第4章-第1社 初任務
4月29日。任務当日。宝和の日でせっかくの祝日だというのに朝から学校に行かなかればならない憂鬱を乗り越え、5限目を迎えた秋葉たち。
今日はいつものように演習場に集合というわけではなく、教室で行うとのこと。全員席に着いたところで、織部はさっそく黒板にスクリーンを映し出す。
「今から君らには班ごとに固まってそれぞれの班に出された依頼の確認をしてもらう。事前情報をちゃんと頭に入れるんも任務の一環やさかいな。ほな、移動してんか」
織部がそう告げると、みんな一斉に移動し始めた。秋葉は手始めに目の前のスクリーン画面を確認する。
(えーっと、私の班は……)
上から順番に見ていく。第壱班、第弐班、第参班と続く中、秋葉は第肆班の文字列に自分の名前があることを確認する。
肆って不吉な数字だな……。
そう思いながら班員を見てみると、熾蓮、薫、樹の名前があった。
一方、悠は詞貴と同じ弐班のようだ。全くの初対面というわけでもなし、彼女のポジティブさとコミュ力ならば、すぐに馴染めるだろう。
(正直、一緒が良かったけど仕方ないか……)
逆にこちらは知り合いしかおらず、全員気心の知れた仲なので、特に問題もなく進むことだろう。
話しやすいように秋葉、熾蓮、薫、樹の4人で机を動かしつつ、引率担当の先生を待っていると、どこからか視線を感じる。ふと顔を上げて周囲を見回してみると、悠が羨まし気に秋葉の方をじっと見ていた。
前言撤回。やはり悠でも普段から仲のいい秋葉たちと一緒が良かったらしい。
ドンマイ、悠……。
内心で同情していると、樹も合流。班員が全員揃ったところで、織部が人数分の資料を手にやってきた。
「これで全員やな。今回、俺が肆班の引率することになったし、よろしゅう」
「「「よろしくお願いします」」」
席に着いた秋葉たちは、織部から資料を受け取る。表紙には1年生肆班任務内容とタイトルがあった。どうやらここに今回の依頼内容が書かれているらしい。
「ところで、白澪は?」
樹が織部先生に尋ねた。秋葉、熾蓮、薫の3人はつられて教室内を見回すが、確かに白澪の姿が見当たらない。どこにいったのだろうと思っていると、織部が話し出す。
「今回、白澪と隣のクラスの香月は救護要員としてなんかあった時のために、学園で待機してもらうことになっとるんや」
白澪と香月はそれぞれ治癒の祓式を持っている。2人が学園で待機してくれるとあればかなり心強いし、何かあっても大丈夫だろう。
みんな納得したところで、それぞれ資料に目を通し始める。秋葉も資料の表紙をめくって中身を確認していく。
事前の情報によると、初回任務で祓う祟魔の階級は、秋葉たち巫級代報者が対処できる拙級、荒級、準烈級、烈級までだそうだ。
肆班の場合、移動時間を省いた任務開始時刻は15時から、任務先は――
「――嵯峨嵐山!?」
「なんや、俺らの地元やん」
任務先の文字を見た秋葉と熾蓮は真っ先に反応する。
京都市内のどこかだろうとは思っていたが、まさか地元になるとは……。
驚く一方で、嵯峨嵐山に烈級相当の祟魔などいただろうかと頭を捻る。
「嵐山かぁ。だったら任務ついでに観光したいね」
「お、良いな」
薫がポロッと溢すと、隣で話を聞いていた樹が頷く。
「まずは任務優先だが、空き時間に回るぐらいなら良いだろう。2人とも、その時は道案内よろしく頼むぞ」
「おん、任せとき!」
「はーい」
樹に言われ、熾蓮と秋葉は笑顔で返事をする。
何気に友達と観光目的で嵐山を回るのは初めてだ。どこを案内しようか、地元のおすすめスポットを思い返していると、傍から様子を見ていた織部が口を開く。
「ほな、前振りはこんぐらいにして、班長から決めてこか」
織部の話を聞いた秋葉は視線を下ろして考える。
(班長か……。まぁ、まず私ではないよね)
人を纏め上げるなど到底自分にできるわけがない。
そう思い、真っ先に自分を除外したところで、残りの3人のうち誰が班長に向いているか思案する。と、同じく考え込んでいた樹が顔を上げた。
「俺は中学の修学旅行の時に1回行ったぐらいで、そこまで嵐山には詳しくないからな」
「わたしも奈良県民だから、ここはやっぱり地の利のある秋葉か熾蓮じゃない?」
樹に続いて、薫が口にした。
まぁ普通に考えたらそうなるだろうなと思いつつ、どう決めようかと熾蓮と顔を見合わせる。
「やったらここは公平にじゃんけんにしよか」
「だったらじゃんけんで勝った方が班長ってことで」
じゃんけんと言われ、一瞬ヒヤッとする。
秋葉はじゃんけんがこれでもかというほど弱い。
中学の頃、授業が始まっても一向に先生がやってこないので、誰が呼びに行くかクラスの生徒全員とじゃんけんしたことがある。秋葉はもちろん全敗し、職員室まで先生を呼びに行く羽目になったのだ。
となると、絶対に負けるのであれば、勝った人が班長と言うことにすれば、秋葉はほぼ確実にその任から逃れられる。
「最初はグー、じゃんけん――」
薫の掛け声に合わせて、互いに利き手を出してじゃんけんする。何度かあいこを挟んだ後、秋葉はグーを、一方の熾蓮はチョキを出した。
「あ、あれ?」
「お、負けた」
まさかの結果に秋葉が目を見開いて戸惑うのに対し、熾蓮は自分の手を見て呟く。
(いや、なんで私!?)
じゃんけん最弱の自分が勝ってしまったことに驚きを隠せない。いつもは絶対負けるというのに、どうしてこういうときだけ勝ってしまうのだろう。自分の運のなさに泣きたくなってくる。
「えぇ……絶対班長とか向いてないんだけど……」
秋葉はそう言いつつ、机に頭を乗せて項垂れる。
「大丈夫やって、なんかあったら手貸すさかい」
「そうだよ。だから気楽にいこう」
「引率の織部先生もいることだしな」
そう励まされ、みんなが優しいのか鬼畜なのか分からなくなってきた。
だが、そうは言っても今更変えることもできないので、秋葉は諦めて了承することに。それぞれ自分の資料の班長の欄に秋葉の名前を記入していく。
「班長決まったところで、次は依頼の確認やな」
「依頼主は思金神……。確か、学園長の神社の御祭神で知恵の神様でしたよね?」
聞いたことのある名前に秋葉は、記憶を辿りながら答える。
「そうや。今回みたいに神社省から出される依頼は全部その神さんを通しとるんよ」
「あ、そうなんですね」
神社省とは全国の神社を管理する省庁のことだ。大抵の場合、天界からの依頼はそこを通して代報者の元にやってくる。
思金神が一括で神社省から発行される依頼を管理しているとなったら、休んでいる暇などないのかもしれない。
神様であっても人と同じように業務に追われているのを想像し、天界にいるであろう思金神をあわれむ。
「資料によると、4月上旬から嵯峨嵐山で行方不明者が続出してるみたいだね」
「あぁ。それと同時期に千鳥ヶ淵付近で髪の長い祟魔が目撃されとるようやから、そいつが原因ちゃうかって天界は睨んどるようやな」
薫と熾蓮は依頼内容に目を通しながら話す。
髪の長い祟魔と聞いて、一瞬、某ホラー映画に出てくる幽霊が頭の中をよぎる。が、流石にそんなことはないだろう。
依頼に出てきた千鳥ヶ淵というのは、嵐山の渡月橋の下を流れる大堰川の中でも一番深いとされる場所だ。
秋葉自身、行ったことはないが辺りは木に囲まれて鬱蒼としているため、まずあまり人が近づくような場所ではない。
祟魔は人気のないところを好むと代報者課程の授業で習ったので、恐らくそこに潜んでいると見て良いだろう。
「となると、これ以上行方不明者の数が増えて凶暴になる前に、行方不明者の捜索及び原因と見られる千鳥ヶ淵に潜む髪の長い祟魔を祓う。これが今回の任務における目標ってところか」
「そうだね。階級は見たところ烈だから私たちでも対処できるし」
その髪の長い祟魔が肆班の任務における烈級祟魔となる。
巫級代報者試験の最後に祓った蜘蛛型祟魔で準烈級となると、烈級はそのもう1つ上の等級だ。4人と引率の織部がいれば十分祓えるだろう。
ちなみに、報酬はそのときの任務達成度に応じて支払われる。
退学回避はもちろんだが、今回でどれだけ稼げるかによって、今後の任務を受ける頻度も変わってくるだろう。絶賛、資金難に陥っている北桜神社の宮司としては、何としてでも成功させたいところだ。
「依頼内容の確認も終わったし、さっそく行く準備しよか」
「「「はい!」」」
織部に声をかけられ、秋葉たちは返事をする。訓練や試験の影響で、かれこれ1か月は帰っていない。久々の地元に胸を躍らせつつ、秋葉は教室を後にするのだった。
皆さまお久しぶりです! そしてあけましておめでとうございます!
大変長らくお待たせいたしました。「天界の代報者」改め、「命狙われ系オタク神職は、創作キャラをその身に宿して怪異を祓い、いずれ最強になる!」、第4章が開幕となりました!
これから第4章終了まではカクヨムと並行して毎日連載をしていきますので、よろしくお願いいたします。
引き続き面白そうだなと思ったら、ブックマーク・評価をよろしくお願いいたします。




