何ならちょっと前からスタンバってくれてます」

 

 そう話す美澪の後方からは1フロア分に相当する数の幽霊が押し寄せて来ていた。


 恐らく亜莉朱が大声を上げて反応したのが聞こえたのだろう。かなり響いていたから仕方ないとはいえ、流石に数が多すぎやしないだろうか。

 

「そういう大事なことは早く言えっ!」

「えへへっ、すいませーん」

 

 多田がツッコむと、美澪は全く悪気のなさそうな声で返事をした。

 

(こっちはまあヤバい状況だけど、悠たちの方は順調かな……)

 

 あっという間に幽霊たちに囲まれる中、ふと下で戦っているであろう悠たちは大丈夫だろうかと心配になる。

 

 だが、何はともあれ、来た以上はやるしかない。各々武器を手にした秋葉たちは迫る来る幽霊たちへと駆け出すのだった。

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