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第3章-第14社 強者同士の戦い

 海希(みき)と薫の剣術試合の準備が整ったところで、織部からルールが説明される。

 

「ルールは単純。真剣を用いての戦闘で、3分の間に相手の急所を先に狙ったもんが勝ちや。中学までの大会は祓式の使用禁止やったやろうけど、今回は祓式の使用も許可する」


 織部が簡潔に言うと、海希と薫はそれぞれ頷いてから位置へ着くために移動する。それを見届けた織部は白澪へと視線を移した。

 

「白澪には悪いけど、2人の治療任せることになる。頼んだで」

「はぁ、分かりました」


 剣術試合をするので、治療のために来てほしいと薙刀の稽古場からこっちへ来るよう招集を受けた白澪は、渋々了承する。


 審判役の織部も同じく位置に着いたところで、海希と薫は腰に刀を差した状態で向かい合った。


「生憎と手加減できそうにないんで、そこのところよろしくお願いしますね」

「あぁ、勿論や」

 

 薫が告げると、海希は口元を緩めてニヤリと笑う。道場全体に緊張が走る中、両者は一礼。

 

「始めっ!」

 

 織部の号令が鳴った途端、一斉にその場から踏み出した。薫が脚に雷を纏い、柄に手を掛けた状態で突進。


 その余波で道場の床にヒビが入る中、海希も同様に薫へ接近。互いに祓力の纏われた刀身が交じり合い、周囲に祓力の突風が吹き荒れる。


「うわっ、凄っ!」

「もはや目で追うのも厳しいな……」


 高速で繰り出される剣戟に、離れたところで観戦していた秋葉と樹は圧倒される。一撃一撃がぶつかり合うごとに道場の壁や床にもダメージが入っていく。


 と、海希の周囲に霧状の刃が現れた。

 

(あれって……)

 

 クリスマスイブの時に降って来た霧と同じだ。


 そう感じていると、海希が刀を横一線に振るった。同時に、薫に向かって刃が放たれる。


 薫はダッシュで避けながら、雷を纏った刀身で粉砕。彼女が刀を縦に振った途端、海希に向かって雷撃が飛ばされる。


 海希は身体を横に逸らす最小限の動きで回避。雷撃が道場の壁にぶつかり、破損する。

 

「海希の祓式は霧。対して、薫の祓式は……」

「帯電操作ですね」

 

 多田(おおた)の言葉に続くように熾蓮が反応した。熾蓮は言葉を続ける。

 

「少し前まではあそこまでコントロールできてへんかったけど、いつの間にあんなにできるようになっとったんや……」

「へぇ、そうなのか」

 

 薫のコントロールの速さに目を見開く熾蓮に、感心したような声を上げる多田。その言葉に秋葉も薫へ目を向ける。

 

 薫が十字に雷の斬撃を飛ばすと、刀で打ち消そうとした海希の頬へ僅かに掠った。熾蓮の言う通り、雷撃の乱れが無くなっており、確実に海希を狙いに行っている。

 

 その後も斬撃が飛び交うこと2分。両者、鍔迫り合いで膠着状態に陥った。そんな中、海希は刀を滑らせて離れた直後、薫の顔に向かって左手を振るう。


 と、霧が顔に掛かり、薫が怯んだ。その隙を逃すまいと海希は一気に踏み込んで、接近。薫の首筋に向かって刀を振い、寸止め。


「両者、そこまで!」


 織部の声が道場の中で響く。海希と薫は刀を納め、一礼。結果、この試合の勝者は海希となった。薫は一息つくと、海希の方を真っ直ぐ見つめる。

 

「やっぱ海希先輩には敵いませんね……」

「まぁ、学年差と経験はこっちの方が上やしな。けど、そっちも前に比べたら、格段に技術と経験値が上がっとる。もうちょいしたら追い抜かされそうな気ぃするわ」

「いや、そんな。わたしなんかまだまだですよ」


 笑いながらそう言う海希に、薫は眉を下げて首を横に振る。


 その後、白澪の治療を受けるために2人は道場に備え付けられている救護室へ入っていった。

 

 みんなが試合の感想を口にしている間、先に部屋から出てきた海希に、秋葉は駆け寄る。

 

「あの、海希先輩ちょっと良いですか?」

「ん? なんや?」


 声をかけてきた秋葉に海希はきょとんとしたように顔を向ける。

 

「クリスマスイブの時、嵐山全体に霧がかかってたんですけど、それってもしかして……」

「あー、俺の祓式やな。人払いと索敵兼ねて降らしとったんやけど……それがどうかしたんか?」

「あ、いえ。ちょっと気になっただけです。ありがとうございます」

 

 首を傾げる海希に対して、秋葉はお礼を言って軽く頭を下げる。

 

(エルがあの時、出てこられなかったのはそのせいか……)

 

 秋葉は、助けられた日からずっとあの霧の正体が何なのか気になっていたのだが、海希の祓式だと聞いて納得する。


 霧の中に人払いの術が付与されていたのなら、エルと念話が繋がらず、出てこられなかったりしたことにも頷けよう。

 

 1人納得していると、近くにいた熾蓮が手を挙げた。

 

「俺からも質問ええですか?」

「おん、ええで」

「もし仮に巫級代報者試験とその後の任務に失敗した場合、退学になるんはホンマなんですか?」


 熾蓮の問いに道場全体が一瞬にして静かになる。


(え、ちょっ、熾蓮それは……)


 秋葉もまさかの質問に思わず、ぎょっとした表情で熾蓮を凝視する。だが、質問した本人は真剣なようで、真っ直ぐ海希を見つめていた。

 

「あぁ、せや」


 重苦しい空気の中、海希は首を縦に振ってきっぱりとそう告げる。と、同じく熾蓮の発言を耳にしていた多田が秋葉たちの方へ寄って来た。

 

「俺たちの代でも、試験前の訓練がきつすぎて辞めたやつは勿論、任務中に命を落とした奴もいる。たとえ試験と任務に成功したとしても、後遺症の影響やら精神やられて普通科の方に転科した生徒も少なくない」


 淡々とそう口にする多田に、みんな浮かない顔をしていた。それはそうだ。まだ任務はおろか試験すら合格していないというのに、そのような話を聞かされては不安にもなる。


 だが、断じて嘘を言っているようには見えないので、事実なのだろう。代報者になるということは、技量は勿論、それ相応の覚悟が必要になってくるのだ。

 

「ま、なんかあったとしても、そこにいるしのぶちゃん含めた先生らが何とかするやろうから、安心しい」

 

 海希が明るい声を発しながら、織部の方へ視線を向ける。


 当の織部は深く頷きながら「できる限りのことはするさかい、心配せんでええ」と言い放った。その言葉に強張っていたみんなの表情が和らぐ。


 すると、道場の扉がスパーンと音を立てて開かれた。

 

「おーい、お前らそこで何してんだ! もう任務開始の時間とっくに過ぎてんぞー」

 

 青髪ボブカットに蒼眼の女子生徒が怒鳴りつけるように海希と多田に向かって言った。

 

「うげっ、すっかり忘れてた……」

「ヤバいやってしもた……」

 

 女子生徒の声に、一気に表情が引き攣る多田と海希。

 

「ほな、俺らは行くさかい、試験と任務頑張ってな!」

「くれぐれも死ぬんじゃないぞ! それじゃあ!」

 

 海希と多田はそう言い残すと、揃って織部へ一礼し、ダッシュで道場を出て行く。


 さっきのどんよりとした空気はどこへやら、嵐のように去っていく2人に秋葉たちは呆気に取られるのだった。

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