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序章-第3社 一難去ってまた一難

「いや、なんで鶏がこんなところにいんの!?」

「さぁ~? いつの間にか入って来たんじゃない?」

「んなわけないでしょーが。ちゃんと戸締りしてなかったんなら別だけどさ……」


 宙を浮きながら首を傾げるエルから鶏に視線を戻す秋葉。だが、現に扉の鍵は閉まっていた。一体どこから入って来たのだろうか。


 そもそもの話、今は夜だというのに、家に鶏がいるなんてどう考えてもおかしいだろう。


 そう思っていると、エルが不意に鶏の方へと飛んでいった。

 

「ちょっと? 何しようとしてるのエル」

「いやこの鶏、普通のとは違う雰囲気を感じるから気になって」

 

 鶏に近づき、じっと見つめるエル。


 すると、鶏が発光し、辺りに神々しい光が降り注ぐ。秋葉とエルは眩しさのあまり腕で視界を遮り、目を瞑る。


 と、ポンッと小さな破裂音が聞こえ、鶏が消えた代わりに1箱のダンボールが現れた。

 

「び、びっくりした……って、今度はダンボール?」

「よし、開けてみよう!」

「警戒心のないやつめ……。さっきのこともあったし、爆弾とか入ってたらどうすんのさ?」

「んー、まぁその時はその時で」

「お気楽にも程があるなこのマスコット……」

 

 さっさとダンボールを開けようとするエルに、秋葉は呆れながら呟く。祟魔に襲われたかと思えば、今度は家に鶏がいて、そいつが光ったかと思えばダンボールに変わったのだ。


 警戒するのは当然のはずなのだが、何故エルはこうも躊躇なく、得体の知れないものに近づこうとするのか……。

 

 いつにも増して不審な行動が多いエルを訝しげに見ていると、ダンボールの中身を開封したようで、そこから1枚の分厚い封筒を取り出した。


「危険物じゃないみたいだよ。はいこれ、秋葉宛てだって」

「え、私に?」


 エルから渡された封筒は随分と頑丈に包装されているようで、素手で開けられそうにない。怪我の治療もあるため、ひとまず自室へ戻ることに。

 

 傷口を水で綺麗にしてから2階の奥にある自室へ着いた秋葉は、鞄を床に下ろして机の引き出しから消毒液とガーゼ、包帯を取り出す。


 靴下を脱いで傷口を見てみると、思ったよりぱっくりと皮膚が割れていた。


(よくこんな状態で走れたな自分……)

 

 火事場の馬鹿力というのか何というのか、本気で追いつめられているときには多少の怪我も気にならなくなるようで、自分の凄さに若干引く秋葉。


 簡単な治療を終え、包帯を足に巻き付けたところで、例の封筒の中身を開けてみる。中には1枚の紙と1冊の冊子が入っていた。


 どうやら見た感じ学校案内的なもののようだ。まずは紙の方を開いてみる。


「何々……って、推薦状?」

「なんて書いてあるんだい?」

「えっとね、『北桜秋葉様へ。このたび貴殿には、大神学園(おおみわがくえん)高等専修学校こうとうせんしゅうがっこうへの入学資格が与えられました。入学するかはご自身の意志にお任せします。

 入学を希望される場合は下記の希望届へご記入の上、本学までの送付をお願いいたします。本学の詳細は同封してあるパンフレットをご覧ください。貴殿の入学を心よりお待ちしております。学園長・西園寺美和子(さいおんじみわこ)』だってさ」

「なるほどね……」


 エルは肉球のついた手を顎に当てながら唸り始めた。秋葉は再度推薦状に視線を戻し、文章を読み返す。

 

(急に入学資格が与えられたと言われてもな……。見るからに怪しいんだよね。でも、この学園長の名前、どこかで見たことあるような……)


 記憶を辿ってみるが、直近でそのような名前の人物に出会った覚えはないし、見たこともない。いつ見たのだろうと思いながら推薦状を凝視していると、ある部分に目がいく。


「ねぇ、エル。この大神(おおみわ)学園ってさ、さっき助けてもらった海希さんが口にしてなかった?」

「あー、そういえばそうだったね」

「なら、そこの関係者なのかな……」


 試しに同封されていた冊子の最初の部分を開いてみると、海希と同じ制服を着た生徒が写っていた。


 ということは海希がここの生徒なのはほぼ間違いないだろう。パラパラと見ていけば、大神学園が神道系の学校だということが記載されていた。

 

「エルはさ、大神学園について何か知ってる?」

 

 神の使いとされる神獣のエルなら何かしら知ってるかもしれない。そう思い尋ねてみると、エルは少し間を空けてこう言った。

 

「大神学園といえば、ボクらの間では代報者の育成機関として有名なところだよ。表向きは神道系の学校とされてるけどね」

「代報者の育成機関……かぁ」

 

 確かに北桜家は代々、あやかしたる祟魔を祓う代報者の家系とされており、秋葉の両親はもちろん、祖母に至るまで全員が代報者だ。


 となると、秋葉宛てに大神学園から推薦状が来るもの頷けるし、家業を継ぐという意味では入学するべきなのかもしれない。


 だが、確かに進路には迷っているとはいえ、何の前触れもなく送られてはこっちも心の準備ができていないというもの。


 進路希望用紙の提出は明日。どうするべきか決めかねていると、秋葉のベッドにころんと寝転がったエルが口を開く。


「ボク的には入学しておいた方が良いと思うけどね~」

「えっと……なんで?」

「んー……そうだねぇ」


 ベッドから起き上がったエルは烏の羽を広げて、宙を飛び、何やら考え込む。訝しげに自身の周りを飛ぶエルを見ていると、エルが秋葉の正面でピタッと止まってこう口にした。

 

「よし。もうこの際だから君に言っておこうか」

「え、ど、どしたの急に……」

 

 エルは真っ直ぐその紫眼を秋葉へと向ける。いつにも増して真剣な眼差しに緊張が走る秋葉。


「信じられないかもしれないけど――秋葉、君は祟魔に命を狙われている」

「――はっ?」

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