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第4章-幕間 任務報告(緋霊side)

「それで緋霊(ひれい)よ。此度の任務はどうであった?」


 階段の上の玉座から問いかけてくるのは、狗ノ間(いぬのま)の主である狗無(くない)だ。極めて冷淡な声色で言った狗無の頭頂部には犬耳が生えており、ゆらゆらと尻尾を揺らしている。

 

 階段の下では両脇に控えるようにして、狗無(くない)と同じく犬耳に尻尾を生やした長く色の薄い青髪をした兄の蒼霊(そうれい)と長い緑髪を後頭部で団子にした姉の翠霊(すいれい)が佇んでいた。任務を済ませ、早々に報告へとやってきた緋霊(ひれい)は床に跪いてこう告げる。

 

「祟魔に取り憑かせとったもんは祓われてしまいましたが、かなりの深手を負っちょる。今頃は死んでるやろう思います」


 淡々とした口調で玉座にいる狗無(くない)へ報告する。


 相手はまだ年端もいかない人間だ。多少戦えたところで腹を貫かれては、そう長くは生きてはいられない。大方、大量出血しているでこの世を去っていることだろう。

 

 そう思いながら狗無の反応を待っていると、不意に狗無がこめかみに2本の指を当てた。


 何かあったのだろうか。

 

 念話で何やら話している狗無を緋霊はもちろん、蒼霊と翠霊も怪訝な目で眺める。


 と、話が終わったのか狗無は玉座の手すりに手を置いてこちらを見下ろした。

 

「……緋霊よ。確認に走った使いによれば、どうやらアレは生きているらしいぞ」

「はっ、噓じゃろ……」

 

 狗無が言った瞬間、緋霊は面食らったように目を見開いた。


 狗無を疑う訳ではないが、念のため本当かどうか確認しておこうと自らの部下へと念話を飛ばすべく、こめかみに指を当てる。

 

游幻(ゆうげん)! おんしまだそこにおるんじゃろ⁉ 一体どないなっとるんじゃ⁉ あの小娘、死んだんとちゃうんか!?』

 

 未だ千鳥ヶ淵にいるであろう準烈級祟魔に扮した小柄な妖鬼へ、激しく語り掛ける。


 烏で視覚を介して視ていた自分とは違い、その場にいたのだから何か知っているはずだ。

 

 祈るようにして返答を待っていると、頭に老人の笑い声が響いた。

 

『いや~、実は私めも緋霊殿とほぼ同じくして意識を失いましてなぁ。吹っ飛ばされたのか気づいたら遠い山奥でしたわい。故に真偽はこちらからは分かりかねます。しかし、まさか石ころごときに意識を持っていかれるとは.......こら笑えますぞ。あっひゃっひゃっ!」

『何笑とんじゃ! おどれ!』


 (ほんま使えんやっちゃな……)


 念話越しに高笑いする妖鬼にツッコミを入れ、緋霊はため息を吐く。

 

 と、未だに動揺している緋霊を見て、確認がてら蒼霊が脇にあった(うつ)(かがみ)を起動させる。


 すると、織部に背負われている秋葉の姿が映った。この鏡は現在進行形で自らの見たい対象を念じ、祟気(すいき)を回すことで起動する。ということは、紛れもなく生きているのは事実というわけだ。

 

『……もうええ。あやつが生きとるいう確認が取れた。また進展があったら連絡するきに。はようそこから戻ってこい』

『承知いたしました』


 ひとしきり笑って満足したのか、落ち着きのある声が返ってくる。


 烏を経由して緋霊も状況を視ていたが、突然硬い何か――游幻(ゆうげん)によると石ころに当たったせいで視覚共有が途絶え、その後どうなったのか確認が取れていない。おそらくあの後に何かが起こったのだろう。


「何にせよ、あやつが生きているのであれば任務は失敗か」

「申し訳ないです」

「元より簡単なものであれば、こうして我らに声がかかることはなかったはずだ。そう気負わずともよい」

 

 緋霊が頭を下げるに対して狗無が宥めるようにして言った。


 今回で明確になったが、秋葉を殺そうにもいくつかの障害がある。おそらく向こうもきちんと対策してきているのだろう。


 これは長期戦になりそうだと緋霊は心の中で感じる。

 

「それにしても、まこと滑稽なことよのう。我が弟ながら呆れるわ」

「なーんもやっとらんくせに、のこのことほざきよって……!」

 

 口元を扇子で隠した翠霊は嘲笑うようにしてほざく。それに対し、頭にきた緋霊は地を這うような低い声で怒りをぶつける。

 

「だいだいのう、お主は詰めが甘いんじゃ。如何なる状況にも対処できるよう綿密に手段をこうじねば殺すべき相手も殺せぬ」

「ほぉ……そこまで言うんじゃったら次はおまんがやってみせぃ」

 

 確かに翠霊の言うことは正論であり、緋霊も認めたくはないが渋々同意する。


 だが、実際に成せなければ意味が無い。緋霊の言い分に易々と乗るような玉でもないだろうが、どう出る。そう翠霊がどう返すか身構えていると、彼女は口元に笑みを浮かべる。

 

「よいぞ。暇を持て余しておったが故、好都合じゃ。ここいらでお主の姉として、狗無三大配下の1人として1つ片をつけてやる」

 

 翠霊は自信満々に言い放った。


 この狗無の配下に属している誰よりも自身の身なりに自信を持つ彼女は、「それにそろそろ動かねば、肌にもよろしくないしのう」と最後に付け加えるようにして呟いた。


 彼女本人がそう言うのだ。是非ともこの目で見せてもらおうではないかと興味深そうに薄ら笑いを浮かべる。


 完全に次回の任務の遂行者が翠霊に向き、蒼霊は玉座にいる狗無を見上げる。

 

「狗無様、どうなさいますか?」

「翠霊がそこまでいうならやらせてみるのもよかろう。頼めるな?」

「無論じゃ。この(わらわ)に任せておくがよい」


 狗無からの許可を得た翠霊は不敵に微笑むのだった。

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