第5章-第4社 物欲センサーは侮れない
「よぉし! それじゃあ会計メンバーの捜索と行きますか!」
「おぉー!」
週が明けて月曜日の昼休み。学食を食べ終わり教室に戻って来た秋葉、詞貴、美澪の3人は張り切る悠の声に合わせて返事をする。
4人一緒に訊ねると変に圧をかけることになるので、秋葉と悠は1年A組を、詞貴と美澪は隣のB組の教室にお邪魔して会計に相応しい人を探すことになった。
「あまり時間もないし手分けして声かけていこう!」
「おっけー」
やる気満々の悠はそう言うと、ちょうど教室に入って来た生徒へと歩いて行った。
(手分けして声かけるって決まったものの、まともに会話したことあるのって熾蓮に薫、樹に白澪の4人ぐらいなんだよね……)
教室の真ん中で1人取り残された秋葉は、目当ての4人がいないかぐるっと周囲を見回してみる。
と、後ろの窓際の席で固まって喋っているのを見つけた。
まずは生徒会について話して、それから会計のメンバーが足りないから会計の業務が得意そうな人に心当たりあるか訊く。よし、これでいこう。
秋葉はどう切り出そうか頭の中で思案しながら歩み寄る。
「あのさ、4人とも今良いかな?」
「ん? なんや?」
秋葉が声をかけると、椅子に座って話していた熾蓮を筆頭にみんなが振り向く。一斉に視線が降り注いだことによって、秋葉の顔が強張る。
ここでビビってたら何もできない。
覚悟を決めた秋葉は小さく息を吐いてから口を開く。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、このクラスの中で数字に強くてデータ管理もできてお金に責任持てる人って知ってる?」
そう訊いた瞬間、空気が静まり返ると同時に全員の頭の上にはてなが浮かぶ。
(駄目だ。ド直球で聞いてしまった……)
緊張のあまり、頭の中で考えていた言葉が全部すっ飛び、咄嗟に多田から言われた条件をそのまま口にしてしまった。
(こんなこと急に聞かれても分かるか! 自分の馬鹿っ!)
やらかした自分を責めつつ、なんとか取り繕おうと喋り出す。
「あー、知らなくてもそういうの得意か不得意かだけでも教えて貰えると助かるな」
付け加えるようにして言うと、4人は唸り声を上げて考え始めた。どんな返事がくるかそわそわしながら秋葉はじっと待つ。
「んー、知らんな……。俺はそもそも数字とか計算とか苦手やし……ごめんな」
「生憎とわたしもだね。理数系はもちろん、勉強全般分かんないというか……」
熾蓮と薫は困ったように眉を下げた。
頭の隅でこうなるなと何となく思っていたけど、いざ言われると来るものがある。よし、ここは残る2人にかけるしかないか。
「樹と白澪は?」
「というか聞いてて思ったけど、どういう質問よそれ。まずはなんでそういうことを尋ねることになったのか経緯を話しなさい」
「あー、ごめん忘れてた……」
半ば呆れ気味に話す白澪へ、秋葉はごもっともですと頷きながら謝る。
我ながら緊張しすぎだな……。
自分のコミュ力のなさに嫌気を覚えながら、悠と一緒に生徒会へ入ることになったこと、そこで入部試験をするためには会計枠が足りないのでメンバーを探していることを伝える。
「なるほど、生徒会の会計係か。すまんが、学園の任務とは別に親父の任務にも同行しなきゃならんからな……」
「私も治療師としての仕事があるし、学園に治癒の祓式を持つ人が少ない以上、とても手が離せる状況じゃないわね」
「ですよね……」
みんな忙しいよね。そうだよね。ただでさえ普段の授業に加えて任務があるってのに会計なんて荷が重いよね。だって自分だってそうだったし……。
と、2人の返答に対して内心で激しく頷く。
(断られた以上、これは他を当たるしかないか……)
まだ悠が声をかけてなさそうな人がいないか教室を見渡してみる。すると、椅子に座って机に顔を伏せている男子生徒を発見した。
確か彼は下条大翔と言ったか。
自分と同じA組に属しており、京都にある下鴨神社の神職で宝石の祓式の使い手というのは知っているが、如何せん金髪ショートに目つきの悪さが相まってまともに話したことがない。
(暇そうにはしてるけど、見るからに近寄ってくるなオーラが凄いんだよね……。噂じゃ元ヤンキーとか言われてるみたいだし……)
鬱々とした空気を纏っている彼に声をかけようか迷っていると、悠が躊躇することなく大翔へと話しかけに行った。
どんな相手でもものともしないコミュ力お化けの彼女が行ってくれるなら自分が声をかける必要はないだろう。
「ねぇねぇ! みんなで集まって何話してるの!?」
急に可愛げのある高い声が降ってきて秋葉はもちろん、傍にいた熾蓮たちもそっちを向く。
「お、姫香じゃん」
「やっほー! なんか面白そうな話してるから来ちゃった!」
薫が反応すると、姫香と呼ばれた彼女は桃色と赤毛の混じった長いツインテールを揺らしながら無邪気に笑った。
やけにというかいつもテンションの高い彼女は一条姫香。三重にある伊勢神宮の神職で、悠と同じくA組のムードメーカー的存在だ。
武術訓練では秋葉と同じく剣術を選択しており、その時も場を盛り上げていた記憶がある。
「えっと、実はね……」
気になっている様子の姫香に秋葉は事情を話す。
どうやら姫香は生徒会というものがどういうものか知らないらしいので、そこも踏まえて話してやる。
と、納得した様子の姫香が声を上げた。
「それなら1人心当たりがあるよ! 今連れてくるね!」
姫香はそう言い残すと、廊下側の席に座ってスマホゲームをしている女子生徒に勢いよく駆け寄った。
ベージュ色のボブカットに眼鏡をかけた彼女は、ふと顔を上げると姫香を見る。
遠目からだと何を話しているのか分からないので秋葉たちは揃って様子を見守る。
少しして姫香が女子生徒の腕を引っ張って席を立たせた。
「ちょっ、何すか……。お姫ってば、急にこっち来いなんて言って……」
「いいから早く!」
腕をぐいぐい姫香に引っ張られた女子生徒は困惑しながらも秋葉たちの元へやってくる。
と、女子生徒を引き連れて戻って来た姫香が自信満々な表情でこちらを見た。
「はい! あまっちこと如月天音だよ!」
満面の笑みを浮かべた姫香は、天音と呼ばれた女子生徒に向かって両手を広げる。
「確か、事代主神社の神職で……」’
「祓式が情報分析で……」
「理数系科目の成績はクラスの中でもトップ」
「情報の授業じゃ、一番に課題を仕上げてたわよね」
熾蓮、薫、樹、白澪が天音に視線を向けながら順番に口にする。
「そうっ! そんなあまっちなら生徒会の会計にぴったりなんじゃないかなっ!?」
「確かにっ!」
姫香の提案に秋葉を筆頭に5人が目を輝かせて声を上げた。
会計に必要なスキルは計算力と情報を正確に扱える力、そしてお金に責任が持てる責任感だ。確か初回任務では、その情報分析の祓式を活かして任務を円滑に進めていたと聞く。
お金に責任が持てるかどうかはまだ分からないが、それでも最低限必要なスキルは持ち合わせていると言っても良い。
(いける! これはいける……!)
「というわけで……どう、かな……?」
秋葉は圧がかからないようにと恐る恐る訊いてみる。熾蓮や姫香たちも気になるようで、自然と視線が天音の方へ向けられる。
考え込むように俯いた天音は、少ししてすっと青い目を秋葉へと向ける。
「悪いんすけど、無理っす」
天音が淡々と口にした瞬間、教室に設置されたスピーカーからチャイムが鳴った。
チャイムの音が鳴り終わったところで、気まずい空気を払うようにして姫香が天音に迫る。
「なんでさ!? 天音にぴったりじゃん!」
「そう言われても無理なもんは無理っすよ。じゃあアタシは授業の準備があるんでこれで」
姫香が声を張り上げて言い寄るも効果はなく、天音は面倒くさそうに返事をした。そのまま自分の席へと戻っていく彼女を秋葉は呆然と見送る。
「いけると思ったんだけどなぁ……」
「まぁ、しゃーないて」
肩を落として脱力する秋葉に、熾蓮が宥めるようにして声をかける。
でも、そう物事は上手くいくものじゃないし、いくら条件が合ってようとも本人の同意がないんじゃね……。よし、こうなったら次だ次!
思い直して気持ちを切り替えた秋葉は、ひとまず授業の準備を始めるのだった。




