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第5章-第7社 断った理由

「それで話戻すんすけど、秋葉がここへ来たのってやっぱり生徒会の勧誘っすか?」

「……ア、ハイソウデス」

 

 ひとしきり盛り上がってすっかり気が緩んでいた秋葉は、天音の問いに声が強張る。

 

(まずい……話に夢中になり過ぎてすっかり忘れてた……)


 本来の目的を思い出して焦る秋葉の額に冷や汗が滲む。


 ちらっと前にかけてある時計を見ると、かれこれ教室に来てから40分は経っていた。これで勧誘に成功しなければ怒られるのは間違いないだろう。

 

「本当、諦め悪いっすね」

「あはは……。なんで生徒会入るのを断ったのか聞いてないなと思ってさ」

 

 こうなったら隠す必要もないだろう。


 腹を割ってここに来た目的を正直に言えば、天音は思い出したように口を開く。

 

「そもそも話す気なんてなかったっすからね。アタシ、自分の邪魔されるの嫌いだし、この学園にだって親に言われるがまま仕方なく入ったもんなんでね」

「え、そうなの?」

「はいっす」

 

 秋葉が意外そうに尋ねると、頷いた天音はゲーム機を置いて自らの手元へ視線を落とす。

 

 趣味で人間観察はよくしているのだが、言われてみれば自ら人と関わってる様子はあまり無いように見えた。


 訓練の時も授業中も休憩時間だって、いつも訊かれたことに答えるだけで積極的に何かを言ったり動こうとしている素振りがなかったように思う。

 

「アタシ、昔っから周りとの環境が合わなくて。小学校もそれが原因で中退して、祓式が情報分析ってこともあって機械触ったり、調べたりするのはこの頃から好きだったんで、中学は通信制の学校通いながら実家の『鍵』の職員としてみんなを手伝ってたんす」


 舞衣と出会ったのもこの頃らしく、空いている時間にチャットをしたり、通話やゲームをして楽しんでいたようだ。


 と、懐かしむように笑みを浮かべていた天音の表情が微かに沈む。

 

「でも、祓式使って情報を集めたりプログラム作ったりしても、鍵のみんなや家族は優秀な人ばっかでなんで感謝こそすれどこれぐらいできて当たり前みたいな空気が少なからずあって」

 

 天音はそこで言葉を一度切ってから息を吸い、話を続けた。

 

「それに研究内容や情報分析が人命にかかわったりすることもあるんで基本、ミスとか許されないんすよ。でも去年、初めてサポートとして管制を担当した任務で重大なミスしちゃってですね」

 

 やらかしたと茶化すような声色で話す天音は、乾いた笑みを浮かべていた。


 明らかに無理をしている。


 そう秋葉には感じ取れたが、口にするのは野暮というものだ。


 切り替えるようにして、話の中で気になったところを突こうと尋ねる。

 

「その、重大なミスっていうのは?」

「えぇ……それ聞くんすか……」

 

 まるで、突かれたくない深堀されたくないとでも言うように天音は困ったように眉を下げる。

 

「いやまぁ気になるというか……」


 聞いておかないといけない。


 それを知ってどういう答えが返せるかは分からないが、知ることで何か天音の今後の助けになれるかもしれない。そんな気がした。

 

 秋葉の呟きを耳にした天音は、諦めたかのような覚悟を決めたかのように溜息を吐いてこう告げた。


「簡単に言うと等級の判定ミスっすよ。『鍵』が携わる任務において祟魔等級の判定は管制官がやる決まりでして。祟魔が出た時点でこの祟魔はこのぐらいの等級だっていうのを過去の統計から分析して現地にいる代報者へ伝えるんす」


 祟魔等級の判定は現地にいる代報者が行うものと思っていたが、代報者自身が今までの経験と勘でやる以上、どうしてもブレるところがある。


 その点、過去の祟魔のデータを基に『鍵』が判定してくれるのは心強い。

 

「当初は凶級でアタシが担当していた代報者の皆さんであれば十分祓えるものだったんすけど、急に厄級まで跳ね上がっちゃって。パニックになったアタシの代わりにベテランのメンバーが対処してくれたんすけど、最終的に代報者のうち1人が死亡。他の3人も重傷を負う羽目になったんす」


 過去のデータや経験があってそれ通りに等級を出したとしても、祓う最中で上昇することがある。


 秋葉たちが経験した初回任務でも似たようなことがあったものの、結果的に全員が生還できた。しかし、全部が全部そう上手くとも限らない。

 

 天音の話を聞いて秋葉は、代報者の過酷さを改めて思い知る。

 

「すいませんっす。こんな重い話聞かせちゃって」

「ううん。むしろ話してくれてありがとね」

 

 目尻を下げつつ謝る天音に、秋葉は微笑みかける。


 正直なところ想像以上だったが、話したことで今まで暗かった天音の顔が多少なり晴れているように感じる。

 

「でもそこからすかねぇ。自分は人の役に立てないのかもしれない、間違うのが、失敗するのが怖いって思うようになったのは」

 

 顔を上げた彼女は遠くを見つめながらどこか振り返るようにして語る。

 

「なんで、生徒会に入ってもみんなの役に立てるかどうか正直分かんないっすよ」


 そう言って秋葉へ目を向けた天音は諦めたように笑った。

 

「私だってまだ入ってもないし、そこんところはよく分からないけどさ……」


 今まで天音から聞いた話を、学園に入学してからのことを思い返しながら秋葉は徐に口にする。

 

「祓式だけじゃなくて今まで天音の培ってきたスキルと経験は生徒会において、今後代報者としてやっていく上で必ず役に立つ。それに間違ったって責めるような人は生徒会にはいないと思うよ。大体、責めたって状況は改善しないんだし、間違いは誰にでもあるんだからさ。間違ったら間違ったでその時は全力でカバーするし、してみせる」

 

 そう言い切る秋葉の目と言葉には強い意志が宿っていた。


 もう誰も失わせはしないし、ピンチに陥ろうが全員で生きて帰る。


 その覚悟が伝わったのか、天音はハッとしたように目を見開いた。

 

「だからその……まずは様子見でもいいんじゃないかな。合わなかったら合わなかったでその時は辞退したらいいし。天音が入ってくれたら少なくとも私は嬉しいよ。オタク語りもできるしね」

「ぷっ……何すかそれ」

 

 途端に自信を無くしたように頬を引き攣らせて言う秋葉に、天音は小さく噴き出して笑った。

 

(だって入れなんてそんなこと言えないし、最終的にどうするかは天音は決めるべきだろうし)


 でも、話を聞いた上で言えることは全部言った。後は彼女の返答を待つだけだ。


 すると、当の天音は霧が晴れたようなすっきりした面持ちで口を開いた。

 

「だったら1度顔出してみるっすかね。姫にばっかかまってもらうのもあれですし」

「……い、いいの!?」

 

 まさかオッケーを貰えるとは思っておらず、秋葉は驚いたような声を上げる。

 

「はいっす。ただし、自分には合わないと判断したらその時は辞めるっすからね」

 

 眉を寄せて口酸っぱく念押しされ、唖然としていた秋葉は頬を緩める。

 

「……分かった。なら明日の放課後待ってるね」


 そう言って心底嬉しそうな笑みを浮かべる。


 最後に帰ったら『神世妖魔奇伝』のマルチプレイをする約束をして、秋葉は生徒会室へ報告に向かうのだった。

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