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第4章-第7社 久しぶりの実家

「あれ? 秋葉、今日は初任務の日じゃ……」

「あ、秋葉……だ、誰この人⁉ こんなイケメン知らないんだけど!」

 

 目の前の美青年が眉を寄せて言った瞬間、薫が唖然とした表情で秋葉を見る。

 

「え? 薫、知らない?」

「知らない知らない! というか、秋葉って一人暮らしじゃなかったっけ!?」


 秋葉が本当に知らないのかと言うように首を傾げる一方で、薫は彼女の肩を揺さぶりながら問い詰める。


 すると、後ろから微かに笑い声が聞こえて来た。見ると熾蓮が腹を抱えて笑っている。

 

「何笑ってんだよ熾蓮」

 

 呆れたように樹が肘で熾蓮の脇腹を突く。

 

「いや、すまんすまん。そいつエルやで」

 

 ひとしきり笑い終えて息を整えた熾蓮は、目の前の美青年を見て話す。


「……はあああっ⁉」

 

 一拍遅れてから樹、薫、織部の口から一斉に驚きの声が上がる。

 

「あのいけすかんマスコットがこいつやと!?」

「嘘だろ……全然見えない」

 

 織部と樹が至極面の良いエルを見て目を丸くする。3人が揃って騒ぎ立てる傍で、秋葉はそういや言ってなかったっけと思い返し、1人納得する。

 

「みんなにこの姿を見せるのは初めてだったかな。どうも~、天御中主神ことエルだよ。後、いけ好かないは余計じゃないかい?」

 

 エルは軽く手を振って挨拶したかと思えば、織部を睨みつけた。

 

(うん、やっぱり神様だからってイケメンにしすぎたのは間違いだったかもしれない)

 

 人型としてのエルの設定を考えた秋葉は密かに悔いる。

 

 しかし、神社の業務を手伝ってもらうにはマスコット姿のままでは到底無理があるし、イケメンにした方が参拝者(主に女性)からの評判も良くなるというものだ。

 

 けど、あまりにも顔面が良すぎると参拝者が即倒しかねないので、これからはエルの纏っている後光(ごこう)は消した方がいいかなどと思案する。

 

 エルの人型騒動が終息したところで、秋葉たちは居間へと移動。ひとまず今日寝泊まりする部屋をどこにするか決めることになった。

 

「空き部屋いっぱいあるから好きなところ使ってもらっていいよ~」

 

 昔は多くの神職がおり、この家で寝泊まりしていたのだが、時代が進むにつれてだんだん数が減ってしまった影響で、使っていない空き部屋がそれなりにある。

 

 一階に客間が2つと空き部屋がいくつかあるので、熾蓮と樹、織部先生はそこ使ってもらい、薫は2階にある今は亡き祖母の部屋を使うことになった。

 

 部屋割りを終えて、みんなが準備してる間に秋葉は社務所の方を見に行く。

 

 外に出ると、肌寒いひんやりとした風が吹く。秋葉は両腕を擦りながら拝殿まで向かい、専用の鍵を使って賽銭箱を開ける。

 

「さ、3000円……」


 どれだけ入っているか中を覗いてみるが、あまり大した金額は入っていなかった。参拝に訪れてくれるだけありがたいのだが、もう少し増えないものだろうか。そう思いながら、中の賽銭を回収する。

 

 続いて社務所に足を踏み入れた秋葉は、順番に木製の戸棚の中をチェックしに回る。

 

「お札とおみくじの在庫が少なくなってきてる以外、後は問題ないかな……」

 

 明日学園へ帰るまでに作れるだけ作っておこう。


 秋葉は引き出しを閉めて、素早く作れるようにと端に置いてあった段ボールから木製の札が入った袋とおみくじ用の和紙を取り出して作業用の机に置いておく。

 

 まだすることはあっただろうかと伸びをしながら周囲を見回していると、視界の端に事務用のパソコンが映った。

 

(ホームページの確認は……後でいいか)


 見切りをつけた秋葉は、手早く夕飯を作ろうと家へと続く廊下を歩く。

 

 無駄に広い厨房に着いた秋葉は、紺の羽織を脱いでその辺のテーブルに置いた。


 そして武器などを収納できる『蔵』の中からたすきを取り出して、慣れた手つきでたすき掛けをしていく。

 

 調理道具を一式出して、メニューをどうしようかと模索する。

 

 山の中というのも相まって夜はまだどうしても冷えるし、人数もそれなりにいるので、一気に作れる肉じゃがにしようと冷蔵庫からじゃがいも、玉ねぎ、にんじんなど使うものを出していく。

 

「秋葉ー、わたしもなんか手伝おうか?」


 厨房の入口にかかった暖簾から薫が顔を出した。一足先に準備を終えたのだろう。手伝ってくれるなら早く済みそうだと秋葉は薫へと向き直り話し出す。

 

「ありがと。なら、野菜切るの手伝ってくれる?」

「よし、任せて」


 薫に後を任せて、秋葉は他の準備に取り掛かる。お米は既にエルが焚いてくれていたようなので、ありがたくそれを使わせてもらうとして、鍋の準備をしておくことに。

 

 鍋に水と出汁を入れて火にかける。沸くのを待っている間に冷蔵庫から豆腐、わかめを取り出して、まな板と包丁をもうワンセットを出す。

 

 そこでふと薫の手元が目に入った。

 

(おっと……? これはまずいかも)


 薫の包丁さばきは文句なしなのだが、切られた野菜がやけに大きい。まるで鍋でもするかのように大雑把に切られており、秋葉は呆然とする。

 

「こんなものかな?」


 包丁を置いた薫は、笑みを浮かべながら尋ねてくる。


「あー……そうだね。じゃあ、先にお皿運んどいてもらえないかな?」

「おっけー」


 善意でやってくれたものに対して指摘するわけにもいかず、秋葉はそれとなく別の役割を薫に任せる。

 

 そういえば、樹に結界術を習ったときも薫はだいぶ苦戦していた。案外細かい作業は苦手なのかもしれないと秋葉は薫の切った野菜を再度火が通りやすいように細かく切っていく。

 

 そうして準備すること30分。些細なアクシデントはありながらも無事に調理が完了し、夕飯の並べられた長い木目のローテーブルを前に全員が座布団へと座る。

 

 今日はせっかくだからと少し気合を入れて肉じゃがに白米、ほうれん草のおひたしに味噌汁と言った和風な献立にしてみた。

 

 各々箸を取って食べ始めていく。周りの様子を何気なく横目で見ながら、果たしてみんなの口に合うだろうかと内心そわそわする秋葉。

 

「お、美味いな」

「疲れた身体に沁みるわ~」

 

 味噌汁を口にした樹と織部が呟く。何度か秋葉の料理を口にしている熾蓮も変わりなく美味しそうに食べ進めている。

 

 一方、薫はと言うと特に気にすることなく満足そうに肉じゃがを頬張っていた。

 

 その様子に安堵すると同時に秋葉はみんなから見えないように小さくガッツポーズを決める。

 

「うん。流石、ボクに仕えてるだけはあるね」

「あんたはほとんど何もやってないでしょうがっ」

 

 ほうれん草を箸で掴みながら話すエルに秋葉が呆れ気味にツッコむ。

 

 部屋の準備を終えた樹と熾蓮、織部の3人が手伝っている間、エルはというと1人微笑ましく眺めていたのだ。


 いや、ご飯を炊いてくれていたことには感謝しているが、家の人間なんだからお前も手伝えという気持ちと上から目線な態度に腹が立つ。

 

 そんなこんなで食べ終えた秋葉たち。後片付けはエルに任せて、状況整理をしつつ、これからについて話し合うことになった。

 

「樹、千鳥ヶ淵(ちどりがふち)の様子は?」

「今のところ問題ないぞ」

 

 秋葉が訊くと、札を通して千鳥ヶ淵の様子を視た樹が応える。そうなると、そこに人手を割く必要は現段階ではあまりないだろう。

 

「念の為、二手に分かれて渡月橋の監視に移ろか」

「そうだね。組み分けはどうしようか」

 

 熾蓮の提案に薫が頷く。

 

 いつまた風が吹いて人が攫われるか分からないので、すぐに対処できるようにと時間を分けて監視に当たることとなった。


 チーム分けは先ほどと同じく、秋葉と熾蓮、薫と樹になり、エルと織部は神社で待機だ。1時間毎に交代しようと決まり、第1陣の秋葉と熾蓮はそれぞれ準備を始める。

 

「ほな、行ってくるな」


 ブーツを履いた熾蓮と秋葉は、玄関まで見送りに来た薫と樹の方を振り返る。

 

「2人とも気を付けてね」

「何かあったら念話飛ばしてくれ」

「了解」


 薫と樹にそう言われ、秋葉は返事をする。そうして2人は北桜神社の鳥居を潜って渡月橋へと向かうのだった。

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