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第5章-第3社 志望理由と希望の役職

「お、来たな。待ってたで~!」

「いらっしゃい――って、なんだお前らか」


 海希が笑顔で手を振ってくる一方、多田は見覚えのある顔ぶれに気の抜けたような表情をする。その反応に秋葉はムッと口をへの字にして眉を顰めた。

 

「よし。私、帰る」

「待って! 待って秋葉帰らないでぇ!」

 

 踵を返して教室から出ようとする秋葉を必死に腕を掴んで悠が引き留める。

 

「お前アホか! せっかく来てもろたっちゅうのに『なんだお前らか』は無いやろ!」

「痛い痛い……悪かったって」

 

 今帰られては困ると海希は隣で爆弾発言をかました多田をゲシゲシと拳でつついて説教する。海希の攻撃を腕で防ぐ多田は別にそんなつもりはなかったのだと言いたげに面倒くさそうに呟いた。

 

 お前本当に分かっとるんかという目で多田を一瞥した海希は、拳を降ろして帰る秋葉と帰らせるものかと彼女の腕を持って踏ん張る悠へ顔を向ける。

 

「今、お茶出すさかいゆっくりしてってな~」

「ほら、海希先輩もこう言ってることだし。ね?」

「はいはい分かったよ」


 海希に続いて悠も説得しにかかると、秋葉は半ば諦めたような口調で言った。


 空いている席に座って良いよと言われ、多田と海希と向かい合うようにして並べられた椅子に座る秋葉と悠。秋葉が出されたお茶を一口飲んで教室にあるような木目の机に置くと、多田が切り出した。


「それで、生徒会にやってきたってことはそれなりの理由があるんだろ?」

「それはもちろん! あたしはこの学園生活を楽しませるための活動がしたくて来ました」


 真っ先に悠が手を挙げて、限界まで口角を上げて目を爛々とさせて応えた。


 やっぱりありきたりな理由だな……。

 

 そう思いながら、自分の番が来るまでどういう理由でこの場を凌ごうかと画策し始めていたところで、悠が続けてこう言った。

 

「あたしはまだ入学ばかりだからそんなに学園のことを分かってるわけじゃないけど、これから任務も増えて、生徒のみんなは疲弊しながらも頑張って学校に来ると思うんです。だからそんな人たちに少しでも安らぎを与えられたらなって」


 てっきりただ楽しいことがやりたいから入りたいのだと思っていたが、そこまで考えていたとは。


 秋葉はもちろん、話を聞いていた海希や多田もあっと驚いたように目を見開いた。


 あの悠が? 嘘でしょ!?


 秋葉は内心で唖然としながら、悠を見る。


 彼女は明るくていい子だが、ただやりたいから、ただ行きたいからとたまに考えなしに行動することが何度かある。完全に今回もそっちの方面だと思っていたのだが、そうではなかったようだ。

 

「もう合格やろこれ」

「そうだな。やれるだけのポテンシャルもありそうだし」


 海希と多田は顔を見合わせ、感心したように頷いた。2人からそう言われ、悠は2人にはバレないように机の下でガッツポーズする。


 あれ? もしかして……。その場で取り繕った嘘か? と、一瞬思うも、多分悠のことだからその想い自体はきっと本心なのだろう。

 

 などど考えている場合ではない。悠が終わったとなれば次は自分の番だ。

 

「それで、秋葉は?」


 案の定多田に問われ、秋葉の全身がピシッと固まる。


 まずいどうしよう……何も考えてない。


 そう焦るが、あまりにも黙っていると怪しまれてしまう。多田と海希、そして隣にいる悠に視線を向けられて更に緊張が走る。


 ええい! ここはもうその場のノリと勢いだっ!


 覚悟を決めた秋葉は徐に口を開く。

 

「第一の理由としては創作に活かすためですかね。生徒会って学園の最高権力みたいなイメージありますけど、実際にはそうじゃなくて学園をよりよくするためにある組織だと思うんですよ。なのでちゃんと自分で経験してみてそこで得たものを取り入れたいし、私自身、人のために動くのとか好きな方なので。後は神社の運営をするにあたってまだまだ足りてない面もあると思うのでそこも学べたらなと」


 つい緊張でオタク特有の早口で一気に喋ってしまった。しかし相手には届いたのか、海希と多田は考え込むような素振りを見せる。

 

(大丈夫。嘘は言ってない)

 

 顔を下に向けて俯いた秋葉は、どのような反応が返ってくるのだろうかと祈りながら返事を待つ。


 次の瞬間、閉じられていた教室の扉が開いた。秋葉たちは一斉に扉の方へ顔を向ける。と、そこから赤みがかった長い茶髪を後ろで三つ編みに纏めた男子生徒が姿を現した。

 

「あ、綾瀬詞貴(不憫な出席番号1番)

「不憫言うなっ!」


 秋葉がポロッとそう口にした瞬間、紫の瞳を細めた詞貴(しき)が声を張り上げてツッコむ。彼は綾瀬(あやせ)詞貴(しき)。奈良にある一言主(ひとことぬし)神社の神職で、1年A組出席番号1番だ。

 

 代報者試験に向けての訓練では出席番号が1番なことから毎度織部によって脅迫じみた促しをされ(先陣を切らされ)、ビルの屋上から飛び降りさせられたり、代報者課程の授業では毎回1番初めに当てられるという不憫で可哀想な人だ。

 

「やっほー。さっきぶりだね悠」

 

 来て早々、不憫な扱いを受ける詞貴の後ろから顔を出したのは、腰までの水色髪をお下げにした蒼眼の女子生徒だ。


 彼女は軽く手を振りながら、悠に声をかける。話しかけられた悠は席を立って入口の方へと向かった。せっかくなので秋葉も移動するべく席を立つ。

 

「お、美澪(みれい)じゃん。美澪も生徒会に?」

 

 悠が美澪と呼んで問いかける彼女は、津守(つもり)美澪(みれい)。大阪にある住吉(すみよし)大社の神職で、秋葉と同じく1年A組のクラスメイトだ。確か昨日の初任務では、悠や詞貴と同じ班だったはずで、詞貴とは気が合うのか何なのか教室でよく一緒にいるのを見かける。

 

「そうだよ~。この不憫な出席番号1番もね」

「再会してまだ1分も経ってないのにみんな私の扱い酷くないかい……」

 

 ノリが良いのか美澪がからかうようにして口にすると、詞貴はしょぼくれたように肩を落として泣き真似をする。


 と、美澪は目を細めて秋葉へ顔を寄せた。

 

「それでそれで? 悠はこういうの興味ありそうだと思ってたけど、秋葉もとは意外だね~」

「半ば悠に誘われてだけどね」


 美澪に詰められた秋葉は海希や多田には聞こえない程度の声量で話す。秋葉が生徒会室にいる理由に美澪は納得した表情を見せる。

 

 その後、立ち話もなんだということで、4人は部屋の奥へと移動して空いている席に座る。全員が着席したのを確認し、海希と多田は詞貴と美澪の志望理由を聞く。


 それよると、どうやら詞貴は前々から生徒会に興味があり、文字を書くのが好きなのでせっかくならそれを活かしたいらしい。


 一方の美澪は、お金が欲しいから。どこから仕入れてきたのかは知らないが、生徒会で受ける任務報酬額は危険なものが多いため、通常任務よりも10%ほど高いらしい。


 生徒会は学内のことだけではなく、別で任務までこなしているのかと驚きながらも、確かに10%高いのはいいなと金に目がくらむ。

 

「ほな、次にみんなが希望する役職聞いてこか」

「今空いてる役職はざっとこんな感じになる」

 

 多田が脇に置いてあったファイルの中から、1枚の書類を机に置く。机の周りに座っていた秋葉たちは顔を近づけて覗き込んだ。


 それによると現在空いているのは、会計が2枠、書記が1枠に企画が1枠、広報1枠に庶務が1枠だ。

 

 ここでじっと書類を見ていた美澪が手を挙げた。

 

「ボクは企画を希望します!」

「私は志望理由でもいった通り、書記かな」

「あたしは持ち前のコミュ力活かして、広報がいいです!」


 美澪に続いて詞貴と悠も希望の役職を言っていく。

 

「この中だと庶務……ですかね」


 完全に出遅れた秋葉はどれにしようか迷いながらもそう呟いた。


 生徒会の庶務というのはいわば雑用係に近いのだが、その分さまざまな役職のメンバーとかかわりも持ちやすくなるし、何より決まった仕事がない以上、暇な時間もあるだろうからその時に脳内で設定を練ることができる。

 

(自分、天才!) 


 と自画自賛しながら、そういえば会計がいないことに気づく。


 と、4人の希望する役職をメモをし終えた多田が話し出す。

 

「企画なら俺に1人当てがいる」

「そら頼もしいな。いつ頃連れてこれそうや?」

「そうだな……。入部試験もあることだから、明日には連れてこよう」

「了解や」


 

 入部試験と聞いて首を傾げる秋葉たち。多田の話によると、生徒会は学園の業務以外にも、学園内外から依頼を受けて任務を遂行する役目がある。


 さきほど美澪がポロッと口にしていたように、その任務内容は3・4限や放課後の時間を使って行われる任務よりも危険が多いらしい。


 それ故に入部前には必ず、きちんと生徒会に入ってくる任務をこなせるかどうか見極める試験が行われるようだ。

 

 ともあれこれで企画の穴は埋まった。残るは会計だけだ。


 いない会計はどうしてるのか気になり、秋葉は手の空いている海希に問いかける。

 

「会計やったら今は副会長と顧問が兼任でこなしとる。あのまま2人に任せとくのもやから、最低でも1人は欲しいところなんやけど……」

「なら、ボクが! こう見えて数字には強いんで!」


 海希がそう口にすれば、手を挙げた美澪が机に身を乗り出して主張し出す。


 すると、その横で美澪の様子を呆れた目をして見ていた詞貴が口を開く。

 

「悪いけど、美澪は止めといた方がいいです。だって、ついさっき受け取った任務報酬もう全部使っちゃったんでしょ?」

「あー……えへへっ……」

 

 詞貴が問うた瞬間、美澪はあからさまな様子で視線を横に逸らして乾いた笑いを浮かべる。


(全部使った!? あの額を!? もう!?)


 秋葉は美澪の行動に度肝を抜かれて、口をぽかんと開く。


 ホームルーム前に急いで初回任務の報酬金額を確認しに、近くのATMまで走ったのだが12万ほど振り込まれていた。秋葉たちの班は評定結果Aを取ったため標準より金額が上がっているが、標準のBでも10万ほどらしい。


 10万を一気に使うだなんてなんてことだ……。


 美澪の行動に思わず、ちまちま貰った報酬を切り崩して生活しようとしていた秋葉は頭がくらくらし始める。

 

「だったら美澪は無しだな」

「そんなぁ……!」


 多田が容赦なく切り捨てると、すぐさま美澪が嘆き声を上げる。


 視線を下げて落ち込んだ様子の美澪は、両人差し指をつんつんと当てながら動かして不貞腐れ始める。

 

「そこの3人はどうや?」

「私はそういうのはからっきしでして……」

 

 不貞腐れる美澪を他所に海希が訊くと、詞貴は眉を下げながら答える。

 

「あたしもお金のこととかよく分かんないしな~。秋葉は?」

「えぇ? 私?」


 急に悠から振られ、完全に美澪の使った金額に気をとられてぼーっとしていた秋葉は裏返るような声を上げて反応した。

 

 会計かぁ……。一応、何をしでかすか分からないエルには任せられないから、家と社務所の金銭管理は自分がやっているし、できなくはないけど……。

 

「生活費とか神社の運営費とかと混ざっちゃう可能性があるんで……」

「それは駄目だな……」

 

 苦笑交じりにそう告げると、多田は額に手を当てて声を漏らした。

 

 生活費と神社の運営費に加えて、生徒会の会計でお金を取り扱うとなれば頭がパンクしてしまう。非常に申し訳ないところではあるが、致し方ない。

 

「入部試験やるためには会計の穴埋めなあかんねんけどなぁ」

「こうなったら、入部前のお前たちに任務だ!」


 海希が唸るその横で立ち上がった多田は、秋葉たちに向けて指を差す。

 

「数字に強くて金銭データの管理もできて、お金に責任持てるやつを1人でいいから探してこい。試験日程の都合もあるから期限は週明け火曜日の16時までだ。頼んだぞ」

「はいっ!」


 多田がそう言うと、秋葉たちは声を揃えて返事をするのだった。

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