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番外編1 護衛の心は親心?

王子愛強めの護衛の視点、前後編です。

 俺はローガン・ランフォード。

 来月で二十八になるジェラルド殿下の護衛です。

 それ以前には騎士団に所属していたけど、殿下が三歳の折に実力を見込まれて(少なくとも俺はそう思ってるけど)護衛に抜擢され今に至ります。


 えーっ、俺は声を大にして言いたい!


『うちの坊ちゃんが可愛い!』


 坊ちゃんというのは、つまりジェラルド殿下のことですね、はい!

 仮にも一国の王子様を何で『坊ちゃん』なんて呼んでるのかって?

 殿下がお小さい頃は、護衛というよりも年の離れた兄弟みたいな、遊び相手のような関係性だったのでずっと『坊ちゃん』って呼んでたんですが、この呼び方がなかなか抜けなくて。

 もうさすがに人前で呼ぶことはなくなったけど、心の中では常に坊ちゃん呼びでっす。

 しかも、二人きりの時とかはうっかり呼んじゃうことがあったりして──あれ?俺、もしかしなくても護衛失格じゃねぇ?

 まぁ、でも親になったことがある人なら俺の気持ちは分かると思いますよ!

 子供は大きくなっても子供なんです!

 だから、坊ちゃんは大きくなっても坊ちゃんなんです!


 えっと、何の話でしたっけ?

 あっ、そうそう!

 うちの坊ちゃんが可愛いって話でしょ?

 俺が護衛についた最初の頃は、本当にごく普通のお坊ちゃんでしたよ。

 王族といっても国王陛下の方針で、割と自由に育ってらっしゃった。嫌でもそのうち王族としての責務を果たさなきゃならない時が来ますからね。それを配慮しての事だったんでしょうね。

 たまに王宮へ連れていくウチの悪ガキどもと妙にウマが合ったようで、よく一緒に遊んでましたね。その頃はまだ年相応の子供の顔をしてたかな、うん。

 坊ちゃんの様子が一変したのはさる公爵家のご令嬢と関わりだしてからでした。


「おい、ブス!」


 ひょええぇぇえ──っ!?

 いやぁ~貴様何様王子様ですから、臣下である貴族の令嬢に向かってどんな口をきこうと不敬罪とかで処分されることはないんでしょうけどね。

 女の子に何てこと言うんだ!?と思ってヒヤヒヤしましたよ!相手からしたらいわれのない中傷でしょうよ。彼女は、決してロリコン趣味ではない俺なんかから見ても可愛らしいご令嬢でしたしね。

 普通、女の子が『ブス』なんて言われたら泣いちゃうでしょ?ってか誰ですか、そんな悪い言葉を教えたのは?!

 えっ?ウチの悪ガキどもだって?帰ったら奥さんにチクってやるから覚悟しとけよ!

 いいですか、皆さんこれだけは覚えて帰ってくださいね~。


 女の子の容姿ディスるのダメ、絶対!


 あれ?最近ちょっと太った?とか思っても絶対に口に出しちゃダメですよ!体型に触れていいのは、やせた時だけ!都合が悪い方は全部お口チャックしときましょうね。


 絶対に泣くか怒るかすると思ったのに、驚いたことにそのご令嬢は泣かなかったんですよね。

 それどころかしれっと坊ちゃんの襟の隙間に毛虫草の穂先を落としてた……護衛騎士は見ましたよ。


 ちょっと待って。未来の王子妃様怖いんだけど……。


 いやまぁ、照れちゃって名前すらまともに呼べないばかりか、おバカな呼び方する坊ちゃんが悪いんですけどね、うん。


 ご令嬢の悪口を言って必死に気を引こうとする坊ちゃん。

 そして、その度にご令嬢にやり込められる坊ちゃん。


 そんな関係がもう七、八年続いている。


 控えめに言っても可愛すぎないか?


「殿下は余程イリガール嬢のことが好きなんですねぇ」


 俺がぽつりと呟いたら高速で否定していたけど。


「……なっ!そんな事ある訳ないだろう!あいつは婚約者だから仕方なく話しているだけだからな!」


 ──いやいやいや、分かっておりますとも!


 彼女が他の男と一言でも言葉を交わしているのを見かければ突っかかっていきますもんね。

 このローガン、優秀な彼女に引けを取らないようにと陰でひたすら努力している殿下のお姿も見てきておりますから!

 どんなにいじられても虐められても嫌がらせされても、諦めずに絡んでいくその勇姿──想いを伝えられないからって、ヘタレとかそんな軽い言葉で表すことができるだろうか?いや、できない。(え?できないよね?)

 このローガンだけは分かっております!

 あれは坊ちゃんなりのアピールなんですよね?

 城の廊下ですれ違う時なんかも「おい、ブス!」って言わないと、足止めて貰えないですもんねぇ。

 以前、偶然街中でお会いした時に「ア、アレクサンドラ……」ってちっちゃーい声で呼び止めた時、気付かず行ってしまわれましたからね。坊ちゃんもお忍び用の地味変装してたとは言え、あれは辛い!

 その点!

 悪口や憎まれ口ならば彼のご令嬢は、どんなに小さな声でも聴き逃しませんからね。その代わり十倍くらいになって嫌味や嫌がらせが返ってきますけれども。


「俺は……アレクサンドラに嫌われているんだろうか?」

「……今更な気がしますけど……」

「………なっ」

「まさか『何故だ?』とか仰いませんよねー?毎回毎回『ブス』だの『可愛げがない』だのけなしまくっておいて……ねぇ?」

「うっ……」


 あ、へこんでるへこんでる。ベコベコですね!

 まぁ、あれが悪口だという自覚がなかったら逆にびっくりですけれども。

 坊ちゃんが落ち込む時は、こう何か頭の上にシュンと項垂れた獣耳が見えるみたいなんですよねぇ。ウチの三男と同じですねぇ。ついついヨシヨシと撫でたくなります。


「殿下はイリガール嬢のことをお嫌いだから、いつも憎まれ口を叩いていらっしゃるんですか?」

「きっ!嫌いな訳ではないっ!」

「ほほぅ、ならばお好きということで──?」

「う……婚約者だからな!好きとか嫌いとかではないんだ!」

「あー……もしかしてあれですか?好きな子ほどいじめたくなるってやつ!」


 俺がそう言った瞬間に、ぼぼぼっと坊ちゃんの顔が赤くなる。


「好きな子ほど……好きな……もしかしてアレクサンドラも俺の事を……」


 おおぅ、ミラクルな勘違い。

 俺は、坊ちゃんがご令嬢のことを好きだから悪口やめられないんでしょ?って言いたかったんだよねー、うん。

 ま、坊ちゃんからしたら虐められてるのは自分ですもんね!見事な解釈違いだな、あははー。


「アレクサンドラが俺の事を……」


 真っ赤な顔でブツブツ呟く坊ちゃん、心底天使だと思います!

 我が家のひねくれた悪ガキどもに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですよ!


 正直言って俺にはイリガール嬢の気持ちは分かりませんけどね!

 むしろちょっと苦手というか……。

 見目だけでしたら坊ちゃんと並ぶくらいに綺麗なお顔立ちをされているんですけどね──いつもツンとすましてらっしゃって、何事にも動じない人形のようだというか。

 坊ちゃんに貶されても、ほとんど顔色も変わりませんし。

 ただ、坊ちゃんを虐めている時だけは少し楽しそうに目が笑っている気がしないでもないような……あ、ごめんなさい、やっぱり気のせいかもです!

 好きな子ほどウンタラカンタラというのは、やっぱり坊ちゃんの方ですね!


 だってほら!


 イリガール嬢を前にすると素直になれないところとか。素直に好きと言えないところとか。素直になれないところとか……大切なことなので二回言いました!






「馬子にも衣装とはこのことだな。いつもよりは見れるじゃないか」


 っておーい!

 そこは素直に「綺麗だ」とか「今日のドレスはお前によく似合っているな」とか、褒めるとこでしょーよ!?

 何がどうなってそうなった?!

 エスコート前にご令嬢を目にした時からさんざっぱら「見ろ、ローガン!俺の婚約者は今日も美しいだろう?今日のドレスはあいつの緑の目によく合っているな。今度蒼玉のネックレスでも送るか」って惚気けてらしたのに?!

 何故だ?!

 あ、ちなみに蒼玉というのは、坊ちゃんの瞳に似た色を持つ宝石のことです。

 さすがのイリガール嬢の目も点になってますってば!


 あっ!

 今何かされたか言われたな。

 ご令嬢に何事か耳打ちされた坊ちゃんの目が一瞬見張られて、みるみるうちに目の端に涙が溜まっていく。

 まぁ、いつもの事っちゃいつもの事なんですけどねぇー……ははは。

 いやぁ、平和だなー。






「なぁ、ローガン。マークスに恋愛の相談をされたのだが」


 ふぁっ?!

 マークス殿って、騎士団長(俺の先輩)のご令息じゃないっすか!

 いやそれよりあんた、自分の恋愛もままならないくせに他人の恋愛ごとの相談乗ってんの?!

 いかんいかん。さすがにそのまま口に出したら不敬罪だな。


「マークスはトゥルーラ嬢のことが気になってるらしくてな。できれば仲を取り持ってほしいと言われたのだが、こういうことには経験がなくてどうしたらいいのか……」


 トゥルーラ嬢……聞いたことがある名前だなぁ。誰だっけ?


「はぁ……ちょっと殿下?マークス殿に仲を取り持つように頼まれるほど、そのトゥルーラ嬢やらと親しくしておいでで?イリガール嬢というものがありながら?」

「いやっ!違っ!親しい訳ではないっ!」

「じゃあなぜマークス殿は殿下にそんな相談を持ちかけられたんですか?」

「彼女──ラビア・トゥルーラ嬢はトゥルーラ男爵の庶子で、元々平民として暮らしていたらしい。そのせいか学園に入学してもクラスになかなか馴染めないようで……学園長に生徒会長としても目をかけて欲しいと言われてて……」

「あれま。それで殿下が面倒見ることになったんですね。生徒会って殿下おひとりなんでしたっけ?」


 あーっ、思い出した!

 トゥルーラ嬢って、例のお花畑女か!


 俺は確かに坊ちゃんの護衛でいつも付き従っている訳だけども、常にお側にいられる訳じゃないんだよね。

 その例外のひとつが『学園』という特殊な場所という訳です。

 様々な身分の人間が通う学園内では全ての生徒が平等であるという名目があり、諸々あって目立つ護衛ができない。俺は身体が大きい方だから、いかにも護衛してます感が強くて不適当らしい。かといって、学友として一緒に学園へ通えるような歳でもないですしね。

 代わりに『隠者レミータ』と呼ばれる存在感のうっすい──じゃなくて気配を消すのが得意な影の護衛がしっかりついてますけどね。

 そんな事情もあって、学園内の情報にはやや疎いんだぁ。トゥルーラという名前は護衛の引き継ぎの時に聞いたんだっけ、確か。


「いや……他にも副会長、書記、会計がいるぞ。ちなみにアレクサンドラは書記で、いつもある事ない事色々楽しそうに議事録に記入しているぞ。彼女は『コルフィ』のペンがお気に入りのようでな……」


 その付け足し情報今要るー?いや要らないな。


 ちなみに『コルフィ』というのは有名な文具ブランドですね!

 たかが文具と侮るなかれ。これが庶民には手の届かない高級品なのですよ。ペン一本で庶民が一ヶ月暮らせるくらいするって噂です……まぁ、ただの護衛の俺には縁がありませんけどね!文官達にとってはそこのペンを持っているのがある種のステータスだって聞きますね。

 それと、ある事ない事のない事は書いちゃダメなんじゃないかなー?とか思うけど、イリガール嬢の事だから坊ちゃんへの嫌がらせの一環なんだろうなぁ。

 まぁ、それは痴話喧嘩みたいなものですからね、ひとまず置いておいて。


「殿下はご公務もありますし、お忙しい身ですからねぇ……そのお嬢さんのお世話は他の方にお願いすればいいんじゃないですかねー?」

「俺もそう思って断ろうとしたんだが……トゥルーラ嬢たっての希望らしい」


 ん~……んん~?

 なるほど、なるほど。

 その女は坊ちゃん狙いって事ですよねぇ?


 このお人は、しょっちゅういじってくるどこかのご令嬢に感情のトリガーを完全に握られているせいで、それ以外のそういった好悪の感情や駆け引きに関しては少々鈍いところがあるからなぁ。あぁ、基本的に彼のご令嬢の事しか頭にないってことですよ?

 もうちょい世俗にまみれて人間の汚いところとか、諸々興味を持って知った方がいいと思うんですよねぇ。将来の為政者としても。俺から言うのは面倒くさいから、どこぞのご令嬢様が諭してくんないかなぁ。


「ま、世話と言っても大したことはしてないけどな。授業についての相談やダンスの練習に付き合っているだけだぞ」


 ほらぁー!!

 ほらねー?!

 これ、絶対放っておいたらまずいヤツでしょ──?!


「坊ちゃ──殿下、まさか二人きりではないですよね?」


 あ、内心で坊ちゃんにツッコミまくってたら、ちょっと坊ちゃんって言いかけてしまった!


「ん?大抵マークスかジュリオが一緒だが?」

「はぁ……いいですか?いくらそのお嬢さんに頼まれても〝絶対に〟二人きりになってはいけませんよ?マークス殿やジュリオ殿は別として、殿下には婚約者がいらっしゃるんですからね?いいですか?」


 マークス殿にも許嫁がいるようなことを団長が言ってた気がするんだけど、まぁどうでもいいや。


「だから、二人きりにはなってないと……」

「これからもです!

 くれっぐれも気をつけてくださいねっ!遠い国のことわざで『壁に耳あり障子に目あり』という言葉があります。どこで誰に見られているか分かりませんからね?!『瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず』です!」

「あ、あぁ、もちろんだとも……そ、それはどんな意味なんだ?」

「実際はどうであれ、疑われるようなことはとにかくするな、という諺です!」

「あ、うん……」


 俺が唾を飛ばしながらそう言うと、坊ちゃんはちょっとばかし引きながらも首を縦にコクコクと振った。

 いやいやいや、本当に頼みますよ!ここ大事なところ!


 そもそも、王子には婚約者がいるというのは知らない国民がいないってくらい周知のことなんですよ。それこそお年寄りから幼子まで──下手したら路地裏の猫ちゃんも知ってるくらいです。

 それなのにですよ?

 婚約者のいる男性にわざわざ近寄ってくるなど、まともな思考回路の女であろうはずがない。頭沸いてるよね?よっぽど脳内がお花畑か──もしくは下心ありきに違いない。俺の本能がそう告げている──まぁ、奥さんには「女心のわからないやつ」といつも罵られてはいますけどね、ありがとうございます!


 それからしばらく坊ちゃんは、マークス殿と花畑女が仲良くなれるようにとあれやこれや考えていましたけどね。

 俺は「『人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじまえ』って言葉があるくらいですから、お二人に任せた方がいいですよ」とは釘さしておいたんですけれども。

 友達思いなのは坊ちゃんのいい所なんですけど、そこに付け込まれて大事にならなきゃいいけどなぁ、ハァ……。

 ま、そうは言っても相手の女もただの学生ですし、男爵令嬢と王族じゃ身分が違いすぎますからね。

 いくら坊ちゃんがツンデレとヘタレのダブル属性持ち(M疑惑もあるけれども)とはいえ、男爵令嬢ごときがどうこうすることはできないでしょうね。

 あの公爵令嬢だって、お気に入りの玩具(もちろん坊ちゃんのことですよ!)をみすみす取られるようなヘマはしないはず!





 しかし、事態は俺のお気楽思考とは真逆の方に転がり始めてしまったのだった。




書き直したら、本編の1話より文字数多くなってしまいました。ごめんなさい~(泣)

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