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第3章-第5社 祓式分析

「はい、お疲れ~」

「お、ありがと」


 時刻は午後18時。一足先に寮へ戻ってパソコンに向かっていた秋葉は、自販機に行っていた悠から缶ジュースを受け取る。受け取った缶の蓋を開けて、一口飲んで机の上に置き、秋葉は再びパソコン画面へ目を向けた。

 

 同じく向かいの自分の椅子に腰かけた悠は、ジュースを口にしながら椅子ごとこっちを向く。

 

「秋葉、何してんの?」

「んー、どうしたら憑依できるかなって思って色々漁ってんの」


 マウスを手に、舞衣の管理するサイトのキャラ一覧をスクロールしながら話す秋葉。

 

「真面目だね~」

「ほら、1人だけ遅れるのとか嫌だからさ」

 

 微笑みながら話す悠へ眉を下げながら口にする。

 

「確かにそれはそうか。まぁ、何かあったらサポートするから言ってね」

「マジ? 助かる~!」


 悠の言葉にパァっと秋葉の顔が明るくなる。1人で祓式の正体へ辿り着くのは難しいと思っていたところなので、悠の申し出には感謝しかない。

 

「んー、なんでエルはできて、白蓮(びゃくれん)はできないんだろ……」

 

 エルの設定画面と白蓮の設定画面を見比べながら、秋葉は唸り声を上げる。エルの場合、憑依というよりはキャラの具現化と言った方が正しいのだろうが、何かしら考える上での糸口にはなるだろう。

 

「何か憑依できるキャラに条件があるとか?」

「あー、ありそう」


 悠の問いに同意する秋葉。エルの設定に関しては、時間もあったしかなりの量を練ることができた。その反面、白蓮はほぼ即興で練ったに等しいので、設定量の違いで憑依できなかった可能性はありそうだ。

 

 数として300体以上はいるであろうキャラ項目をスクロールしていると、悠が缶を持ちながらこっちへ椅子ごと寄って来た。

 

「にしても、結構なキャラ数だね。これ全部秋葉が?」

「あー、そうだね。外へ遊びに行くとかあんまりできなくて、暇だったから、ずっと作ってたんだ。そしたらいつの間にかこんなにできてたって感じ」

 

 キャラ一覧には結奈や舞衣と共同で作ったキャラ設定もいくつか含まれているが、大半は秋葉の作ったものに相違ない。

 

(取り敢えず、憑依しても問題なさそうな設定量のあるキャラをいくつか引っ張ってくるか……)


 スクロールしながら設定量の多いキャラのタブを順番に開いていく。

 

「お、この子可愛いじゃん!」

 

 傍でその様子を眺めていた悠が声を上げる。悠の目線の先には金髪蒼眼のエルフの見た目をした少女のイラストがあった。このイラストは言うまでもなく、結奈に描いてもらったものだ。

 

「あぁ、アリシアってキャラだね。良かったら見る?」

「え、良いの?」

「もちろん」


 秋葉は快く頷くと、悠が見やすいように椅子ごと退く。


 結奈の描いたイラストとキャラ設定の書かれている文へ悠が目を通している間、アリシアがどんなキャラなのか思い出しつつ、軽く解説を入れようと口を開く。


「アリシアは金髪エルフで大森林を守護する狩人なのだけど……」


 秋葉が説明し始めた途端、何故か悠の顔が強張り始める。

 

「どうしたの? 悠」

「あ、秋葉……その姿……」

「――へ?」


 信じられないようなものを見るかのような目で凝視してくる悠へ、秋葉は首を傾げる。


 ふと視線を下に向けると、見慣れない服装に変わっていた。秋葉は慌てて立ち上がり、全身鏡の方へ向かい、自分の姿を見てみる。


 すると、そこには金髪蒼眼にエルフ耳の生えた少女が映っていた。服も部屋着から緑のフード付きの外套(マント)にチュニック、短パンにくるぶしまでのブーツに変わっている。

 

「嘘でしょう!? え、何で!?」

 

 自分の容姿に思わず驚愕の声を上げる秋葉。白蓮の時は何度やっても変化しなかったというのに、どうして今になってできたのだろうか。

 

「あ、秋葉、何かした?」

 

 恐る恐る尋ねてくる悠に、秋葉は咄嗟に首を横に振る。

 

「い、いえ、これと言って特には……。ただキャラの説明してただけなのだけど……」

「というか雰囲気と口調も変わってない?」

「え、そうかしら?」

 

 悠に問われて、眉を顰める秋葉。

 

「ほらそれ!」

「あ、本当ね……」

 

 悠の指摘で、いつもより声色が明るくなっており、且つ口調もお姉さんっぽくなっていることに気づく。


 憑依したら口調と雰囲気まで変わるのかと驚きながら、エルフ耳をつねってみれば、痛みが走った。どうやら本物らしい。

 

「とにかく、憑依成功で良いのかしら……?」

「た、多分……。あ、何ならその腰に差してる短剣が本物か試してみたら?」

「そ、そうね」

 

 悠にそう言われ、左腰に差している短剣へ目を向ける。


 あまりに突然のことだったので、未だに憑依した実感が湧いてこない中、腰にさしてある短剣を手に持つ。柄を持った感じ、金属特有の硬く冷たい手触りを覚える。

 

「えーっと、何か切れるものは……」

「確か冷蔵庫にかぼちゃが入ってたはず。取ってくるよ!」


 悠はそう言うと、真っ先に冷蔵庫へ向かいかぼちゃを取り出し、キッチンで準備を始めた。

 

 秋葉もキッチンへ移動。殺菌した短剣を手に、まな板の上に置かれたかぼちゃへ狙いを定める。


 悠が隣で見守る中、カボチャに向かって垂直に短剣を振り下ろす。直後、特に引っかかることなく、すっと綺麗に真っ二つに割れた。

 

「切れ味も抜群だし、耳も本物。どうやら本当に憑依できたようね」

「おぉ、良かったじゃん!」

 

 微笑みながら話す秋葉に対し、憑依できたことに自分ごとのように喜ぶ悠。これでひとまず、祓式が使えないままというのは防ぐことができた。

 

「けど、まるきり発動条件が分からないのわね……」

「まぁ、それは追々考えたらいいんじゃない?」

「それもそうね」


 今は憑依できたことが一番だ。しかし、この金髪とエルフ耳は現代日本においては少々どころかだいぶ目立つ。


 もう少し違和感のないキャラを作った方が良いだろうと思案するさ中、秋葉は重大なことを思い出す。

 

「憑依できたは良いけど、元に戻るにはどうしたら……」

「あ、ホントだ」

「戻り方が分からないんだったら意味ないじゃない……!」


 その後、憑依解除に悪戦苦闘し、結局解除できたのは、祓力が底を尽きた1時間後。もう戻れないのかと思っていたが、何とか元の姿になれて良かったと秋葉は溜息を吐くのだった。

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