第3章-幕間 決行前夜(緋霊side)
「全く、面倒ごとを起こしよって……」
赤髪の男はコンビニから出ると、ズボンのポケットに手を突っ込みながら歩道を進む。少しすると、その横を赤いサイレンを鳴らしたパトカーが通り過ぎた。大方、先ほどのコンビニに向かったのだろう。
男は気に留めることなく、薄暗い路地へと入る。細い路地に人の気配はなく、野良犬が1匹、男に向かって吠えているだけだった。
男はそのまま路地を歩くと、突き当たりの壁の前で立ち止まり、ポケットに突っ込んでいた手を壁にそっと当てる。
『開』
そう唱えた瞬間、壁に扉が現れる。男は躊躇することなく、扉を開けて中へと消えていった。
◇◆◇◆
白陵伏魔殿の廊下に姿を現した赤髪の男――緋霊は現代服から和装に犬耳、尻尾へ姿を変え、狗ノ間へと向かう。
狗ノ間の扉が開かれ、奥へ進む。既に翠霊と蒼霊が到着しており、王座の両脇に控えていた。緋霊は王座の前まで行くと、真っ先に翠霊を睨みつける。
「さっきの強盗、あれは姉様の仕業じゃな? 何故邪魔をした? あれはわしの獲物じゃ」
「お主が早う手を下さぬから動いたまでよ。鈍いのが悪い」
「何じゃと!?」
手に持った扇子で口元を隠しながら挑発する翠霊に、緋霊はまんまと乗せられ、反発する。翠霊は目を僅かに細めながら、こう言った。
「逆に聞くが、何故あの場で手を下さなかった? お主であればできたであろう?」
「天啓で出された決行日は明日。今日は様子見で留めよう思とったんじゃ」
「せっかくの機会を逃すとは……やはりお主は甘いな」
緋霊の言い分に翠霊は呆れた表情で話す。
「やとしても、横取りするんは話が違うじゃろ!」
額に青筋を立てながら反論する緋霊。
前回、天啓を告げられた際に、緋霊以外の者は手出だしをするなと狗無は言っていた。それを考えれば、緋霊の言っていることは決して間違いではない。
「やっと来たかと思えばまた口喧嘩とは……。申し訳ありません狗無様」
緋霊と翠霊の言い争う声が狗ノ間に響き渡る中、様子を見ていた蒼霊は玉座に座る狗無へ頭を下げる。
「良い。思えば緋霊と翠霊は昔からこうであったな」
狗無は下にいる2人を見下ろしながらそう呟く。
「だが、今回に関しては言いつけを破った翠霊に非がある。そう焦らんでもお前にも機会を与えてやる故、それまで待つが良い。……最も、緋霊があの小娘を殺せなければの話だがな」
頬杖をつきながら冷徹な目で話す狗無。
「……承知した」
上からの命令は幾ら翠霊でも逆らえない。彼女はそっぽを向くように渋々了承した。緋霊はほれ見ろと言わんばかりの目で翠霊を見る。
と、狗無が緋霊へと視線を移す。
「緋霊よ、準備は整っておるな?」
「勿論にございます。必ずやこの緋霊があの娘の命を奪ってみせましょう」
緋霊は軽く頭を下げながら言った。
「期待しておるぞ」
「はっ」
返事をした緋霊は踵を返して扉まで向かう。
(けんどまぁ、あの娘もなかなか度胸のあるやつじゃ。立場が違えば、仲良うできたんかもしれんのう)
そうは思っていても、狗無の命令ならば殺すしかない。祟魔にとって上の命令は絶対。遂行しなければ間違いなく物理的に首が飛ぶ。
緋霊は扉から出て早々、伏魔殿から姿を消すのだった。
これにて第3章完結となります!ここまで読んでいただきありがとうございました。
初任務編となる第4章は12月に連載開始予定ですので、ここまで読んで面白かったという人は是非ともブックマークをよろしくお願いします。




