第1章-第7社 異変(熾蓮side)
祟魔との戦闘が始まってから数分が経過した。
(祓っても祓っても全然減らへん……!)
熾蓮が依然数を減らしているものの、祟魔はとめどなく湧いてきており、正直言ってキリがない。
秋葉の貼った結界にもヒビが入り始め、彼女がすぐに強化して対処するも、攻撃が止む気配はなさそうだ。
「はぁっ!」
熾蓮が苦無を振りかざして攻撃するが、祟魔は手に持っていたナイフでいなして回避。熾蓮の攻撃をすり抜けた祟魔は、狙いを定めて、秋葉に向かってナイフを投げた。
投げられたナイフは熾蓮が苦無で弾き落とす間もなく、まっすぐ結界へ飛んでいき、ヒビが入った箇所にヒット。
「!?」
ギリギリ維持できていた結界が破られ、秋葉の目が見開かれる。周囲にいた祟魔は機会を逃さんとばかりに、一斉に彼女へ襲い掛かろうと走り出す。
「秋葉っ!」
熾蓮が咄嗟に駆け出すも、この距離では到底間に合わない。
(クソッ……!)
秋葉の元へたどり着いた祟魔たちは彼女目掛けて跳躍。爪が振り下ろされる。
が、次の瞬間、秋葉の周りに無数の桜の花弁が発生。それは渦となって秋葉を覆うと同時に、周りにいた祟魔を蹴散らし、消滅にまで追い込んだ。
と、その直後、秋葉を覆っていた桜の花弁が晴れる。
「……」
そこには、赤メッシュの入った茶髪を後頭部で一纏めにし、紅い着物に紺色の袴、草履を身に纏った秋葉が立っていた。
秋葉は腰に差された刀へ手を掛けると、抜刀と同時に祟魔へ接近。瞬く間に周りの祟魔に無数の斬撃を放ち、撃退した。
「う、嘘やろ……」
熾蓮は唖然とした表情で、秋葉を凝視する。彼女は残りの祟魔を反撃する隙も与えないまま手に持った刀で祓っていく。
(あの剣さばき……あれは秋葉とちゃう。誰やあいつ)
熾蓮は秋葉に注意を向けながら、こちらに向かってくる祟魔へ炎を纏わせた苦無を投げて始末する。と、周囲にいた祟魔が全滅。
秋葉の成りをした少女は刀身についた血を払うと、納刀して熾蓮の方を見てきた。
その目は冷めたような、こちらを見透かすようなもので、やはりいつもの秋葉とは違う。
熾蓮は意を決したように拳を握りしめ、口を開く。
と、その直後、少女が再度抜刀してこちらに向かって走り出してきた。その行動に思わず、「えっ」と声が漏れる。
少女は熾蓮の目の前まで来たかと思うと、その場で跳躍して、熾蓮の肩の上に乗る。
「いっ!?」
突然きた衝撃に熾蓮は顔を歪ませ、体勢を崩す。
刹那、少女は熾蓮の肩を蹴り、宙に飛んだ。そのまま刀を振り降ろした直後、何かと衝突する音が聞こえ、咄嗟に振り向く。
すると、大柄の人型祟魔が手の甲で少女の刀を受け止めているのが視界に入った。
「なっ!?」
(全く気付かへんかった……)
いつの間に出現していたのだろう。そいつを目にした熾蓮は呆気に取られる。
一方、大柄な祟魔と交戦していた少女は刀を弾かれると、後退。熾蓮の隣に降り立った。
大柄な人型の祟魔は、先ほどまで戦っていた祟魔よりも断然強いオーラを纏っている。
ただでさえ先の戦闘でだいぶ消耗しているというのに、あれを自分たち2人で対処できるのか。そう思ってしまうが、やるしかない。
熾蓮は床を蹴って、大柄な祟魔に向けて苦無を放った。すると、祟魔の目の前で爆発。熾蓮は即座に後ろへ回り込んで、背中に苦無を突き刺す。
少女も視界を奪った隙に同じくして刀で祟魔の胴へ斬り込む。
だが、あまり効いていないようで、祟魔は豪腕を2人に目掛けて振り回した。腕が直撃する寸前、熾蓮は身を翻し、その勢いでバク転。後ろに下がって体勢を立て直す。
少女も攻撃を避け、熾蓮の隣に着地すると、刀を構え直した。
(やっぱり俺ら2人やと厳しいか……)
悔しがるように熾蓮は歯を食いしばる。
その時、廊下の窓ガラスが割れた。何事かと思い、そっちへ目を向けると、白の着物に紺の羽織と袴を纏った青髪ポニーテールの青年が窓から侵入し、廊下へ滑り込むようにして着地する。
手には刀が握られており、腰を低くした体勢で眼前の祟魔を捉えていた。
(あれは大神学園の制服……)
熾蓮は目を見開きながら、ポニーテールの青年を見る。
「多田っ!」
「あいよっ!」
ポニーテールの青年がそう叫ぶと、続いて同じく制服姿の茶髪ショートの青年が刀を振り上げた状態で中に入ってくる。
多田と呼ばれた青年とポニーテールの青年は同時に祟魔に向けて斬撃を飛ばす。突如として現れた2人の攻撃を受けた祟魔は成すすべもなく、黒い靄となって消滅した。
「す、凄っ……」
あの強敵が一瞬で祓われたことに驚く熾蓮。
一方、2人の青年は刀を鞘に納めると、割れた窓ガラスに目を向け、やってしまったと言わんばかりに顔を引き攣らせていた。
と、隣からドサッという音が聞こえる。すぐに横を見てみれば、セーラー服姿の秋葉が床に倒れていた。
「秋葉っ!?」
慌てて秋葉の傍に行き、抱き起こす。どこか怪我でもしたのかと焦る。が、すぐに寝息が聞こえ、ただ眠っているようで熾蓮は安堵するのだった。




