犯人の顔
少年は成績が良かった。それほど勉強をしてはいなかったが、入学してから一度も、学年1位でなかっことは無い。だがそれには訳があった。それは、彼は見たものを写真のように脳内に記憶できる、写真記憶という能力を持っていたからだった。少年がこの能力に最初に気づいたのは、小学2年の頃である。友人と仮面ライダーのクイズを出しあっていた時、彼の頭の中に「仮面ライダー大図鑑」の見開き1ページが、浮かんでくるのだった。自分よりもマニアであった友人の正答率を考えると、自分の記憶力が人より優れていることが、少年は幼いながら分かった。
そんな彼の能力は成長しても衰えることなく、むしろ良くなった。
「ねえ、なんで〇〇君はそんなに頭が良いの」
学校の帰り道、星さんはそう少年に聞いてきた。彼女は少年に次いで学年2位の成績の才女で、生徒会長でもある。そして、少年はそんな彼女に恋をしている。
「小さい頃から、見た景色をそのまま記憶できるんだよね、写真を撮るように。だから暗記教科は得意かな」
「ふーん。じゃ、どんなに努力しても勝てないや」
彼女は笑いながら言った。笑ってる彼女と目が合ったが、すぐに目を逸らしてしまった。少年の悪い癖だ。
「そんなことないよ。物理は君の方が高いじゃん」
「物理だけよ。しかも1点差」
そんな話をしながら曲がり角で彼らは別れた。少年が右方面、彼女が左方面に家がある。別れた後、少年は2分くらい歩いて人通りの少ない、狭い通路に入った。古い家々と墓地に挟まれた、暗い小道である。2ヶ月に、少年はこの近道を見つけた。その通路を抜けようとしたその時、
バンッ
静かな通路に乾いた音がした。
それは、自然に出る音にしては大きすぎた。少年が、自分が銃で撃たれたと気がついたのは、彼の身体に激痛が走った1秒後ぐらいだった。胸近くから溢れ出る血を抑え、倒れこみながら、少年は横目で後ろを見た。犯人はフードを被っていて顔はよく見えない。かすかに笑っている、と少年は思った。そして、犯人と目が合った直後、その光景を写真記憶した。まるでシャッターを押すように。
「⋯てください。起きてください」
目を開けると、目の前に知らない天井があった。その天井の怖い程の白さは、少年に天国を連想させた。
「もしもし、自分の名前が分かりますか」
左を見ると警察服を着た大柄の男が座ってた。日焼けで肌は褐色になっていた。彼の濃い顔を見て、ここは天国出ない、と少年は確信した。
「自分の名前が分かりますか」
「⋯.〇〇純一」
「記憶に異常はなさそうですね。 お疲れのところ失礼します。私埼玉県警の伊藤清四郎と申します。この度、あなたの殺人未遂事件を担当させていただきます。よろしくお願いします。」
その警察官は早口でそこまで言い終わると少年の目をみた。
「あれ、僕てっきり死んだのかと思ってました」
「そう思うのも無理はありません。奇跡的に銃弾は肩に当たり、大事な神経を避けて貫通したのです。医者は運の良い少年だと言っていました」
そう言われてみれば、右肩を動かすとズキズキと痛む、と少年は思った。
「本題に入るんですが、あなたを撃った犯人がまだみつかっていないんです。あの場所はちょうど、監視カメが無い場所なのでね。まあ、計画的な犯行とみていいでしょう。何か犯人に心あたりはありますか」
少年はあの記憶を思い出した。だが、その記憶はまるで写真のピンボケのようにぶれていた。どうやら犯人は身の丈以上のフードをかぶっている、そして、こちらを見ているということはなんとなく分かった。
「顔は、、、見えなかったです。銃で殺されそうになる関係も理由もないです」
「分かった、なるべく頑張って証拠を見つけるよ。君もまだ安静にするように」
そう言って警察官は部屋から出て行った。
それから2ヶ月の時が経ち、少年の肩の傷もすっかり直った。久しぶりに学校に戻ったが、なんと試験一週間前で、休む暇もなかった。もちろん、一週間で2ヶ月のブランクを取り戻すことはできず、少年の成績は学年で50番まで落ちてしまった。
「いやまさか銃で撃たれるなんてね、日本も意外と怖いなー」
試験が帰ってきたその日の帰り道、少年はいつも通り星さんと話していた。
「そのおかげで成績が下がっちゃた。今回の試験は星さんが一番?」
「そうだよ、繰り上げでね」
笑いながら星さんは目を見て言ったが、少年は目を逸らしてしまった。少年の悪い癖だ。