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第3章-第19社 居残り練習

 巫級代報者試験まで残り5日。夜になり、演習場へ自主練に訪れた秋葉、悠、熾蓮の3人は受付でそれぞれ利用する施設と名前を記入する。


「これでよしっと」

 

 自分の名前を記入した秋葉は、ペンを置き、既に記入し終えた熾蓮と悠の方を向く。

 

「ほな、行こっか」

「だね! 今日こそは祟魔3体を1分以内に倒しきるぞ~」

 

 拳を握りしめ、意気込む悠を見て秋葉は微笑む。受付を抜けて祓式調整ルームに向かって歩く。


 現在時刻は夜の7時。流石にこの時間帯に利用している人は少ないようで、演習場内はガラガラだった。


 終了時間は23時。4時間の間でどれだけ伸ばせるだろうかと思案していると、悠が祓式調整ルームの扉を開けた。

 

 悠、秋葉、熾蓮の順番で入るも、中には誰もいないようだ。

 

「さて、誰からやる?」

 

 悠はその場で振り返って秋葉と熾蓮へ尋ねる。


 部屋は全部で4つあるが、今貸し切っているのは1部屋のみ。誰が先に入るか、正直秋葉はどの順番でも良いので、熾蓮の意見を聞いてみることに。

 

「俺は最後でええわ」

 

 秋葉の問いに、熾蓮がそう答える。

 

「へぇ、珍しいね。いつもなら1番を買って出るのに」

「たまには譲らなな。ちゅうわけで先どうぞ」

 

 悠が意外そうな表情で訊けば、熾蓮は2人に向かって手のひらを向ける。


 と、頷いた悠がこちらを見た。

 

「なら、じゃんけんで決めよう。勝った方が先ね!」

「おっけー」


 悠と秋葉は互いに利き手を差し出して、じゃんけんをする。あいこが何度か続くも、秋葉にじゃんけん運がないおかげか結果は悠の勝ち。


 勝利を勝ち取った悠はパネルに向かって歩き出し、環境を設定して実戦室の中へ入った。

 

 秋葉は起動ボタンを押すためにパネルの傍まで向かう。


「準備はいい?」

「大丈夫だよ~」


 マイクのスイッチをオンにして呼びかければ、中から返事が来た。

 

「なら始めるね」


 秋葉が起動ボタンを押したら、部屋の中が細長い廊下へと変わった。と、4人分の幅しかないであろう廊下へ3体の人型祟魔が現れる。パネルによると、等級は(こう)だ。


 1分間のタイマーが起動した瞬間、祓力を全身に纏った悠は苦無(くない)を手に祟魔へと駆け出す。3体の祟魔がパイプを構える中、悠は真ん中の1体に狙いを定めて、カッター状の葉を放つ。


 悠は視界を奪われ、身を引き裂かれた祟魔へ接近し、苦無で首筋を切って仕留める。そのまま滑るように着地した悠が右足を地面に叩きつけた刹那、地面から2本のツタが生える。

 

「行けっ!」

 

 ツタはまっすぐ飛んでいき、残る2体が拘束された。敵を捕らえた悠は指の間に挟んだ苦無を一斉に放つ。


 まっすぐ飛んでいった6本の苦無はそれぞれ祟魔に命中。1体が消滅するが、もう1体は狙いが外れたおかげで、耐え抜いたようだ。


 残り20秒。直後、悠の拘束を祟魔が破り、彼女に向かってパイプを振り上げた。咄嗟に悠が手に持った苦無で弾き返し、金属音が鳴り響く。


「はぁっ!」

 

 次の瞬間、悠は空いた懐へ蹴りを入れ、祟魔が遠くへ吹き飛ばされる。その隙に悠は二射、三射と投擲。弾く間もなく苦無を受けた祟魔は突き当たりの壁に激突し、消滅していった。

 

 部屋が細長い廊下から何もない真っ白な空間に戻る。

 

 手元のパネルに内蔵されたタイマーを見ると、残り10秒を切っていた。戦闘を終えた悠は部屋から出て、秋葉と熾蓮の元へ歩く。


「2人とも、見ててどうだった?」

 

 悠に問われ、秋葉は頭の中で先ほどの戦闘を思い返す。


 祟魔をただ祓う分には問題はなかった。だが、懸念点があるとすればやはり拘束が破られたところだろう。

 

「2体目倒すまでは良かった。1つ言うとすれば、ツタの強度が足りてなくて逃げられたところかな。あれさえなければ、かなり秒数は縮んでたと思う」

「やっぱりそうだよね……」

 

 秋葉がそう言えば、悠は困ったように眉を下げる。どうやら彼女自身も自覚しているようだ。と、今度は熾蓮へ目を向けた。

 

「熾蓮はどう?」

「最後らへん、苦無の精度が雑になっとったから、もう少し正確に撃てたら、そんな弾数放たんでも処理できるとちゃうか?」

「お、了解!」


 苦無の扱いについてあまり自覚していなかったのか、悠は軽く目を見開きながら返す。

 

 悠の模擬戦が一通り終わったところで、次は秋葉の番だ。


 秋葉はパネルへ向かい、設定を始める。フィールドは市街地を選択、数と等級は悠と同じく荒級祟魔3体。時間も同様に1分だ。

 

 設定を終えた秋葉は扉を開けて中へ入り、位置に着く。続けて『紅桜』に憑依した秋葉は、刀を『蔵』から出して腰に差す。

 

「始めるよ~」

「はーい」

 

 準備が整ったところで悠からマイク越しに声がかかり、悠へ視線を向けながら返事をする。


 前へ向き直れば、空間が変化し、真っ白な空間からアスファルトが敷かれ、ビルが立ち並ぶ市街地へと変貌した。

 

 と、数十メートル先に、手に棍棒を持った人型の祟魔が3体出現。


 開始のブザーがなると同時に秋葉は鞘に手を掛け、足に祓力を纏い、一気に距離を詰める。間合いに入った瞬間、抜刀した流れで横一線に斬撃を飛ばし、固まっていた3体を吹き飛ばす。


 顔を上げ、すぐさま地面を蹴って、正面に吹き飛ばされた1体の祟魔を追撃。祟魔を構成する核となる祟核(すいかく)目掛けて刀をビルの壁ごと突き刺した。直後、祟核が砕け、祟魔が消滅。


 刹那、後ろに気配を感じ、コンクリートの壁から刀を引き抜く。身を翻して振り向けば、2体の祟魔が跳躍し、棍棒を振りかざしてきた。秋葉は刀で2本の棍棒を受け止める。


「っらああ!」


 上から押される中、踏ん張って弾き返す秋葉。直後、宙に浮いた祟魔へ向けて手のひらから桜の花弁を放射。ダメージは入ったものの、仕留めるには至らず、2体の祟魔は地面に転がり落ちた。


 秋葉は逃すまいと、うち1体が立ち上がる寸前で、胴を一刺し。2体目の祟魔が消滅する。

 

「ふぅ……」

 

 残すは1体。時間は30秒。それだけあればあいつを祓える。刀を構え直し、突進。同じく向かってきた祟魔と刃が衝突。風が巻き起こる。その後、数合打ち合い、拮抗する。


「ぐっ……!」

 

 と、不意を突く形で祟魔の蹴りが腹部へ入り、後ろへ飛ばされた。秋葉は宙で体勢を立て直し、着地。


 迫ってくる祟魔を迎え撃つべく、刀を振り上げる。防ぐ間もなく胴を斬られた祟魔は仰け反る形で宙へ浮いた。


「とった!」


 空いた胴へ刀を振り上げ、祟核を破壊。地面に倒れた祟魔は黒い靄となって消滅した。秋葉は上に設置されている時計を見上げる。

 

「おぉ、ギリギリだな」

 

 タイマーは残り3秒。後、もう少し遅ければ、強制終了するところだ。ヒヤヒヤしながら秋葉は刀を鞘に納め、憑依を解く。


 部屋から出れば、熾蓮が声をかけてきた。

 

「模擬戦、お疲れさんやったな」

「どーも。やっぱり私も強度が足りてないな……」

 

 だが、花弁操作だけに注力していたら、紅葉操作が疎かになる。


 憑依時間はそれなりに長くなったが、それでもまだ任務で長時間使用するには足りていない。この5日でどう変われるかが勝負となってくるだろう。


「そういや、例の呪物の一件以降、なんか変わったこととかないか?」

「いや、特には。まず訓練に忙しすぎて、そもそも学校からあんまり出てないからさ」

 

 熾蓮から投げかけられた秋葉は苦笑交じりに答える。


 ここ3週間ほど、授業内外での訓練で疲労困憊になっており、外へ遊びに行くどころか、神社に帰る暇もないのだ。


 加えて、学園全体に結界が貼ってあるのだから、周囲に祟魔らしき気配がないのは当然だろう。


 というか、熾蓮に言われなければ、そもそも自分が命を狙われていたことすら忘れかけていたところだから、全くもって平和そのものである。

 

「にしても、急だね。なんかあった?」

 

 悠が首を傾げながら熾蓮に問う。

 

「あぁ、実はここ最近――」


 熾蓮がそう口にしたかと思えば、喋るのを中断。瞬時に開放された入り口へ目を向けた。

 

「――誰や。そこにおるんやろ」


 秋葉を庇うようにして前へ出つつ、入り口の方を睨む熾蓮。

 

「え、ちょっ、急にどうしたの?」

「誰かいるってそんな、ここは学校だよ? 生徒ぐらいいるに決まってるじゃん」

 

 突然のことに驚きながら秋葉と悠は、熾蓮へ問いかける。

 

「生徒は生徒でもや。はよ出てこんかい!」

 

 熾蓮は発破をかけると同時に、見えないよう背中へ隠した手に苦無を忍ばせた。何が起こっているのか状況が掴めないまま、秋葉と悠は扉の方をじっと見つめる。


 すると、扉の影から茶色のロングヘアに蒼い瞳の女子生徒がゆっくりと出てきた。髪の横には黒いリボンがつけられている。

 

「気配を消していたというのに認知されるとは、流石は御守の人間ね」


 女子生徒は熾蓮へ視線を向けると、口元を緩め、笑みを浮かべるのだった。

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