第5社-第5社 打開策
放課後になり、生徒会室に集まった秋葉、悠、詞貴、美澪の4人は昼休みの成果を順番に報告していた。
悠から該当する人は見つからなかったと伝えられ、次に秋葉が昼休みに起きたことを話す。
「というわけで、見つかったのは見つかったんだけど駄目でした……。ごめんね……」
「まぁ無理に誘うのはよくないしね。どんまいどんまい」
秋葉が眉を下げて謝ると、悠に励まされる。
3限目と4限目の間にも同じクラスの生徒に声をかけて回ったものの、天音以外で条件に当てはまりそうな人はいなかった。
「それで詞貴たちの方はどうだった?」
悠が正面に座る詞貴と美澪に向かって尋ねる。
「目ぼしい人はあまり見つからなかったよ」
「みんな任務やら何やらで忙しいってさ」
眉を下げながら詞貴が口にすると、美澪もお手上げ状態だと肩をすくめた。
「やっぱりそう簡単にはいかないか……」
「どうしようね……」
秋葉が唸る横で、悠が机に顔を伏せながらぼやく。
一般課程クラスや技術課程クラスにも声をかければ何とかなるのではと思いつくが、学園内のことならまだしも代報者としての任務もある以上、危険が伴うので下手にかかわらせるのは止めておくべきだろう。
こうなったら二年や三年の先輩たちにも頼みにいくしか……。
ぐるぐると思考を巡らせていると、ガラッと部屋の前方にある扉が開いた。
「お、やってるな。ちょうど良かった」
固められた机を囲うように座っている秋葉たちを見た多田が教室入ってくる。
「多田先輩じゃないですか。どうしたんです?」
「昨日言ってた企画枠に相応しいやつ連れて来たから、みんなに紹介しようと思ってな」
秋葉が問うと、多田は笑みを浮かべて話す。そういえば今日だったか。会計メンバーのことで頭がいっぱいになっていたのですっかり忘れていた。
「おーい、入ってこい」
「はーい」
多田が呼びかければ、気だるそうな返事が廊下の方から聞こえてきた。
一体、どんな人なんだろ。多田先輩が呼んだってことは2年生だったりして。
興味津々な様子で待っていると、腰までの茶髪をハーフサイドテールにした女の子が入って来た。背丈は秋葉より少し小さく、大きな黒い瞳をしている。
「に、似てる……」
隣に並んだ多田とそっくりな彼女を見て思わず呟く。悠や美澪、詞貴も同じこと思ったのか、呆然とした様子で彼女を凝視している。
「多田亜莉朱、俺の妹だ。アホではあるが、企画を立てる上で必要な発想力は文句なしと言って良い」
「アホ言うなっ! しばいたろか!?」
多田が紹介した直後、不機嫌そうに眉を顰めた亜莉朱は、関西弁でキレッキレのツッコミを入れる。多田は手慣れた様子で文句を言う妹をいなし、挨拶しろと促す。
「1年B組の多田亜莉朱や。みんなよろしゅうな。うちのことは好きに呼んでもらってええで」
「じゃあ、亜莉朱で!」
「よろしくね~」
悠が手を挙げて声を上げ、美澪が笑顔を向けながら軽く手を振る。
その後、互いに名乗りを上げてひと段落したところで、疑問が浮かんだ秋葉は口を開く。
「あの、答えたくなかったら別に良いんだけど、亜莉朱って名前……」
秋葉の言いたいことが伝わったのか亜莉朱は、引き継ぐようにして語り出す。
「うちの名前はうちのおとんがつけてな。うちの家族、太郎とか一郎とか祥子とか平凡な名前ばっかやから、たまには奇抜なんつけてみようか言うことになってこないな名前になったんやて。ま、うちは可愛いし気に入ってるからええんやけどな」
亜莉朱は最後に歯を見せて笑った。
「確かに亜莉朱って名前可愛いし、似合ってるよ」
「ホンマ!?」
「うん!」
目を輝かせて顔を近づけてくる亜莉朱に秋葉は微笑みながら首を縦に振る。
(名前と小柄な容姿にロングのハーフツインテールがマッチしてるし、何より関西弁っていうギャップがいい……!)
オタクとしての癖がぎゅっと詰まっている彼女に尊さを感じて、危うく悶絶しそうになるが周りの目もあるので、心の内に留めておく。
「それで、会計の方はどうだ?」
「それが条件に当てはまる人がいたにはいたんですけど、本人に無理だって断られて……」
多田に訊かれて、秋葉は困ったように眉を下げた。亜莉朱は空いた席に座って
「なぁなぁ、何の話してんの?」
「あぁ、実はね……」
まだ生徒会に来たばかりできょとんとした様子の亜莉朱に事情を説明する。
「会計が足りひんのか。そら困ったな……」
「だからどうしよっかって話してて……」
秋葉が付け足すように溢せば、亜莉朱は視線を落として考える素振りを見せる。
すると、何か思いついたようで「あっ」と声を上げた。同じようにして考えていた秋葉たちはまっすぐ亜莉朱へと視線を向ける。
「頼りになりそうな人がその子だけなんやったら、もっかい声かけてみるんは?」
「おいおい話聞いてたか? 1回断られてんだぞ」
呆れたような目で見やる多田に向かって亜莉朱はこう口にする。
「でも、理由とかは何も聞いてへんのやろ? それやったらなんで断ったかぐらい聞いてもええんとちゃう?」
無垢な瞳を浮かべながら話す亜莉朱に一同がハッとしたような顔をする。
「確かに。それで断った理由が分かって、もし解消できそうだったら入ってくれる可能性があるかもしれない」
「そうだね。声かけてみないと分からないし、あの時は教室に人が沢山いた状況だったから、恥ずかしくてうんって言えなかったかもだし」
「まぁその可能性は低いだろうけど、聞いてみる価値はあると思う」
詞貴が頷けば続けて悠、秋葉も同意する。
理由を聞いてそれでも駄目だったら別の人を探せばいい。
何故断ったのか理由を聞くという簡単なことがどうして思い至らなかったのか。
そう悔やむと同時に亜莉朱の一声で場の流れが変わり、多田の言っていたことは本当かもしれないと感じる。
「それじゃあ誰が行くかくじ引きで決めよう!」
「どっから出したんだそれ」
手に持った神社のおみくじ用の六角柱の箱を突き上げた美澪に、傍で様子を見ていた多田がツッコむ。
と、美澪は「やだな~。そんなの『蔵』からに決まってるじゃないですか~」と嘲笑うようにして言った。
多田が額に青筋を浮かべる中、秋葉は武器仕舞う用の『蔵』に何入れてんの……と苦笑する。
そうして茶番を終え、秋葉、悠、詞貴、美澪、亜莉朱の5人は順番に木の棒状のくじを引く。
当たりたくないな~と思いながら手にした棒の先を見てみると、赤色の印があった。
「お、秋葉だね」
「こういうの1番向いてないと思うんだけど……」
詞貴が反応する横で、秋葉が自信なさげに呟きながら引いたくじを箱に戻す。
(むしろこういうのは悠とか美澪が得意そうだろうし)
2人は誰にでも話しかけに行ける精神力があるのはもちろん、自分のペースに巻き込むのが上手い。事実、自分も悠に誘われたからこうして生徒会室にいるのだ。
そうこうしているうちに全員木の棒を戻し終わり、美澪がくじの箱に触れると消えた。どうやら『蔵』に仕舞ってあるというのは本当のようだ。
「天音ってよく教室でゲームやってるから、秋葉と趣味合いそうだし案外いけるんじゃない!?」
「そうだよ。ゲームの話から入って、さりげなーく話を生徒会の方向に持っていく! はい完璧!」
意気揚々と説得してくる悠と美澪に秋葉は思わず押されそうになる。
まずい、この状態の2人を相手にするのは危険だ。
そう詞貴に助けを求めようと視線を送ってみる。と、気づいたようでこちらを見た。
「美澪の言う通りに行くかどうかは分からないけど、何も知らない相手から急に誘われるよりは、多少気心知れた人の方が乗りやすいだろうしね」
「ソ、ソウカナ……」
頼りにしていた詞貴すらも屈託のない笑みを浮かべて悠と美澪に加勢してきて、秋葉は視線を斜め下に逸らしながら応じる。すると、卑屈になっている秋葉を見ていた亜莉朱がバンッと机を叩いて立ち上がる。
「あー、もうめんどくさいなぁ! うだうだ言うてんとはよ行かんかい!」
「ちょっ!? 亜莉朱!?」
突然亜莉朱に腕を引かれて戸惑っているうちに、秋葉は教室の外に放り出される。戻ろうと振り返ったのも束の間、容赦なく引き戸が閉められた。
これは勧誘するまで戻ってくるなってことか……。
深いため息をついた秋葉は、仕方なく自分の教室へと歩き出す。放課後でほとんど人のいない廊下を進みつつ、どうやって切り出そうか考えていると教室に着いた。
扉の窓から中を覗いてみると、廊下側の席に座っている天音を見つけた。秋葉はそっと扉を開けて中に入る。
と、彼女の手にはやはりコントローラー付きの携帯ゲーム機が握られていた。邪魔しないようにゆっくり近づく。よほど熱中しているのか気づく様子がない。
「あのー……」
「うおっ!?」
背後から覗き込むようにして声をかけると、天音の肩がこれでもかと跳ね、片方の手がコントローラーから離れる。
「びっくりした……」
「ご、ごめん……」
声を漏らしながら振り向く天音に秋葉は、頬を引き攣らせながら頭を掻くのだった。




