第2章-第6社 授業中の睡魔
土日を挟んで週明けの月曜日。先週、自己紹介と学内のオリエンテーションが終わった後に、急遽交流会が行われることになった。
そこで開かれた質問コーナーで大行列ができてしまい、秋葉とエルは半ば消沈する羽目になったのだ。
だが、そのおかげで少しずつだがクラスメイトとも仲良くなりつつあった。もう中学の頃のようにスタートダッシュが遅れたせいで、交友関係が少なすぎて困るようなこともないだろう。
そして、今は4限目の授業。
大神学園の授業形態は少々特殊で、1限から3限までは普通の高校と変わらず、現代文や数学などの一般課程科目なのだが、4限目では代報者課程科目の授業、5・6限目に代報者として任務をこなすためのスキルを習得する演習授業が続く形になっていた。
教壇に立つ織部の話を聞きながら、秋葉は教科書をめくる。
授業開始から10分。内容的には常から創作をしている秋葉にとって、一般科目の比ではないぐらいに面白いのだが、如何せんお昼時ともなると睡魔が襲い始める。
日差しが窓から照り付けてくるので、窓際の席に座っている秋葉は尚更眠気に襲われていた。ざっと周りを見てみる限り、隣の席の悠を始めとした数人の生徒が船をこいでいる。
「ふわあああ……」
何か創作のネタに使えるものは無いかと、少し先の範囲のページを開いて眺める。そこによると、代報者には階級、祟魔には等級というものがそれぞれあるらしい。
理解しやすいよう表にまとめられた箇所を見ていたら、不意に欠伸がこぼれた。その時、板書を終えた織部がこっちを向く。
(ヤバい当てられる!?)
慌てて今やっている範囲へ戻ろうとページを捲って、身構える秋葉。と、織部が持っていたチョークで秋葉の方を差してきた。
「秋葉の机の上で寝そべっとるそこのマスコット、代報者と祟魔の関係は?」
(なんだエルか……びっくりした……)
自分ではないことに安堵しつつ、紛らわしい位置に寝そべりやがって……とエルを睨みつける。
すると、エルは寝転びながら答え始めた。
「んぇーっと、 祟魔は噂や伝承、負の感情などから生まれる存在で、代報者は神や仏などの天界に属する者たちに仕える存在。代報者は祟魔を祓うのが使命とされている。これでオッケー?」
「……正解や」
教科書で確認してみると、エルが言った通りのことがそっくりそのまま書かれていた。これは中学の教科書でも出ているので仮に充てられていたとしても説明はできただろう。
完璧に当てられた織部は気に食わないといったように次の質問を繰り出す。
「なら、代報者が祟魔を祓う際に使用される3つの力は?」
「1つは祟魔を始めとした霊的存在を視ることができる霊眼。1つは祟魔を祓うのに必要な浄化作用を持った気・祓力。最後はその祓力を用いた異能力・祓式。ここら辺は代報者を目指す者なら誰でも知ってる常識だよ」
(常識ねぇ……)
終業式の日に熾蓮から教わってなかったら、知らずに大神学園へ入学していたことだろう。あの日熾蓮が教えてくれたことには感謝しないといけない。
「もうええわ。授業の邪魔せん程度に好きにせえ」
「はーい」
何を言ってもだらだらするエルを止めることは不可能だと察したようで、織部は再び板書を再開する。
『ねぇ、エル』
『どしたの?』
『そういや私って、祓式持ってるの?』
『そうだね~、今日か明日にでも分かるんじゃない?』
机に寝そべったエルは笑みを浮かべながら念話で返してくる。
(今日か明日にでも分かるってどういうことだ……)
エルの言葉に頭を捻らせていると、板書から戻った織部が真横で頭をがくんがくんさせている悠へ目を向けた。
「ほな、悠」
「は、はいっ!」
急に当てられた悠は勢いよく立ち上がった。その様子に教室か微かに笑い声が聞こえる。
「この2つの空欄に入る省庁組織とその役割を答えてんか」
黒板には観光文化省と宮内庁の間に四角い空欄が書かれており、空欄部分も含めた3つの単語の下にもう1つ空欄が書かれていた。
一気に冴えた目で書かれた組織図を凝視する悠。秋葉を含めたクラスメイトたちが見守る中、悠は唸り声を上げながらも答え始める。
「上の空欄に入るのが祟魔を祓う任務において、依頼を発行する神社省で、下の空欄が対祟魔専門の警察機関・日輪……だと思います」
悠は黒板と睨めっこしながら答える。織部は悠の言った通りに空欄を埋めていく。
悠が答える様子を見ていた秋葉は、彼女が教科書などのカンペなしで回答したことに唖然とする。
と、織部が全て埋め終わったようで秋葉たちの方へ向き直る。
「正解や」
「「「おぉ~!」」」
見事完答した悠にクラスみんなが湧く中、当の本人は当然といったようにドヤ顔をしながら席に着く。
(いや、なんで覚えてんの!? 私なんてそんな組織があったことすら知らなかったんだけど……)
悠の凄さに圧倒されていると、織部が再び秋葉の方を見た。
「ほな、次に秋葉」
「は、はい……」
(うわぁ、来たよ……。どうしよう答えられるかな……)
どんな問題が来るか身構える秋葉。エルもどうなるか気になるようで、じっと視線を向けてくる。
「代報者には11の階級が、祟魔には14の等級が存在する。ほな秋葉、代報者階級の中で1番下の階級は?」
「え、えーっと……巫級代報者です」
ちなみに巫級代報者の次は準宮級・宮級・準真級・真級・準正級・正級・準明級・明級・浄級・特級となるらしい。
「なら、一般的に巫級代報者が祓えるとされている祟魔等級は?」
「拙級と荒級、準烈級の3つ……だと思います」
「全部合うとる。座ってええで」
織部に言われ、秋葉はホッとしたように息を吐いて椅子に腰かける。
ちなみに、先ほど挙げた3つの等級の次は烈級・準惨級・惨級・準凶級・凶級・準厄級・厄級・準怨級・怨級・災級・禍級・祟級となるようだ。
先ほど少し先の範囲を見ておいて良かったと思うと同時に、先の範囲を当てるのはどうなのだろうかと思う秋葉。
と、織部からこれらの階級は追々任務をこなす過程で覚えていけば大丈夫だと補足が入る。流石にこの量を今すぐ暗記できる気はしないので、助かった。
秋葉はペンを持って板書を取っていく。すると、熾蓮が念話を飛ばしてきた。
『よう分かったな』
『あー、創作でよく階級設定したりするから、こういうのだけはすっと覚えられるんだよね』
『確かに秋葉こういうの得意そうやもんな』
『まぁね』
前へ目線をやると、もうそろそろで黒板が板書で埋まりそうになっていた。秋葉は今までの板書が消される前に、急いでノートへ書き写していくのだった。




