第5章-第6社 二度目の勧誘
「って、またあんたすか……」
ゲーム機を手にした天音は秋葉へ呆れたような視線を向けた。
見るからにうざがられているのを感じ、秋葉は苦笑しながらもここで引き下がるわけにはいかないと天音の前にある椅子へ腰を下ろす。
その間にも、天音は両端についたコントローラーで操作して、画面に映る鉄の皮を纏った大型の猪のモンスターへ次々と弾丸を撃ち込んでいく。
椅子の背にもたれかかりながらゲーム機をじっと見つめていると、天音が顔を上げた。
「……何すか?」
「いや、ゲーム上手いなと思って」
秋葉はキャラクターを動かしながらあっという間に敵を倒していく天音に感心する。すると、天音は怪訝そうに眉を寄せた。
「私、スマホゲームはやるんだけどこういうコントローラーを使う携帯ゲーム機は下手でさ。だからよどみなくプレイできる天音は凄いね」
「小さい頃からやってるんで単に手慣れてるだけっすよ」
淡々とした口調で返す天音は、操作する手を止めない。
画面には敵を倒し終わったのか、マシンガンを持ちながら荒野を走っていくキャラクターの姿が映っていた。
このゲーム作品自体は知らないが、それでも上手いし、よほど好きなのだろうということだけは携帯ゲーム機をやらない秋葉にでも分かった。
「ちなみにどんな作品プレイしてるの?」
「今やってるサイバーシュートの他にはボーダーブレイドとかオルクスの伝説とか」
オルクスの伝説は何度か舞衣がやっているのを見たことがある。
いわゆる剣と魔法のファンタジーで、オルクス大陸に眠っている伝説のモンスターを討伐したり秘宝を探したり、遺跡を調査する冒険ものらしい。
マルチプレイなんかもできるようで、舞衣がよくネッ友と通話を繋ぎながらやっていると話していた。
「スマホゲーならグラビティ・インフォームとか神世妖魔奇伝とか……」
「えっ! 天音も神世妖魔奇伝やってるの!?」
天音がそう口にした瞬間、椅子から立ち上がった秋葉は机に手を突いて彼女に詰め寄る。その目はこれでもかと輝いている。
「や、やってるっすよ。結構スマホゲーの中でもコアな部類には入るんで、身近にプレイヤーはいないだろうなと思ってたんすけど、マジすか……」
突然立ち上がった秋葉に気圧されながらも答えた天音は、口をぽかんと開けて目を見開く。
神世妖魔奇伝とは、神や妖魔のいる八つの国を舞台に調停官と呼ばれるキャラクターたちが舞い込んでくる依頼を次々と解決していく和風ファンタジースマホゲームだ。
天音の言う通り、リリースから3年は経過してアニメ化までいってはいるものの、そこまで世間に浸透しているわけではなくプレイヤー人口は有名なゲームよりも少ない。
驚く天音の様子にもしかしてと思い、秋葉は続けて話し出す。
「じゃあ、ダンジョン&リズミックと獣血の王冠はっ!?」
「そ、それも全部やってるっす」
「おぉ!」
天音の返答に秋葉は興奮したように声を上げる。
思わぬ共通点に秋葉と天音はお互い握手した後、推しは誰か気に入っているストーリーは何か、ここのクエストが上手くいかない、ガチャの星五排出率が他のゲームに比べて悪いなどゲーム作品について語り始める。
途中、秋葉が放課後にもかかわらず教室でゲームをやっているのは何故かと訊けば、寮室でゲームをしていると姫香がいちいち突っかかってくるから集中できないかららしい。
そうしてオタク特有の早口とテンポの速さで話は次から次へと移り変わり、いつの間にか互いの趣味の話にまで移っていた。
「へぇ~、じゃあ秋葉はどちらかというとアニメとか漫画、ライトノベルの方なんすね」
「そう。小さい頃から見たり読んだりして、色んなジャンル漁ってきたんだ。だからよくやるゲームとしては、ゲームが原作で後にアニメ化されたやつが多いかな。後はゲーマーの友達に勧められてやったり」
「おぉ、ゲーマーすか」
興味津々な様子で食いついてきた天音に、秋葉は頷きながら話を続ける。
「舞衣って言ってね。昔からの友達でパソコンにも詳しかったり、一からサイト作って管理できるぐらいには機械に強くて。そのサイトで『紅桜』を含めた創作キャラを格納してるんだけど……」
「ちょっと待つっす」
天音からストップをかけられて、語っていた秋葉は首を傾げる。
今の話の中で、何か疑問に思うようなところでもあったのだろうかと考えていると、天音は躊躇しつつも切り出した。
「間違ってたら申し訳ないんすけど、その舞衣って子の苗字、堀部だったりしないすか?」
「うん、そうだけど……」
(いや、なんで知ってるの!?)
首を縦に振った秋葉は内心驚きながらも、そういえば舞衣の口からよく聞くネッ友の名前と似ているし、話し声もどこかで聞いたことがあるし、何ならさっき神世妖魔奇伝のフレンドを交換したときのユーザー名とアイコンにも見覚えがあるなと思う。
「ま、まさか……舞衣がよく遊んでるネット友達の天月って……」
「それアタシっす」
「え、マジ!?」
天音の応えに秋葉は思わず叫ぶ。教室全体に声が響き、廊下を歩いていた生徒に教室の中を覗かれる。
驚きのあまり声を出し過ぎた秋葉は恥ずかし気を覚えながらも、天音が差し出してきたスマホ画面を見る。
そこには天月の名前と共にコーヒーカップとチョコレートマフィンのイラストのアイコンが表示されていた。
前に舞衣から見せて貰ったものと全く一緒のものだと確認が取れたところで天音はスマホを机に置く。
「さっきから話しててなんかどこかで声聞いたことあるなと思って。記憶遡ってみたら舞衣の通話からたまに聞こえてきてた声とやけに似てるなと思ったんすけど……」
「何度か舞衣の家に泊まりに行ってるから多分そのときのかも。まさか噂の天月が天音だったとはね……」
秋葉と天音は呆然としながらこれでもかと長いため息をつく。
(こんな奇跡みたいな偶然ってあるんだな……)
そうしみじみとした思いが募る中、秋葉は天音に舞衣とはいつ知り合ったのか訊いてみる。
「舞衣とは中学からのネッ友で。親が同じ『鍵』所属の職員、しかも所長と副所長って知った時はびっくりしたっすよ」
「『鍵』って対祟魔専門の?」
「そうっすね」
鍵というのは対祟魔専門の科学技術研究所のことで、十三参りの際に舞衣から貰った祟魔用カメラがそこで造られている。
ちなみに所長が舞衣のお父さんで、副所長が天音のお父さんらしく両家は江戸時代からのつながりらしい。
相変わらず凄い家系の人が身近にいるなと秋葉は内心圧倒される。
「なら、舞衣とは何度も会ってるってこと?」
「そうっすね。たまにオフ会で遊んだり、グッズ交換したりしてるっす」
そう言って天音はオフ会の時の写真を見せてきた。カラオケでグッズを並べて2人でピースしている様子が映っている。
オフ会というのは、ネットで知り合ったユーザー同士がリアルに集まって会うというものらしい。
なにぶんオフ会をしたことがないので、具体的に何をするのかはあまり分かっていないが、写真を見るだけでも楽しそうなのが伝わってくる。
「それで話戻すんすけど、秋葉がここへ来たのってやっぱり生徒会の勧誘っすか?」
「……ア、ハイソウデス」
ひとしきり盛り上がってすっかり気が緩んでいた秋葉は、天音の問いに声が強張る。
(まずい……話に夢中になり過ぎてすっかり忘れてた……)
本来の目的を思い出して焦る秋葉の額には冷や汗が滲んでいた。




