第3章-第13社 偶然の再会
実弾・真剣稽古を開始してから3日。絶賛、秋葉は薫と真剣を用いて手合わせ中。
「っ……!」
左前方から降りそそぐ剣撃を自身の刀で防いで受け流し、踏み込みを入れて、薫の右腕目掛けて剣を振るう。だが、読まれていたようで、ガード。 そのまま刀身を絡めとられる。
「なっ……!?」
どうこの場を切り抜けようか迷っていると、足をかけられ転倒。すかさず切っ先を首へ向けられ、秋葉の敗北に終わった。
両者、刀を腰に差した鞘へ仕舞って、礼。一通り所作を終えたところで、薫は秋葉の方を見た。
「さっきみたいな小技も戦闘においては重要になってくるから、身に着けておくといいよ」
「そうだね。ありがと」
頷きながら、返事をする秋葉。薫にはまだまだ敵いそうにないな。
そう感じていると、今度は薫と樹の手合わせが始まった。と、道場の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。秋葉は開いた扉の方へ顔を向ける。
「おぉ、やっとるな~!」
「お前、これから任務なの分かってんのか?」
「別にちょっとぐらいええやろ」
関西弁口調の青髪ポニーテールの男子生徒が道場に入って早々、頬を上げた。半ば呆れたように焦げ茶色のショートに黒い瞳の男子生徒が言えば、口を尖らせるようにして関西弁の男子生徒が呟く。
(間違いない、あの2人だ)
そう思いながら秋葉は口を開いてこう言い放った。
「海希さ――じゃなくて、海希先輩と多田先輩じゃないですか!」
「ん? おぉ、秋葉! やっぱ入学しとったか~!」
「久しぶりだな」
秋葉が声を上げると、こちらに気づいたようで大東海希と多田太郎は機嫌よく手を振って来た。秋葉は足早に海希と多田へ駆け寄る。
「お久しぶりです。あの時は助けていただきありがとうございました」
「ええよええよ~。元気そうで何よりや」
頭を下げてお礼を言う秋葉に、海希は笑みを浮かべながら返す。と、薫と樹の試合を見ていた熾蓮も2人に気づいたのかこっちへ寄ってきた。
「どうも。お久しぶりです」
熾蓮は軽く会釈しながら2人に向かって微笑む。
「おぉ、熾蓮も久しぶりやな」
「クリスマス以来だからこうして会うのは4カ月ぶりぐらいか」
多田の言葉にもうそんなに前になるのかと懐かしむ秋葉。去年のクリスマスシーズンは色々と有り過ぎて頭がパンクしそうだなと思っていると、海希が何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。
「前から気になっとったんやけど、熾蓮の苗字って御守やんな?」
「はいそうですけど、それが何か?」
熾蓮は首を傾げてそう言う。熾蓮の苗字がどうかしたのだろうかと、秋葉も眉を顰める。と、海希の隣で話を聞いていた多田は彼の言いたいことを理解したのか納得したような声を上げると、続けてこう口にした。
「再会して早々こんなこと言うのもあれだが、熾蓮。お前、4つ上の姉貴とかいなかったりしないか?」
「姉はおりませんけど、4つ歳の離れた姉御っぽい人なら……。それがどうしたんです?」
やけにピンポイントな質問に熾蓮は勿論、秋葉も頭を捻る。だが、すぐにそれが誰を差しているのか、秋葉には分かった。
(熾蓮の4つ上の姉貴っぽい人って言ったらあの人だよね……)
頭の中で赤メッシュの入った茶色の髪を三つ編みにした女性を思い描いていると、またしても多田が話し出す。
「実は去年、俺らが1年生だった時に同じ苗字の前生徒会長に世話になってな……。よく大暴れしては俺たちを困らしてたんだ」
「え、それもしかして華南師匠じゃ……」
「お、なんや知っとるんか」
大暴れという単語を耳にし、気づいたのか熾蓮が呟けば、海希が反応した。
「はい、小さい頃からよう世話してもろてましたけど、ホンマあの人無茶苦茶ですよね」
「だよな。うん、分かるぞぉ……。俺たちも散々振り回されてきたからな」
困ったように眉を下げながら熾蓮が言うと、多田と海希はこれでもかと首を振って頷く。秋葉も持久力訓練のときの無茶苦茶ぶりを思い出してしみじみとした表情で首を縦に振る。
というより、全然スルーしていたが海希と多田は2年生だったのか。つまり、1年後には2人のように自分も強くなれているのだろうかとだいぶ気の早いことを考える。
と、背後で納刀の音が鳴り、薫と樹による試合終了の挨拶が耳に入った。
「あれ? 多田先輩に海希先輩じゃないですか!」
「お二人もこっちにいらしてたんですね」
薫と樹が順番に声を上げると、熾蓮と話していた多田と海希が振り向く。
「おう、久しぶり」
「なんや樹と薫もこっち来とったんか~! 久しぶりやな~」
手を挙げながら話す多田に、海希は上機嫌に笑みを浮かべて手を振る。すると、試合を終えた薫と樹が秋葉たちの方へ歩いてきた。
「え、知り合いなの?」
秋葉はちょうど隣に来た薫へ問いかける。
「うん。実は中学の頃、別流派との合同稽古で何度か会っててそれで」
「あ、そうなんだ」
薫によれば、剣術にはいくつかの流派があるらしいのだが、代報者になるための剣術道場は少ないそう。海希と多田も別流派ではあるが道場に属していたようで、それ故、顔を合わせる機会も多かったらしい。
「見た感じ、剣の腕は鈍っとらへんようやな」
「まぁ、必然的に授業で振るわされてますからね……」
先ほどの試合をチラ見していたのだろう海希が言うと、樹は苦笑交じりに答えた。
きっと薫の指導の厳しさを思い出したのだろう。幼少の頃から剣を習っていた樹でもへばるぐらいだ。
剣術はおろか、ほんの最近までまともに運動していなかった秋葉にとってはもっときつく、寮に帰ったら必ず10分は死体のようにベッドの上でうつ伏せになっている。
久しぶりの再会に積もる話があるのか、海希や薫たちが話しているのを傍で聞いていると、再び道場の扉が開いた。
「ほぉ~、こらまたおもろいことになっとんな~」
「あ、織部先生」
秋葉は入って来た織部へ声をかける。対する織部は入ってくるなり、こっちまでやって来た。
「おもろいことって何なんです?」
「いや、剣術大会全国1位と2位が揃っとる光景なかなか見いひん思てな」
熾蓮が尋ねれば、織部は興味深そうに海希と薫を指差す。
「えっ!? 海希先輩が1位だったんですか!?」
「あー、そんなときもあったな」
驚愕する秋葉に、海希は興味なさげに目を逸らした。
(マジか……)
薫に勝てるぐらいだ。もっと屈強で大柄な人をイメージしていたが、そうではなく、自分を助けた海希が1位だと知り、秋葉は唖然とする。
だが、クリスマスイブの時に見たあの剣技は並大抵のものではなかった。海希が1位だというのも有り得る話だ。
「せっかくやし、ひと試合やってかへんか?」
「え、良いんですか?」
織部の提案に薫が反応する。
「こんな1位と2位の試合見られる機会なんて滅多にないし、巫級代報者試験受ける上でも勉強になるやろうしな」
確かに織部の言う通りだ。たまには上手い人同士の試合を見て、学ぶことも大事だろう。何より、いつも指導してばかりの薫が本気を出すところはこちらとしても見てみたい。
秋葉と熾蓮はこれから繰り広げられるであろう試合に嬉々とした表情を浮かべる。
「最近まともに強い奴と戦うてへんしな。俺はええで」
「おい、任務はどうした任務は」
快く了承する海希へ多田が呆れ気味に言った。
「10分もあったら終わるし大丈夫やって」
「お前なぁ……」
ニコッと笑顔で話す海希に、多田は溜息を吐く。と、織部が薫へ顔を向ける。
「お前はどうする?」
「勿論、受けさせてもらいます」
やる気に満ち溢れた表情で返す薫。両者の同意が得られたところで、さっそく試合の準備が行われるのだった。




