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第5章-第2社 帰宅部の意地

「評定受け終わって、はよ帰りたい気持ちも分かるけどその前に1つお知らせや」


 黒板をバックにして教壇へ立った織部が秋葉たち生徒に向けて言った。

 

(なんでバレたし……)


 このホームルームが終わったら早々に家へ帰って『紅桜(べにざくら)』の設定を改良して、彼女が主人公の小説を書き進めようと画策していると、ちょうど思っていることを言われ、先生はエスパーかと訝しむ。

 

 織部は教壇に置いてあった1枚のポスターを手にして、全体へ見せる。それには『生徒会執行部、役員募集中!』とポップな文字で記されていた。

 

「毎年この時期に生徒会のメンバー募集があってな。今年は例年よりも役員が足りてへんさかいはよ募集かけろいうことで、興味ある人は今日の放課後から募集しとるらしいから生徒会室に行くように」


 織部がそう伝えると、真隣の悠はこれでもかと興味津々な表情でポスターをガン見していた。

 

(こうなったら巻き込まれないうちに早く退散しよう)

 

 帰宅部歴7年の意地にかけて誰よりも早く教室を出てやろうと、秋葉は脳内でルートを確保し出す。

 

「ホンマ頼むから行くんならはよ行ってな」


(なんでそんな必死なんだ……)


 教壇に手をついて懇願する織部に、秋葉は戸惑いの表情を浮かべる。だが、自分としては行く気は毛頭ないため、さっさと帰ろうとスタートダッシュを切るべく、手提げ鞄に手を掛ける。


 そしてホームルームが終わり、放課後。秋葉は一目散に教室から出ようと席を立つ。

 

「あーきはっ!」

「私、先に帰るねー」


 ご機嫌そうな笑みを浮かべて話しかけてくる悠をスルーして教室までの道のりを足早に歩く。と、後ろから腕を掴まれる。


「ねぇ! まだ何も言ってないじゃんッ!」

「どうせ『一緒に生徒会入らない!?』でしょ?」

「なんで分かんの……!」

 

 振り向きざまに言ってやると、悠は歯を食いしばりながら声を上げる。


「もう顔に出てるし、悠の考えてることはお見通しだっての」

「秋葉ぁ……! 入ろうよ! 生徒会ッ!!」


 そう縋りつくようにして頼み込む悠。もはや嘆き声に近く、放課後の教室で醜態をさらしながら訴える悠に秋葉は冷たい目を向ける。

 

「嫌だ」

「何でさぁ! 絶対楽しいって!」


 きっぱり告げてやるも、効果はないようで更に事態が悪化していく様を見て秋葉は呆れたように息を吐く。

 

「逆に訊くけど、なんで悠はそんなに入りたいのさ?」

「え、普通に面白そう! 学園の催しものとか考えられるし、先輩たちと交流もできるし、楽しいじゃん!」


 秋葉が悠の志望理由に興味がいったのを良いことに、彼女はパァッと表情を明るくしながら言った。

 

 如何にもありがちな理由を聞いて、ただ興味があるからというだけで入ろうとしてるのが見え見えだなと思う。

 

 すると、黙って聞いていた秋葉に悠はぐいっと顔を寄せる。

 

「だからねっ!? 入ろっ!」

「いやいや、だって生徒会とか絶対に忙しいから。自分の時間取られるの嫌だし、神社の運営もしなきゃだし」

 

 日々の授業に寮での生活、任務に神社運営とただでさえ忙しいのだ。これ以上やることを増やしては、パンクしてしまうし何よりのびのびと創作ができない。


 ただ面白そうというだけで悠は生徒会の大変さを分かってないのだろうかと思ってしまう。いや、やれるだけの情熱と体力とメンタルのある彼女ならそういう諸々のしがらみをすっ飛ばしてやりきってしまうんだろう。けど、自分には到底無理な話だ。

 

 そう思っていると、突如として宙に白い光が現れ、そこからマスコット姿のエルが出てきた。

 

「授業や任務はともかく、神社運営はボクに任せておきたまえ」

「あんたが信頼できないから、自分でやろうとしてんでしょうがっ!」


 秋葉は自信満々に言うエルの尻尾を掴んで引き寄せ、ぐいぐいとほっぺを引っ張る。神前式の依頼を蹴った上に人払いの結界を貼った前科があるのだ。そう簡単に信頼できるわけがない。

 

「えぇ~! 入ったら絶対創作とかでタメになると思うんだけどなぁ~」


 秋葉に頬を引っ張られエルが涙目になる中、悠はわざとらしい声で言ってくる。と、ピタッとエルの頬を引っ張る手が止まった。

 

「だって、生徒会だよ? 例えフィクションであろうとも書くにあたっては絶対リアルな面とか知っといた方が役に立つじゃん!」


 追い打ちをかけるようにして悠が説得しにかかる。


 確かにそれはそうだ。何よりもフィクションもとい、秋葉の書いているファンタジー小説においてはリアリティが大事になってくる。でも、時間を取られるのはなぁ……。

 

「ほらほら~、リアルな現場知れるチャンスを逃すっての? それでも創作者ぁ?」

「……っ!」

 

 煽るようにして痛いところを突いてくるエルに、思わず息が詰まる。頭の中で自分の時間とリアルな現場、もとい生徒会を天秤にかけてみる。


 正直なところ生徒会に憧れがないわけではないし、先輩たちとの交流の場あるのは今後の学園生活においては強い。加えてリアリティを求める創作スタイルの秋葉にとって、実際の環境で情報を得られるのはかなりありがたい。

 

 だんだん生徒会に天秤が傾き出し、やがて秋葉は吹っ切れたようにしてこう口にした。


「あ゛ー! もう分かった! 分かったから! 行けばいいんでしょ!」

「やったー!」

「よっ! それでこそ秋葉っ!」


 生徒会への勧誘に成功し、喜ぶ悠とエルは互いにハイタッチをする。

 

 (なんだろう……行く前からどっと疲れたな)

 

 まだ教室から出てすらいないというのに悠とエルの圧に負けた秋葉は祟魔と一戦交えた時のように疲労を感じる。

 

「その代わり、様子見るだけだからね。合わないなって思ったら帰るからね」

「勿論!」


 秋葉が口酸っぱく話すと、悠は口角を上げ、キリッと眉を寄せて親指を立てる。そんな彼女をみて秋葉は本当に調子のいい子だなと頬を引き攣らせる。

 

「さぁ! そうと決まればレッツゴー!」


 荷物をパパっとまとめた悠はハイテンションで教室を出る。同じく廊下に出た秋葉は、機嫌よく歩く悠の姿を後ろから眺めつつ、口を開く。

 

「張りきってるとこ悪いけど、生徒会室はそっちじゃないよー」

「あ、ごめん。間違えた」


 悠の方向音痴は相変わらずだなと苦笑しながら、生徒会室への道を進む。そうして歩くこと数分。階段を上がってすぐの4階の教室へ着いた秋葉と悠は扉の前で立ち止まる。

 

「お邪魔しまーす!」


 ノックをした後、軽快な声で悠が教室の開ける。すると、扉が開いたのに気づいたのか、部屋の中央に6つ程固められた机の傍にある椅子へ腰かけていた海希と多田がこちらを見た。

 

「お、来たな。待ってたで~!」

「いらっしゃい――って、なんだお前らか」


 秋葉と悠の姿に海希(みき)が笑顔で手を振ってくる一方、多田(おおた)は見覚えのある顔ぶれにジト目を向けるのだった。

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