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第四章

 アト達がリルド村に滞在してから一週間が過ぎようとしていた。


 ティナとミカエルは頭を抱えていた。


 リルド村でワームと戦うことは、アトのレベルアップ目的以外に鉱石狩りによるお金稼ぎ目的もある。


 ところがアトは、ワームを何とか倒せるレベル。


 しかもいくらワームを倒しても一向にステータスが上がらない。


 つまり契約している妖精であるティナの階級も全く上がらない。


 更には、ティナに恩恵を与えているミカエルも階級が全く上がらない状況になっていた。


 本来、冒険者のステータスを更新して冒険者を成長させることで妖精も一緒に成長していく。


 妖精が成長することによって天使も成長していく。


 つまり、妖精と天使が階級を上げるには契約している、もしくは所属している冒険者がステータスアップすることが必須となる。


 妖精と天使は冒険者に依存しているのだ。


「あんたねぇ……」


 ティナが両肩をワナワナと震わせる。


「この辺りのモンスターは基本的に弱いのよ? モンスター最弱とも言われているワームに弱モンスターの代表格であるスライム! こんなのにも頑張らないと勝てないってどういうわけ?」


 フォークにキノコを指したままアトの方に向けてくる。


「僕に聞かれてもなぁ~」


 ポリポリと頭の後ろを掻くアトの姿に、ティナの怒りのボルテージは更に上昇する。


「あんたねぇー」


「もうやめてあげなさい」


 振り上げたキノコをアトに振り下ろそうとするティナをミカエルが制止する。


「私はむしろあなたのステータスが全く上がらないことの方が問題だと考えるわ」


 真面目な顔でミカエルがアトを見つめる。


 ステータスさえ上がれば、雑魚モンスターも倒せるだろう。と付け加えて。


「いくら大器晩成型だからと言っても、ここまで全くステータス更新ができないのは何か異常よ? 今までに何か変わった攻撃を受けたりはしなかった?」


 この言葉にはアトもティナも心当たりがあった。


 アトがこの世界に来てすぐのことだ。


 謎の魔法攻撃をアトは受けて沈黙状態になった。


「なるほどねー」


 その時のことを話すと、ミカエルは少し考えるような仕草をする。


「この世界にはまだまだ私たちが知らない未知の魔法があるはずよ。私たちが知らない状態異常があったとしてもおかしくないわ」


「それって僕がもしかしたら全くステータスが上がらない状態異常にかかっているかもしれないってこと?」


 アトが少し慌てるように聞くと、もしかしたらだけどね。とミカエルが頷いた。


 ティナは、そんなバカな。と言いながらキノコをむぐむぐ食べる。


 しかし、ここまでアトのステータスが上がらないのは、その状態異常が原因かもしれない。とも思っていた。


 このままアトが成長しないということは、アトにとってもチートハーレムを望んでいたために最悪の状況になるし、ティナは自分が成長できないことと同じなので最悪の状況となる。


 ミカエルもこのままではファミリーがアト1人なので最悪の状況になってしまう。


 そこでミカエルは新しいファミリーが必要だと考えていた。


「だからさ、私とティナが今日はこの村であなたの状態異常について聞き込みをしてみるから、今日はアト1人でモンスターと戦ってくれないかな?」


 とミカエルが提案したのは自然の流れだろう。


 こうして今日からは、アトが1人でモンスターと戦ってレベルアップを図ることになった。


 元々戦闘力が0の天使と妖精だから、アトを1人にしても何ら変わらない。


 さらに言えば、大きなファミリーの場合には天使は拠点で待機していることもある。


 そういう意味で言えば、ミカエルがアトの戦いに参加しないのは至極当然のことだと言える。


 しかし契約妖精が一緒に参加しないというのは極めて珍しい。


 それは、戦闘が連続した場合に途中でステータス更新などをして更なる戦力アップをするからだ。


 ミカエルもティナもこの時点で既に、アトのステータス更新はほぼ無意味だと考えるようになっていた。


「私たちは、ステータスが成長しない状態異常があるのかどうかを聞きつつ、私たちのファミリーに入る人がいないか探すわよ」


 ミカエルがティナに言う。


 ティナには悪いけど、新しいファミリーがいないと私の階級が上がらないから。と付け加えて。


 ミカエルが言う通り、ミカエルの階級を上げるにはアト以外のファミリーが必要だ。


 そして、アトのステータスアップをするにはアトが状態異常にかかっているかどうかを確認し、状態異常にかかっているならばその解除方法を探す必要がある。


 ●


「ステータスが上がらない状態異常ぅー?」


 魚屋のおやじが笑いながら言う。


 そんなの聞いたこともない。と。


「ステータスが低下する状態異常ならいくつかあるけれど、そもそも全く成長しない状態異常なんて聞いたことないね」


 魚屋の隣で、怪しい薬品を売っているお姉さんもおやじに同意した。


「それに――」


 更に付け加える。


「天使と妖精だけで行動しているのを見るのも初めてだね。特に天使はモンスターからはもちろんのこと、今のこのご時世では私たち人間からも隠れているもんだよ」


「あぁ。敵対しているファミリーを潰すには、そのファミリーを司ってる天使を倒すのが一番手っ取り早いからな」


 魚屋のおやじも薬品屋のお姉さんに同意する。


「今ファミリー間で戦争が勃発していることを知らないわけじゃないだろう?」


 厳しい声でお姉さんが2人を窘める。


「こんな小さな村じゃファミリー間の戦争どころか、ホームにしているファミリーすらいないけど油断はしねー方がいいなぁ」


 うんうん。とおやじは激しく首を縦に振る。


 きちんと、所属してる冒険者に護衛してもらえ。と最後に付け足した。


『その護衛が役立たずなのよぅ』


 とティナは心の中だけで毒づく。


 2人は魚屋と薬品屋をあとにした。


「確かに私たち2人だけで人間に聞き込みをするのは危険かもしれないわね」


 ミカエルがふいに言う。


「でも、それだと状態異常については聞けなくなりますよ?」


 とティナ。


「そうねぇー。それに新しいファミリー候補を探すことすらできないことになっちゃうわよねぇ」


 結局結論が出ないまま、ティナとミカエルはひとまずファミリー候補を探すことを優先することにした。


 ※


『おかしい……いくら探してもあの者が見つからない……』


 呪術の大魔王が、いかにも怪しい部屋で深く考える。


『儀式に連絡をするか? いや、それでは私の呪術が完璧ではないということに……私の呪術は完璧なはずだ……やはり邪魔する者がいるか……怪しいのは職業……』


 苛立ちを露にしていた呪術の大魔王はいよいよ意を決して儀式の大魔王と会うことに決めたようだ。


 こうして呪術の大魔王は儀式の大魔王がいる場所へと移動を開始した。


『職業が邪魔をする可能性があるとはいえ、その理由は何だ?』


 移動中にも呪術の大魔王は考える。


 しかしその理由がさっぱり分からなかった。


 大魔王は基本的にその関係は同列に扱われる。


 そのため、各大魔王はそれぞれに他の大魔王と友好関係にあったりそこまで友好関係になかったりはするものの、敵対関係にあることはない。


 力がほぼ同じために、戦えば同士討ちしかねないために敵対しないわけだ。


 しかし、大魔王は基本的に同列だが一歩上に名を馳せる大魔王が1人いる。


 それが始祖の大魔王と呼ばれる者だ。


 他のどの大魔王もこの地位を狙っており、職業の大魔王はその筆頭と言える。


 覇権争いで頂点に立ちたいがために、策を弄し他の大魔王とも手を組もうと考えているのだ。


 一方で、他の大魔王よりも格下に見られている大魔王がいる。


 それが誕生の大魔王だ。


 モンスターを生み出す力を持っているが、その力を行使するのにかなりの力を使うため、もはやほとんどの力を使いつくしたと他の大魔王から思われている。


 職業の大魔王はこの誕生の大魔王と駆け引きをしつつ、自分の支配下に置こうと画策中なのである。


 そしてこの呪術の大魔王は、そんな姑息な手段をよく使う職業の大魔王を快く思っておらず、自分の企みを阻止したのではないかと勘繰っているのだ。


 しかしながら、大魔王同士は前述したように基本は同列であり、更には職業の大魔王が呪術の大魔王の企みを阻止する理由が全くないのだ。


『そもそも私の企みを知っているのは儀式だけのはず……』


 呪術の大魔王は基本的に他の大魔王と関係を持たない。


 とても研究熱心であり、とある研究の1つが先ほどから呪術の大魔王が企みと言っているものであり、それは儀式の大魔王との共同研究でもあった。


 そのため、このことを知っているのは儀式の大魔王だけであり、職業の大魔王が知っているはずがないのだ。加えて職業の大魔王がこの研究を阻止したとしても職業の大魔王に何のメリットも生まれない。


 そもそもが呪術の大魔王は大魔王の覇権争いに興味がないためだ。


 つまりは、誰かが阻止して研究を邪魔した可能性よりも、研究そのものが失敗した可能性が高いということだ。


 それを確認するためにも呪術の大魔王は儀式の大魔王に会いに行っているのだった。


 大魔王の世界には今、不穏な空気が流れており、その中心には争いの大魔王と職業の大魔王がいた。


 そして大魔王の覇権争いが後々にアトにまで影響を与えるということを、今は知る由もなくアトは呑気にワームを倒して、鉱石狩りをしているのだった。

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