第2章-幕間 新たなる天啓
場所は変わり、白陵伏魔殿。先ほど狗無からの呼び出しがあり、緋霊は狗ノ間へ向かっていた。
年が明けた1月以降、どういうわけか北桜秋葉が守りの堅い愛宕山に入っていたことから、3か月間、天啓が下されることなく時だけが過ぎていた。
祟界の気候は年中変わることは無いが、現世では桜が舞っている頃だろう。
緋霊は廊下を歩いて狗ノ間の前まで来ると、名乗りを上げた。すると大きな鉄扉が開かれ、中に入る。
前回同様、そこには玉座に座る狗無の他に翠霊と蒼霊の姿があった。どうやらこの2人も緋霊と同じく招集されたようだ。
「狗無様、本日はどのような用件で?」
全員が揃ったところで、蒼霊が玉座の方を向いた。それに釣られて緋霊と翠霊も狗無の方へ顔を向ける。
「つい先日、標的に動きがあったと光陰様からの報告があってな。話によると、北桜秋葉が大神学園に入学したらしいのだが、その前日、首領が標的と接触したらしい」
「……何じゃと?」
「それはどういうことです?」
玉座から狗無が告げると、緋霊と蒼霊は即座に反応した。
翠霊の方へチラッと目を向ければ、やはりなと納得した表情を浮かべている。その様子から見るに情報通の翠霊はこの件を既に知っていたようだ。
2人からの疑問に狗無は肩を竦めながら答え始める。
「さぁ、これに関しては我もよく分からん。だが、その気になればいつでも彼奴の首は取れたはずだ。どうせ災厄の際に障害となる者の顔を拝んでおきたかった、とかそういういつもの気まぐれであろう。祟界の首領たるもの、勝手に動かれては困るというのに……」
ため息交じりに話す狗無へ同情したように苦笑いを漏らす緋霊。
緋霊も決して首領に詳しいという訳ではなく、むしろ祟界内でも首領が男なのか女なのか、いつから存在しているのかなど不明な点が多いのだ。
今分かっているのは、数年ごとに頻繫に皮を変えているということと、かなり自由奔放で現世にも度々姿を現しては部下たちを困らせているということだけ。
緋霊は愚か、十二死兆の狗無ですらその正体は知らないらしい。
「まぁ良い。本題はここからよ」
狗無がそう口にした瞬間、狗ノ間内の空気が一変し、緊張感が漂う。
「先の報告と合わせて『天啓』が降りた。緋霊、これをお前に授ける。詳しいことはそこに書かれておる故、後で確かめるように」
「承知しました」
狗無が話す中、緋霊の手元に一巻の巻物が現れる。どうやらこの中に『天啓』の内容が記されているらしい。
緋霊は手に持った巻物を自らの懐へ入れて一礼すると、部屋を後にしようと踵を返す。
「此度の任務が終わるまで2人は手出しするなよ」
「勿論にございます」
「……承知した」
狗無の忠告に蒼霊と翠霊が返事をする。と、蒼霊が部屋から出ようとする緋霊にこう告げた。
「緋霊、今度こそ抜かるなよ」
「ほがなこと言われんでも分かっとるわ」
兄である蒼霊に対して、ぶっきらぼうに返事をした緋霊は狗ノ間を後にするのだった。




