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元徴用工の謎  作者: やまのしか
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元徴用工の謎⑧

1946年5月中旬になって朝鮮人聯盟は、厚生省に事業主との交渉の斡旋を依頼するが、厚生省側は朝鮮人聯盟を公的団体とはみなさないとして斡旋を拒否した。


このような中で、1946年6月17日に、厚生省労政局給与課長が府県内務部長教育民生部長・東京都民生局勤労部長あてに、給発第56号「朝鮮人其他の外国人労務者の給与等に関する件」を出した。


そこでは「朝鮮人聯盟」は「労働組合」ではなく、法的代理人資格をもっての交渉以外は認められないとし「朝鮮人聯盟」の交渉に応じないように規制を強めた。


同日1946年6月17日、厚生省勤労局長は各地方長官あてに、

勤発第337号「朝鮮人労務者に関する件」を出し、

「朝鮮人雇入事業所名」「入所経路」「朝鮮人名簿」「割当数・雇入数」「終戦時の数」「帰国させた数」「解雇者への処遇」「死亡者・負傷者・逃亡者数」「徴用数」などの報告を求めた。


これは厚生省の側が未払い金の実態について全国調査を試みたものだった。


さらに1946年6月21日には次官通牒、厚労発第36号「朝鮮人、台湾人、中国人労務者の給与等に関する件」を出した。


ここでは1月の厚生省令第2号「昭和20年勅令第542号に基く労務者の就職及従業に関する件」を遵守すること。

司令部覚書の趣旨を鑑み、

「賃金」については省令の趣旨をふまえ1945年11月28日まで遡って実施すること。


「退職手当」については省令の趣旨により、

1945年9月2日まで遡り、その期日以降の退職の場合に実施すること。


これ以前に遡っての実施要求は法令上の根拠がなく不当であり、

将来日本政府への全般的要求となるかもしれないが、

事業主と個々に処理すべきでないこと。


1945年11月27日以前の賃金(除く退職金)及び9月1日以前の退職手当について、

以後のものに比べて低いという理由で差額の要求することは根拠がないばかりか、

不当であること。


「朝鮮人聯盟」などには交渉権限がなく、金銭を集める権限もないが、民法での委任を受けた場合はこの限りではないこと、など「朝鮮人聯盟」の要求への対応について、詳細に指示した。


この通牒によって、政府・厚生省は戦時下の強制労働への賠償要求を「不当」として拒否した。

事業主側はこの通牒による問題解決を狙った。


厚生省は各地での「朝鮮人聯盟」と事業主との交渉に制限を加え、

未払い金についての「供託」を計画していく。


「帰国朝鮮人労務者に対する未払賃金債務等に関する調査統計」

(『経済協力 韓国105 労働省調査 朝鮮人に対する賃金未払債務調』)

において「朝鮮人聯盟」などへの引き渡し金が、

1946年7月以前に数多くおこなわれている理由は、

厚生省のこのような対応によるものである。


1946年7月3日、厚生省労政局給与課長が関係官庁・各種統制団体あてに、

給発第60号「朝鮮人、台湾人及び中国人労務者の給与等に関する件」を出した。


1946年7月11日には、厚生省労政局給与課長が、各県内務部長・教育民生部長あてに、

給発第62号「朝鮮人労務者等の給与等に関する件」をだした。


そこでは「朝鮮人聯盟」は法人格がなく、団体個人の委任がある場合を除き、委任を受けての行動はできないとし、未払い金等は「供託」を予定するとした。


1946年8月27日には、司法省民事局長が厚生省労務局長宛に、

民事発第516号「朝鮮人労務者等に対する未払賃金等に対する未払金等の供託に関する件」を出し「供託」しても差し支えない旨を回答した。


このようにして「朝鮮人聯盟」の要求を拒否し、

未払い金等を供託するようになったのである。

岩手県の朝鮮人聯盟側の要求を受けて岩手県内務部長が6月7日に作成した業務上死亡者に5000円、業務外死亡・業務上障害各2500円などといった調停案は、

このような動きのなかで9月末には白紙撤回を強いられた。


代わりに朝鮮人聯盟維持費の形で寄付金をだすという妥協案が出されたが、

それも全国鉱山会側が拒否した。


厚生省は司法省の了解をとり、各地方からの朝鮮人労務者に関する調査報告を受けながら、

1946年10月に入って「供託」の指示を出した。


1946年10月12日の厚生省労政局長による地方長官宛の、

厚労発第572号「朝鮮人労務者等に対する未払金その他に関する件」である。


この指示では「支払うべき賃金」「退職金」「保管する積立金・貯金・有価証券で支払うべきもの」などを「供託」し、事業主は「供託」が完了したときには地方長官へと報告するものとした。


ここでは、今回「供託」するものは「金銭及有価証券」に限るとし(預金通帳は別途通牒予定)

適法な委任を受けたもの以外の第3者への引渡しは適当でないと記している。


「供託」は別紙「朝鮮人労務者に対する未払金の供託要領」によるとし、

作成用の「未払金処理一覧表」が添付された。


この供託を指示する文書は、内務や司法などの「関係官庁」と統制団体である「日本通運」「日本鉄鋼業経営者聯盟」「日本建設工業統制会」「石炭統制会」「全国鉱山会」「港運協会」「化学工業聯盟」などにも出された。

これらの統制団体は連行朝鮮人を使った団体である。


この指示では預金通帳は別途通牒予定とされていたが、

1947年7月4日に厚生省労働基準局長は貯金局長あてに、

基発第113号「朝鮮人労務者等に対する未返還郵便貯金通牒に関する件」を出して、

郵便貯金通帳ついては原簿所管庁で一括保管することにした。


船員関係では、GHQは以下の覚書による指示を日本政府にだした。

1949年3月17日には「朝鮮人及びその他外国人船員に対する未払金の件」、

8月4日には「外国船員慈恵資金の外国債権者円預金勘定への振り替えの件」、

それにより朝鮮人応徴船員に対する「未払い金」や「扶助金」などは外国債権者円積立勘定に振り替えて日本銀行に預金することになった。


1950年2月28日

「国外居住外国人等に対する債務の弁済のためにする供託の特例に関する政令(政令第22号)」

が公布された。


これにより政令前に供託したものは東京法務局に供託され、

本人または遺族が日本国に居住していれば請求により還付手続きをとるとされた。

また、未供託のものについては政令の規定により速やかに供託することとされた。

軍人軍属関係の未払い金も供託されるようになる。


このような形で朝鮮人の未払い金などの供託がすすめられていったわけであるが、

本人への供託の通知は不十分だった。

また、この供託関係の名簿は日韓会談の中で公表されることはなかった。

供託が「朝鮮人聯盟」の要求に対抗しての政策であり、

韓国政府にも「供託」の全体像は見えないままであった。




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