異世界転生させたい神とさせたく無い人間の下らない話
久しぶりだから初投稿です
「めっちゃ暇じゃん」神がそう呟いた。
神には上司である大神から数個の世界が与えられる。それぞれがある一定までの文明に至るまで神は世界の手助けをする必要がある。が、その神に与えられた世界は全てその域にまで達する事ができたのだ。
「暇なのは良い事ですよ」天使が言った
「そうなんだけどさ〜こうも何も無いと世界に一つ悪戯でもしたくなってしまう」
「ダメです。大神様に叱られますよ」
「分かってるって」
そう、その神は自分の責務を全うした。つまり仕事も何もなく、天使達とのんびり暮らす事しか出来ない。
「はぁ……何か面白いこと起きないかね」
そう漏らした時。
ビーッ!っと、音が鳴り響く。
「何事だ⁉︎」
「今確認します!……えーっと、魔王ですね」
魔王。それは世界のガン細胞、灰汁、腐敗物。滅茶苦茶な言われ方をしているがその通り、世界が産んでしまったバグのような物。
「魔王⁉︎なーんでまた私の世界に⁉︎」
「あんたが何か面白いこと起きろとか言うからでしょうが!」
「そうかもね!」
この2人を見てると大事無いように見えるだろうが、そんな事はない。大惨事だ。これで世界が滅びよう物なら大神様に文字通り雷を落とされる。
「くっそ!私自ら……」
「ダメです!もうあなたが世界に干渉する事は出来ません!」
「あぁそうか……あそうだ!」
神は何かを思い出したかのように引き出しを漁る。
「よし!あったぞ!」
「なんですかこれ?『非常事態事対処マニュアル』?」
「大神様から配られるんだ。ちな去年に更新されたばかり」
「へー。そこに解決法が?」
「書いてなきゃ終わりでしょうよ……えーと?魔王が現れた時で、自分が手出しできない場合は……ふむふむ」
目次を開けば丁度自分達の求めている答えが書かれている。
「何々?他の世界から救世主を移転させると……難しそうだな」
「先ずは、魔王が現れた世界の性質を調べます……ココはエクセリア、魔法技術に優れた世界ですね」
「調べたらその世界とは真逆の性質を持つ世界を選ぶ、と」
「工業技術に優れるアノルドなんて如何でしょうか?」
「そうだな。では次にその世界の知的生命体の内あまり優れない個体を選出し、魔王の生まれた世界に持って行く」
「なんで優れた個体ではいけないのでしょうか?」
「んー?あまりに優れた個体を持っていくと魔王討伐以上にとんでも無い事態を引き起こしかねないからだと。
例が載ってるな『今から2000年ほど前、自分を信じる人間を癒す才能を持つ者を送り込んだら、その者自体が世界の宗教になってしまい。新たな魔王を産み出した』ってさ。凄い人間もいたものだな」
「へぇーほぼ神様みたいな人ですね」
「まぁ良くて神の子程度だろうがね、そんな事態になっては世界のバランスが崩れてしまうからそれほどの才が無い者を選べという事だろう」
「世界を救う。バランスも崩さない。両方やらなくっちゃいけないのが神様のキツイ所ですね」
「お、そうだな(適当)
で、送る方法は簡単。『事故死に見せかけて殺してから適当にそれっぽい事言って救世主と勘違いさせて魔王を殺させよう。その為に幾つか力を与えても良し、その程度なら見過ごします』ってさ」
「なんか大神様言い方に棘ありませんかね?」
「あの女性格キツイからな……あ、今言ったの内緒ね」
「えー?言っちゃおうかなぁ?」
「やめてね?……ま、早速始めるか。ではやる相手は……あの見るからに幸薄そうな男でいいな」
「事故死させるって書いてますけどどうやります?」
「そうだな。この世界に多い事故は動く鉄による交通事故という物らしい。ではこの大きいトラック……ではなく!ロードローラーだっ!」
神が指を鳴らすとその世界にロードローラーが現れ、その人間を押し潰した。
「よーし、これであの人間がここに……ここに?」
「来ませんねぇ」
神と天使は再びその世界を見下ろす。するとそこには彼を庇い、ロードローラーを片手で受け止める男がいた。
「だ……誰だあいつはぁ⁉︎」
「わかりませんよ!にしてもこの世界にアレを受け止めるだけの力を持つ物など……」
「見ているか神々よ!」
2人は驚いた。その男は我々を認識しているのだ。
「お前達の好きにはさせない!善良なる市民を殺し、自らの駒とし殺し合いをさせるなど言語道断ッ!!」
「……うーん面倒だ仕方がない。じゃあ少し離れたこちらの男を……」
「させん!」
「……じゃああっちの女で」
「許さん!」
「……コイツで」
「何度やろうが変わらんぞ!」
こんなやりとりを残り数百日ほど重ねた頃。
「…………」
「神様?」
神の顔には黒い影が覆われていた。
「……….、……………………。…………………………」
「あ、あの?かみさ……」
「あんのガキィッ!ことごとく私の邪魔をしやがってぇ!」
「ビクッたぁ、キレキレにキレてますね」
「キレるわ!ロードローラー出すのも疲れんだぞ!一応!」
「あそう」
「もういい!あのゲロカスをぶっ殺してやるさ!あぁ殺してやるとも!」
「そうっすね。神に逆らうなんて事自体が自殺志願者みたいなもんですもんね、殺っちゃいましょうや」
神(ほぼ悪魔)が手を挙げる。そして、思い切りの力を込めて手を振り下ろすと天から百を超えるロードローラーが降り注ぐのだ。
謎の男はそれを……
何もせず立ち尽くしていた。
「「……は?」」
2人は驚いた。
奴は死んだのだ。そして、ここに来た。
「君、なんで抵抗しなかったんだ?」
男は笑った。
「それは。今、この瞬間のためだ」
「「……?」」
神と天使には訳がわからない。どの瞬間の為なのか。
「俺はこの場に憧れていた!」
「はえ?」
「さぁ!俺をどこに連れていく?悪か?魔王か?それとも邪教徒か?」
「ちょ、なに言ってるのよ?」
「俺は!俺は英雄になりたい!」
「なるほど」
「だから山にこもり、谷を越え、死の果てを見渡し、人を超える力を得た……が!」
「が?」
「平和なんだよな。あの世界。うん。俺みたいな力だけの人間は英雄なんかにはなれんのだ」
「あーなんかそんな感じしますもんね」
「だから魔王でもなんでもいいから俺に倒させろ!そして俺は英雄として崇められるのだ!」
「……あー。全て理解したわ」
神は分かった。天使はイマイチ分かっていないようだったが、神は進めることにした。
「まぁいいや。君で。これから魔王殺してもらうけどなんか欲しい力とかあるかね?」
「無い!俺はこの力だけでのし上がるのだ!」
「うむ!その心意気や良し!じゃ!行ってこーい!」
神は転移の術を使う。辺りから厳かな光が湧き上がり、男の姿が消えかかる。その瞬間。
「待ちなさい!」
そう、声が聞こえた。
「「「はい?」」」
その場にいた3人が声の方に全員が振り向いた。
そこにいたのは金の髪を靡かせる少女の姿を持つ化け物。大神だった。
「その者」
「俺か?」
「お主は魔王の元へは行けん」
「な、何故だ!」
「儂が行かせんからだ。主は力が強すぎる。死を超えるほどの力、英雄こえて救世主の物だろう。そんな者を送るわけには行かん。だから帰れ」
「は⁉︎待て……」
大神は男の口に手を当てる。
「安心しろ、お前が活躍できる日は来る」
そう言い男を元の世界に送り返したのだ。
「ちょ、ちょっと大神様!どうしてくれるんですか!せっかく魔王倒せそうな奴だったのに!」
「五月蝿いぞ馬鹿神!書いておいただろうが才ある者は送るなと!」
「……え?あいつそんな凄い奴だったんですか?」
「ただの人間が神の力に逆らえるか!馬鹿!」
「草」
「草じゃないぞ!お前ら天使は神のお目付け役に作ったのだ!それなのにコイツと一緒にふざけまくりやがってからに……」
「あー!そんな事よりですよ!勝手に送り返したんですから大神様が代わりの人間探してくれるんですよね⁉︎」
「ん?あぁ。その事なんだが、もう意味ないぞ?」
「「……んえ?」」
神と天使は同じ声を出した。大神はそんな2人に一つの景色を見せる。
それは草一つ生えぬ荒れ果てた大地、辺りには屍が転がっており、正に崩壊した世界と言えるだろう。
「お前達が何百日もかけたからもう魔王に世界が滅ぼされてしもうたわ」
「あらー」
「これは……なんというか……」
「って事でお仕置きな」
「え?ちょっと待っ……」
「待たん!神の怒りじゃ!」
「「痛ーッ!」」
そんなこんなで世界は滅亡。神と天使はお仕置きの雷を落とされた。
次からは気をつける様にと言われ大神は帰り、2人は再び元の日常に戻り、男は戦争で英雄になった。
多分、1番の被害者はこんな神の支配下に置かれた世界の人々なのだろうが、そいつらは全員死んだ。
神と天使は退屈なままで、神が再びこう漏らす。
「はぁ……何か面白いことおきないかね」と。