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第4章-第14社 作戦会議

「お、織部先生!? 一体いつからいたんですか!?」

 

 何の前触れもなく現れた織部に薫が声を上げる。そうやなぁ……と織部が少し考えこむように呟き、口を開く。

 

「秋葉が川に引きずり込まれた辺りからだ」

 

 織部が発する前に樹がきっぱりと口にした。

 

「って樹、織部先生がおること知っとったん?」

「誰がここの結界貼ったと思ってるんだ? 誰がいつどのタイミングで内部に侵入してきたかなんてすぐ分かる」

 

 熾蓮の問いに、樹は今更かというような視線を向けつつ答える。


 いつかの結界術の授業の時だっただろうか。樹から結界を貼った術者本人であれば、結界内部に出入りした対象やタイミングが分かるようになると教えて貰ったのだ。


 熾蓮はそのことをすっかり忘れていたようで、「この前教えただろ」と呆れながら言う樹に軽く謝った。

 

「でも、分かってたんなら早く言いなよ」

「ずっと気配消してたし、先生にも何か考えがあるんだろうと思って敢えて言わなかったんだよ」

 

 眉を寄せて咎める薫に樹は半ばそっぽを向くようにしてそう告げた。

 

「まぁまぁあんま樹を責めんといてあげてぇな」

 

 織部が困ったような笑みを浮かべながら宥める。そんな織部の様子に耐えかねた秋葉が舌打ちをこぼしつつ、声を荒らげてこう言った。

 

「ったく、どの口が言ってんだよ! 薫たちはともかく、オレが溺れてたにもかかわらず助けに来なかったくせに!」

「すまんすまん。もうちょっとして出てこうへんかったら行こ思てたんやけど、その前に秋葉が出てきたんや」

「おまっそれホントかよ……」

 

 秋葉は織部に疑いの目を向ける。引率とはいえ、教師なら生徒の身に危険が及んだ時点で何かしら行動を起こすだろうに……。

 

 内心で愚痴を垂れていると、織部が唸り出す。

 

「ホンマのこと言うとな。お前らが俺の思てた以上にあれと渡り合えとるから、おもろなって遠くから見とったんよ」

「見てる暇があったらさっさと出てきてくださいよぉ!」


 今度は薫から反感の声が上がる。


 何が面白いだこの野郎……。こっちは命からがら祟魔と対峙してるってのに。来てたんなら早く加勢してほしいというものだ。

 

 各々の中で織部に対する不満が徐々に募っていっている間にも、祟気の含まれた川に浸かっていた祟魔の髪が再生していく。

 

「さて、ここからはちょっと話長なるさかい。敵さんには大人しゅうしてもらおか。熾蓮、結界解いてええで」

「分かりました」

 

 織部に促され、熾蓮は両手を鳴らして結界を解除する。


 と、防御が剥がれたのを察知したのか再生した髪が伸び、まっすぐこちらへと距離をつめてくる。

 

 織部は慣れた手つきで印を組み、少女の周囲に結界を構築した。


 直後、そこまで差し迫っていた祟魔の攻撃が透明な壁によって防がれる。


「す、凄い……」

 

 結界の精度の高さに樹は思わず目を見張る。


 封じられて怒り狂った祟魔が間髪入れずに髪束で撃って仕掛けるが、ヒビが入るどころか傷1つついていない。この様子ならしばらくは持つだろう。

 

「それで、取り憑かれてるってどういうことですか?」

「ほれ、試しによう視てみぃ」


 織部へと向き直った熾蓮が問いかけると、織部は閉じ込められて絶賛お怒り中の祟魔へと目を向けた。その場にいた4人は揃って霊眼を起動させて少女を視る。

 

「確かに……別の気配というか何かが混じってるね」

 

 薫が目を凝らしながら呟く。


 暴風の如く髪を操作して結界を突き破ろうとしている祟魔には、少女の気配に紛れて薄っすらと禍々しい気配が感じられた。


 近くに寄らないと、こうしてじっくり凝視しないと分からないぐらいにはだ。秋葉が感じた背筋の凍るような気配はこれが原因だったようだ。

 

「せやけど、なんでこんなことに?」

 

 霊眼を解除した熾蓮は、織部の方を向いて尋ねる。

 

「そこはお前らが1番分かっとるはずや。もっとも、もう秋葉は気づいとるようやけどな」

 

 織部は腕を組みながら、秋葉へと視線を移す。秋葉は首を縦に振り、みんなを見た。

 

「オレが考えるに、行方不明者の出る4月上旬より前に少女へ取り憑いてる何かが接触した。んで、この嵐山での騒動は全部ソイツの仕業だと思う。まぁ取り憑いてるやつの正体までは分からねぇがな」

 

 まず力のない拙級祟魔では、この1か月で十何人もの人を連れ去って衰弱死させることはできない。優しい心を持つと言われている少女なら尚更だ。だったら原因は別にある。


 拙級祟魔から放たれる祟気が集まって凶暴化したという見方もできるが、拙級祟魔の放つ祟気は微々たるもの。集まったところで強力なものにはならない。


 それでは何故あんな強力な気配を感じたのか。話は簡単で、より上の祟魔が絡んでいると考えられる。

 

「つまり取り憑いてるやつを祓えばいいってこと?」

「そうや」

 

 薫の疑問に織部は頷く。

 

「せやけど、取り憑いてるもんを祓う方法なんてまだ習ってへんで?」

「織部先生は知ってますか?」

 

 熾蓮が言うのを耳にした樹は織部の方を振り向いた。

 

「勿論知っとるで。前にもこういうことがあったからな」

 

 意気揚々と話し出したかと思うと、織部の声がワントーン落ちる。


 彼は一瞬、どこか懐かしむような憐れむような表情を浮かべるが、切り替えるように至って真剣な口調でこう続けた。

 

「祓い方説明する前に正式に天界から神社省を経由して等級の訂正が入った。あの祟魔は烈級なんて生易しいもんとちゃう」


 珍しく声色が硬くなる織部に、一同、緊張が走る。

 

「――惨級祟魔に近い準惨級祟魔や」

 

 準惨級祟魔。それは全15等級ある祟魔階級のうち、下から5番目に位置する。


 下から5番目と言っても、烈級と準惨級の間には高い壁がある。通常、秋葉たち巫級(ふきゅう)代報者が対処できるのは烈級までだ。

 

「惨級祟魔に近いって……ほぼ2ランクアップしてるようなもんじゃねぇか」

「まぁそういうことになるな」

 

 秋葉の呟きに織部が返す。

 

 到底、今の秋葉たちが対処できる相手ではない。だが、今更このまま祓わずに引き下がるという選択肢はないに等しい。


 それは秋葉に限らず他の3人も同じで、みんな意を決したように表情を硬くした。

 

「それで、取り憑いてるやつを祓うにはどうすればいいんです?」

 

 腰にある刀へ手を伸ばして眉を寄せた薫が訊く。

 

「祓う方法は簡単や」

 

 そう言って、織部は懐から一枚の白い札を取り出して秋葉たちに見せた。札には崩し字で祓札(はらえふだ)と書かれている。

 

「この祓札(はらえふだ)を貼り付けた武器を用いて祟核(すいかく)へ祓力を流し込めば、依代(よりしろ)になっとる少女を傷つけずに取り憑いたものを祓える」

「え、何それ凄い」

 

 織部の説明に、薫はさっきまでの張りつめた様子はどこへやら気の抜けたようにポロッと漏らす。


 人を傷つけずに祓う札が存在するとは思わなかったようで、秋葉もそんなものがあるのかと目を丸くする。

 

「他にも祓札が無い場合は祓詞(はらえことば)を唱えたり、時間も無い時には略祓詞(りゃくはらえことば)を唱える。今回は1枚だけやけど祓札があるし、それ使おか」

 

 祓詞というのは、神社での加持祈禱(かじきとう)や神事の際、神様をお迎えするにあたってその場を清めるために神職が唱える祝詞(のりと)であり、神職であれば誰もが知っている。

 

「誰がやる?」

 

 熾蓮が3人へ問いかける。と、それを傍から見ていた織部が口を挟む。

 

「そこは班長の秋葉でええやろ」

「いや、オレかよ⁉」


 織部の投げやりな発言にすかさずツッコむ。

 

「ほら、時間ないで~」

 

 織部は祓札をひらひらさせて、早くしろと急かす。

 

 神主を務めている秋葉の場合、ほぼ数日に一度は必ず唱えているに等しいので、祝詞で1番長く読み上げるだけで4分以上あるとされる大祓詞(おおはらえのことば)でさえも何も見ずに唱えることができる。

 

 また祟核を破壊して浄化するには、大量の祓力が必要になってくる。そうなると、この中で1番経験があるのは秋葉であるし、祓力の保有量も1番多い。

 

 すると、祟魔を囲っている結界にヒビの入る音がした。早くしないとこのままでは破られる。

 

 秋葉は悶々とした様子で唸り声を上げた後、拳を握り締めながら大きく口を開ける。

 

「あ゛ー、もう! わーったよ! やれば良いんだろ! やれば!」

「ほな、頼むわ」


 織部は満面の笑みを浮かべて秋葉へ祓札を渡す。


 受け取った秋葉は、祓札に祓力を通し、そのまま刀身へと貼りつけた。貼られた札は数秒もしないうちに消え、見えなくなる。

 

「他の3人は秋葉の進路を切り開くのに専念せぇ!」

「了解です!」


 秋葉が準備している間、織部に指示された熾蓮、薫、樹の3人は勢いよく返事をする。

 

 これで少女を救う準備は整った。あの少女に取り憑いているモノを祓えば終わる。

 

 全員が武器に手を掛け、織部が両手を叩く。瞬間、祟魔を囲っていた結界が割れ、秋葉たちの反撃が始まった。

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