第5章-第1社 2度目の再会
時は遡って任務の翌日の昼休み。寮に戻った秋葉は悠と共に任務評定を受けるため、校舎から離れたところにある演習場まで向かっていた。
「これでDとかCだったらどうしよう……」
30分後に迫る評定結果で、今後の暮らしが左右されるのを恐れて秋葉は肩を落とす。
「流石にそれはないんじゃない? だって秋葉たちの班ってかなり強い敵と遭遇したんでしょ? それで誰1人欠けることなく生きて帰って来たんだから大したもんだよ」
「うん、それはそうなんだけどさぁ……」
悠が慰めるようにして話すが、秋葉は腑に落ちない様子で返事をする。
無事に小春を送り届けて生還したとはいえ、評定の基準が分からない以上、最低ランクのDを取る可能性はある。
実際に重傷を負ってしまったからそこで身のこなしがなってないとか減点されるかもしれないし、遭遇した妖鬼姿の準烈級祟魔も一体取り逃がしてしまった。
万が一、報酬額が削られるようなことになったらどうしよう……。
だんだん思考がネガティブな方向になっている自分に嫌気が差しながら歩いていると、前の方から3人の生徒が歩いてくるのが見えた。
癖のある肩下までの青髪をポニーテールで纏めた大東海希に、毛先の跳ねた短い茶髪の多田太郎、そして名前は分からないが藍色に毛先が青みがかったのボブカットの女子生徒が揃って気だるそうな顔をしている。
3人はそれぞれ大きな透明のケースに筒状の大きな光沢紙、教室で使われている背もたれのある椅子などの荷物を手に持ったり、脇に抱えていた。
何してるのだろうと不思議に思いつつ、秋葉は声をかける。
「海希先輩に多田先輩、お久しぶりです」
「おぉ、秋葉か。久しぶりやな」
「確か修練場に邪魔したとき以来か。あんときは突然乱入して悪かったな」
「いえいえそんなことないですよ」
ぺこりと軽く頭を下げて謝る多田に、秋葉は笑って返す。
海希と薫の模擬戦闘を見たおかげで、武術テストに合格することができたし、どう動いたら敵の隙を突けるのかなど彼らの試合で学べることも多かった。
また機会があったら見てみたいし、なんなら教えて貰うのもいいかもしれない。
そう思っていると、トントンと悠に肩を叩かれた。
「ねぇねぇ秋葉、この人たちは?」
隣でやり取りを見ていた悠が訊いてくる。そういえば悠は、暗器組で武術鍛錬をしていたので、海希たちと会うのは初めてだったか。
「ほら前に言ってた先輩たちだよ。薫と樹と知り合いだって話したでしょ?」
「お、なるほど。薫とバチバチにやり合ってた人だ。どうも! 秋葉の友達の千草悠って言います!」
「2年の大東海希や」
「同じく多田太郎。よろしくな」
悠が手を挙げて元気よく名乗ると、海希と多田も笑みを浮かべて言った。
それはそうと、悠の海希に対する認識が薫とやり合ってた人認識なのかどうなのだろう……。
話したのは自分なので、説明の仕方をもう少し工夫すればよかったかもしれない。
と、多田の隣にいる女子生徒へ目がいく。そういえば、まだ名前聞いてなかったな。
「あの、ところで多田先輩のお隣にいる人は?」
「ん? あー……」
多田と海希はすっかり頭から抜けていたと言いたげにゆっくりと女子生徒へ視線を向ける。
彼女はジト目の蒼眼で多田と海希を睨みつけてから、呆れたように息を吐いた。
「ったく、存在忘れんなよアホども。あたしは2年の伏瀬夜宵だ。こいつら2人とは中学の頃から一緒でな。同じ道場にも入ってたから薫、樹の2人とも知り合いだ」
「あ、そうなんですね。1年の北桜秋葉です。よろしくお願いします」
つまりこの先輩3人は大神学園に入る前から一緒ということらしい。会話を聞いて仲が良さそうだなと思っていたがそういうことだったのか。
同じ道場出身の幼馴染3人。これはオタクとして微笑ましい関係性だ。
今度それを参考にキャラクター作ってやってみようかなと頭を働かせていると、悠も似たようなこと思ったのか興味深そうな目を向けていた。
話が長くなると踏んだのか3人は一旦、抱えていた荷物をアスファルトの地面へと降ろす。
「にしても、その様子だと初任務は無事に終わったようだな」
「えぇ、まぁなんとか」
「これから評定結果聞きに行くところです!」
多田が言えば、秋葉は苦笑交じりに答え、悠は明るい声で話す。
「ほんで、薫に樹……後、熾蓮は?」
「同じ班でしたけど、3人とも無事ですよ」
「そうか。ほんなら良かったわ」
薫と樹のことはもちろん、まだ知り合ってそんなに経っていないが何かと馬が合う熾蓮のことも心配していたのだろう。
秋葉が応じれば、海希は安心したように呟いた。
「そうなると、今年は逸材ぞろいってわけか」
「先輩として誇らしいな」
多田と夜宵は感心したような表情を浮かべる。
「出会ってまだ5分も経ってないのによく言うぜ」
「別に良いだろ」
今のところ自分以外、瀕死の重傷を負ったという報告は受けていない。
無事に帰ってくるというだけでも難しいとされる初回任務で、生還できたのは確かに凄いことだ。
「それでさっきから気になってたんですけど、その大荷物は一体何なんです?」
秋葉は地面に置かれた荷物一式へと視線を向ける。
3人の足元には複数枚の白い紙の入った透明のケース、その上には筒状に巻かれた光沢紙と教室で使われている椅子、画鋲の入った小さな箱に工具箱があった。
「あぁ、これか? 生徒会募集のポスターだよ」
「これから校内のいろんなところに貼りに行くねん」
「ってことは、皆さん生徒会に入ってるんですか!?」
多田と海希が応えると、真っ先に悠が紫の双眸を輝かせて食いついた。
(おっとこれは……)
ふと嫌な予感が秋葉の頭の中をよぎる。
「俺と多田はそうやで」
「あたしは手が足りないってんでその手伝いだ。意地でも生徒会になんか入るもんか」
海希が笑顔で頷く中、夜宵は途端に不機嫌そうに顔を歪めて吐き捨てた。
ピリピリとした空気が夜宵の周りに渦巻き始め、呪詛のようなものをぶつぶつと口にし始める。
「興味あったらいつでも生徒会室に来てな。人手足りてへんねん」
「いいか? 頼むから生徒会に入るのだけはやめとけ。マジでろくなことにならねぇから」
(一体、どっちを信じればいいんだ……)
満面の笑みを浮かべて勧誘してくる海希と絶対に入るなと威圧するように忠告してくる夜宵を前に、秋葉と悠は額に汗を浮かべて顔を引き攣らせる。
「おいこら後輩が困ってるだろ。そこまでにしとけ」
多田が割って入ると、海希と夜宵は同時に舌打ちをする。
悪い先輩2人を止めただけなのになんでそうなるんだよ……と多田は理不尽な反応を受けて嘆く。
「ま、入るにしても入らないにしても自分の意思で決めるんだな。人の意見に左右されるぐらいなら入らない方が身のためだが、入ってくれた方が色々と助かるかもしれない」
「お前はどっちの味方やねん!」
「お前はどっちの味方だ!」
多田のどっちつかずの意見に海希と夜宵がツッコめば、彼は「俺は中立の立場を希望する」と淡々した口調で言った。
要は入部するかしないかの選択は自分でしろというのが多田の主張らしい。
まぁそれはそうだなと納得しながら、凄く入りたそうにしている悠の視線を感じて、秋葉は苦渋の表情を浮かべる。
「というか早く行かなくて良いのか?」
両隣でガミガミ言い合っている海希と夜宵を他所に、多田が校舎の壁にはめ込まれた時計を見ながら尋ねてきた。
咄嗟に時計へ視線を向ければ、授業開始までもう5分もない。
「ホントだ! もうすぐ授業始まっちゃう!」
「それじゃあ私たちはこれで失礼します!」
悠と秋葉は3人に別れを告げ、急いで織部たちの待つ演習場へと走るのだった。




